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旭山動物園、坂東元の伝える命

オランウータンの子育てに学ぶ 弟妹生まれ親の自覚

2015/5/19

初めまして、北海道旭川市にある旭山動物園の園長をしている坂東と言います。ヒトと生き物の関わりや、生き物が生きていくことについて、動物園の内外で日々感じたことや考えたことを月一回のペースで綴(つづ)っていきます。よろしくお願いします。

獣医として動物園に勤務するようになって30年目になりました。かねてから強く思ってきたことがあります。

ヒトだけが環境を都合よく作り替え、ヒトだけに通用する価値観を持ち、ヒトがすべての基準であるかのように振る舞っています。ヒトが豊かに、安全に、幸せにを追求し、科学が発展すればするほど他の生き物と生きづらくなり、まるで他の生き物と共に生きられない道を選択し続けているようです。ヒトも生き物です。他の生き物と生きられない生き物が生き残ることはできないのではないかと思います。

ヒトだけが生命観や価値観を時代によって変え、ぶれ続けています。地球上の生き物はずっと変わらずに生き続けています。もしこれからも今までの延長線上ならばヒトという種の未来はどうなるでしょう。今こそ道を踏み外した私たちは、他の生き物たちの生き方に学ばなければいけないのではないでしょうか。

前置きが長くなりました。今回は旭山動物園のボルネオオランウータンを紹介したいと思います。オランウータンは近い将来絶滅が危惧されている種です。

母親のリアン(左)に抱かれた赤ちゃんのモカ。右は兄のモリト(撮影・桜井省司、提供・株式会社LEGiON)

今年2月5日、オランウータンのリアンが第3子を出産しました。7年ぶりの出産です。何で7年も空いたのかと思うかもしれませんが、オランウータン、チンパンジー、ゴリラは5~6年間隔で出産するのが普通です。

排卵はほぼ1カ月に1回とヒトと同じなのですが、出産をすると排卵が止まります。生まれたこどもが自分のことを自分でできるようになるまで止まるのです。目を離していても心配がなくなる頃排卵が始まり、交尾・出産となります。子育てにとても時間をかけるのです。

オランウータンの場合は単独で生活するので、8歳くらいで親離れをした後、一人(オランウータン、チンパンジー、ゴリラはヒトと同じヒト科の動物です。研究者は擬人化ではなく一人二人と数える場合があります)で生活を始めます。

つまり1回は母親の出産に立ち会い、2年くらいは弟か妹と過ごすのです。メスの場合はこの一回の母親の出産に立ち会うこと、育児を共有することが将来自分が母親になるためのとても大切な学習の機会になります。12歳過ぎ位で繁殖年齢となります。

モカはリアンにしがみついて空中散歩を楽しむ(撮影・桜井省司、写真提供:株式会社LEGiON)

飼育下では、本来ならばまだ母親と過ごしている3歳前後で他の動物園に引っ越し、新たな生活を始めることが一般的でした。その理由は、新たな環境になじみやすい(飼育しやすい)、閉鎖環境では2次性徴が始まってからだと雌雄の体格差が大きくオスが圧倒的に強いため思い通りにしようとしがちで事故の危険が大きくペアの形成が難しい、そして何より小さい方が可愛らしい(報道発表で受けがいい)…よく考えると皆人間側の理由でした。

その結果、母親と過ごし弟妹の誕生に立ち会い、子育てを共有し独り立ちする本来の成長過程を踏まないままに大人になるオランウータンが多くなりました。雌雄で飼育しているのに交尾をしない、繁殖しないペアが多くなりました。繁殖しても育児放棄し人工保育になってしまう場合も多くあります。大人になると単独で生活するオランウータンの場合、出産や子育ての学習の機会は母親と過ごしている間の一回の出産に立ち会う時しかありません。

リアンの場合も6歳で当園に来たのですが弟妹ができる前でした。リアン第1子出産の時は生みっぱなしで触ることもできませんでした。介添保育を行いなんとか母親になりました。第2子モリトの出産ではすぐに抱っこしたのですが胎盤の処理(食べてしまう)ができずにへその緒の処置は僕たちで行いました。メスの子の場合は、母親と過ごす時間はとても大切だと改めて思います。

ではオスの子はどうでしょう。大人になって単独で生活し、子育てには一切参加せずメスとの時間は交尾をするくらいしかありません。オス同士の厳しい縄張り争いがあるため、メスと交尾できるようになるには野生下では15歳くらいからになります。

坂東元(ばんどう・げん)1961年旭川市生まれ。酪農学園大学卒業、獣医の資格を得て86年から旭山動物園に勤務。獣医師、飼育展示係として働く。動物の生態を生き生きと見せる「行動展示」のアイデアを次々に実現し、旭山動物園を国内屈指の人気動物園に育てあげた。2009年から旭山動物園長(撮影・桜井省司、提供:株式会社LEGiON)

圧倒的に強いからこそ、オスの子も母親の出産に立ち会い弟妹と過ごす時間が大切なのではないか?そう思っていました。モリトも7歳かなりやんちゃでリアンももてあますことが多くなっていて心配もあったのですが、今回はモリトも同居のまま出産を迎えることとしました。

午後3時無事出産。モリトも興味津々です。羊膜や羊水をリアンと一緒にすすって処理をし、胎盤もリアンと一緒に食べていました。そしてリアンが大事そうに抱えている赤ちゃんにも興味津々でリアンにぴったりと身を寄せて赤ちゃんをのぞき込んでいました。母親の邪魔になるようなことは一切せずとても素直な「いい子」になっていました。「やっぱりそうだったんだ」。

モリトはきっとすばらしいオスになる、そう直感しました。

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