恐竜づくし、福井のローカル線で博物館へ北陸鉄道紀行(下)

北陸新幹線がまだ走っていない福井県内には、のどかな風景を楽しめる鉄道が多い。えちぜん鉄道(えち鉄、福井市)はその典型的な路線だ。京福電気鉄道の福井県内路線を引き継いだ第三セクターで、福井駅を起点に県立恐竜博物館がある勝山市、東尋坊がある坂井市への路線を運営する。同博物館に近い勝山駅まで土曜休日を中心に1日1本運行する「きょうりゅう電車」に乗ってみた。

車内に頭、歯をむき出しに

週末や祝日に運行するえちぜん鉄道のきょうりゅう電車 (福井市)

乗車には利用の2日前までに電話で申し込む必要がある。JR福井駅の東側にあるえち鉄の福井駅の事務室で、予約した時の名前を申し出て、300円の特別券を購入する。卵の形をした特別券と恐竜のペーパークラフトを受け取ると思わず笑みがこぼれた。このほかに乗車券として、恐竜博物館の入場券付きの1日フリーきっぷ(大人2000円)も購入した。帰りも同鉄道の利用を考えると割安になる。

午前9時半すぎ、2両編成の電車がホームにゆっくり入ってきた。外観は白地に青の線のいわゆる「えち鉄」カラーだ。車内に入ると、いつもの電車とは様子が異なる。1両目は窓の上部がジャングルをイメージさせる葉で装飾し、一番前のドア付近には恐竜の頭が陣取っている。高さ1.6メートル、幅0.9メートルあり、大きな口を開けて歯をむき出すなど迫力満点だ。2両目は福井県の恐竜のキャラクターが座席カバーにかかっており、一転穏やかな雰囲気だ。昨年4月から運行を始めた同電車について、えち鉄の広報営業・新規事業開発部の佐々木大二郎部長は「福井から恐竜博物館に向かうお客様の気分を盛り上げてもらうのが狙い」と話す。

定員は80席だが、この日の乗客は約20人。全員が恐竜の頭がある1両目に乗り込んだ。思い思いに座席を確保した後、すぐに恐竜の頭の前で記念撮影が始まった。

午前9時47分に福井駅を出発。すぐに天井からつり下げられたモニターで映像による案内が始まった。「勝山駅到着までの約40分間、恐竜時代にタイプスリップしたような映像、自然あふれる車窓をお楽しみください」とアナウンスが流れた。

進行方向左手に目をやると、北陸新幹線の高架が続いている。2022年度末までには福井を経由して敦賀まで延伸する予定だ。福井駅の高架部分はすでに完成している。現在は地上を走るえち鉄を高架にするため、今秋からは新幹線の高架を使った仮の線路での運行が始まる。将来、新幹線が走る場所をローカル線が先に利用するため、今から鉄道ファンらの注目を集めているという。

300円の特別券を買うと、ペーパークラフトがもらえる

しばらく走って福井市郊外に入ると田園風景が広がる。車内のモニターからは子供向けの恐竜の映像が流れ始めた。以前は大人向けの映画だけだったが、今夏からは子供が楽しめる内容に変えた。博物館の職員がタイムマシンで旅をする設定で、ティラノサウルスなど子供も知っている恐竜が登場する。同じ車両にいた子供たちは食い入るようにして画面を見つめていた。

永平寺口駅(永平寺町)あたりからは九頭竜川がぐっと近づく。曹洞宗大本山・永平寺の最寄り駅だ。京福電鉄の時代には同寺の近くまで支線が延びていたが、現在はバスで向かう。勝山市内に入るころには山も線路に迫るようになり、緑の木々に手が届きそうな感じになる。

全身骨格40体以上、発掘体験も

ティラノサウルスの頭部が置かれたきょうりゅう電車の先頭車両

午前10時半、定刻通り勝山駅に到着した。島根県津和野町から家族3人で訪れた小学2年、藤本海成君(7)は「電車は楽しかった。恐竜の口の中がすごかった」と満足した様子だ。乗客全員が駅前からバスに乗り、10分ほどで恐竜博物館に到着した。

同館は恐竜に関する資料を展示した国内最大の博物館として、2000年に開館した。広大な展示室には40体以上の全身骨格をはじめとする千数百点の標本、生息していた場所を復元したジオラマなど見どころは多い。さらに昨年夏には野外館が誕生。専用バスによるツアー形式で、約2時間かけて化石が発見された地層を間近に見ながら発掘体験をしたり、博物館の研究員から解説を聞いたりできる。こうした取り組みもあり、14年度は過去最高の70万8975人が入場した。北陸新幹線の金沢延伸開業の効果もあり、15年度も好調に推移している。

勝山駅から連絡バスに乗り、福井県立恐竜博物館へ(福井県勝山市)

博物館の隣に今春誕生した「かつやまディノパーク」にも立ち寄った。野外施設である同パークには巨大翼竜のプテラノドン、魚が好物のスピノサウルスなど24頭の実物大の恐竜ロボットが草や木の中で待ち構える。手や口を動かすだけなく、大きな鳴き声を出す恐竜もいて、驚く子供の姿も見られる。広報担当の但川弥生さんは「博物館で骨格標本をみた後、実際にここで恐竜の雰囲気を味わってもらえれば」と話す。

バスで勝山駅に戻った。カフェを併設しており、電車を待つ間アイスコーヒーでのどを潤した。帰りの電車には、えち鉄名物の女性アテンダントが乗車していた。現在は12人が昼間の時間帯の電車に添乗し、きっぷを販売したり、乗客に観光案内したりしている。福井駅までは54分だが、行きは通り過ぎた永平寺に立ち寄るのもいいかもしれない。厳しい修行で知られる同寺の境内に足を踏み入れると、思わず背筋を伸ばしたい気持ちになる。

実物大の動く恐竜モニュメントが並ぶ福井駅前の恐竜広場(福井市)

福井駅に戻ったら、西口にある「恐竜広場」に立ち寄りたい。動く恐竜のモニュメントがあり、観光客の記念撮影スポットになっている。こちらも時折、大きな鳴き声を発する。恐竜づくしの旅を締めくくるにはぴったりだ。

旅の後に佐々木さんに、お薦めの福井観光を聞いた。「1日目に恐竜博物館に行ったならその日は芦原温泉に泊まり、2日目は東尋坊や海水浴に行くのがいいでしょう」。えち鉄には芦原温泉の最寄り駅であるあわら湯のまち駅や海水浴場に近い三国港駅がある。新幹線はなくても十分、鉄道を使った観光が楽しめる。

(福井支局長 石黒和宏)