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カリスマの直言

米国の学費高騰にローン大国の影(田代桂子) 大和証券グループ本社取締役常務執行役

2015/8/2

受験生とその親は奨学金なしの第1志望に行くか、奨学金が年間5000ドル受けられる第2志望に行くか、奨学金で学費の負担がゼロになる第3志望に行くか決めなければならないが、可能な限り第1志望に行きたい、行かせたいのは当然である。そうなると、親が拠出できない学費、生活費分については、学生が夏休みを利用して働くのはもちろんのこと、学生本人が借り入れる連邦政府が提供する学生ローン(連邦学生ローン)、家を担保にして親が組む「home equity loan」、親が保証人となる民間学生ローンと借り入れが有利な順で利用することになる。

学費はインフレ以上のペースで値上がりしている上、進学する高校生や学校に入り直す社会人も増えて、学生ローンの残高はリーマン・ショックもお構いなしで増え続けている。学生ローン残高の90%以上を占める連邦学生ローンは民間銀行と違い、景気が悪いからといってクレジット条件を厳しくしなかったため、残高はリーマン・ショック後の2010年ごろに自動車ローンやクレジットローンの残高を抜いてしまったのだ。2015年3月末で学生ローン残高は1兆4000億ドル(約175兆円)、借りている人数は4000万人(18歳以上の6人に1人)となっている。ちなみに自動車ローンの残高は1兆ドル、クレジットローンは9000億ドルだ。

米国の大学では入学試験の結果だけでなく、様々な要因が考慮されるので高校に入学した時から大学進学の戦略を練る必要がある(写真は米ハーバード大ビジネススクールの卒業式)=ロイター

残高が増え続けている要因は、容易に借りられることと、返済の停止、繰り延べが簡単に出来ることが挙げられる。連邦政府が提供するので当然、年齢、進学する学校、学部別でローンの条件を差別する事もできない。MIT(マサチューセッツ工科大学)の工学部に行くのでも地方の大学の哲学部に行くのでも条件が同じである。18歳の若者でも、40歳の職探しのためハクをつけようとしている中年も同様だ。

こうも簡単に借りられると、無理して借りた人も多いに違いない。実際ニューヨーク連銀によると、2014年末に返済が予定通りに進捗している借り入れは全体の37%しかいない。17%がデフォルトか返済が遅延(30日以上)しており、残りの46%は金利しか払っていないのである。

実際の数字はもっと深刻ともいわれている。というのも学生ローンを抱えている人が自己破産を宣言しても学生ローンは消滅しない制度になっているからである。この場合は全額返済のめどもなく、減額された金利分だけを払い続けることになる。

授業料の高騰は、海外から入学希望者が後を絶たない人気の高い大学のみの事象かと思っていたが、それほど評価の高くない大学の授業料ともあまり差がないことから、連邦政府が提供する学生ローンの存在が要因になっていると思われる。今後連邦学生ローンの不良債権化が顕在化し、納税者への負担額が注目されるようになるのではないか。200兆円に迫る残高は結構大きい。

注記)本稿に掲載された意見は公開情報に基づく執筆者個人の見解であり、必ずしも大和証券グループ本社及び同社関連会社の見解を示すものではありません。

田代 桂子(たしろ・けいこ) 大和証券グループ本社取締役常務執行役海外副担当(米州担当)、大和証券キャピタル・マーケッツアメリカホールディングス会長。1963年生まれ。86年早稲田大学政治経済学部政治学科卒、大和証券入社。国際引受部を経て91年スタンフォード大学で経営学修士(MBA)取得。93年大和シンガポール、95年大和ヨーロッパ(ロンドン)、99年大和証券グループ本社経営企画部。2004年IR室長。09年大和証券執行役員、11年大和証券キャピタル・マーケッツ執行役員。13年大和証券グループ本社常務執行役員、14年に生え抜き女性として同社初の取締役に就任、現職。
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