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 「下の子を産んで仕事を休んでいるのだから、上の子には保育園を退園してもらいます」。埼玉県所沢市が4月、こんな「育休退園」ルールを導入したのをきっかけに、働く親に第2子出産への不安が広がっている。子どもの預け先確保が難しいとなれば、第2子の出産を先送りしたり見送ったりしかねない。働く母親が増える中、産み控えが広がればさらに少子化が進む恐れもある。

 「退園した上の子が保育園に戻れる保証がないと、安心して産休・育休を取れない」と語るのは、所沢市の女性(30)。同市が4月に始めた「2歳以下の認可保育園児の親が出産すると、3カ月後までに退園」のルールに対し、対象の保護者らが6月、行政訴訟を起こした。

保育園児を持つ母親が次の子を出産し、産休に続き育休を取ると、上の子を退園させるルールは育休退園と呼ばれる。昔は多くの自治体が実施していたが「上の子を退園させられるのは困る」との声が増え、2002年の厚生労働省の通知が後押しする形で、一定期間は上の子を退園させない自治体が増えていた。

今年4月に始まった子ども・子育て支援新制度では、保育園の利用は「保育に欠ける」子どもから「保育が必要」な子どもに変更。すでに保育園を利用していて下の子の育休中も継続利用が必要、というケースも当てはまることになり、下の子の育休中でも上の子は保育園にそのまま通える、という流れは担保されたかに見えた。

ところが所沢市は4月、「育休中は家庭での保育が可能。原則として保育が必要な状態には該当しない」とみなして育休退園を一律に導入。6月末で9人が退園、7月末には8人が退園予定だ。

育休退園は所沢市以外にも一部の自治体が実施。例えば神奈川県では6月末時点で平塚、小田原、三浦市など11市町が実施。9市町が0歳から2歳児を対象にしている。

時代に逆行するかのようなこの動きの背景にあるのは、なかなか解消しない待機児童問題だ。所沢市などは、退園で空いた枠に待機児童の入園を想定している。各地の自治体には「今働いている親の子どもが保育園に入れないのに、仕事を休んでいる育休中の親の子どもが通うのは不公平」といった声も届く。

一方で、親が育休中も上の子を保育園に通わせたいと願うのは、一度退園すると入園枠が少ないなかで上の子の再入園が難しく、仕事復帰のめどが立たなくなるからだ。

育休退園を実施する自治体は、育休明けに上の子の入園を申し込む際には、優遇措置を取るとしている。ただ、現実には別の子が入れ替わりで入園しており、空きがなければ元の園に戻れない。3歳と1歳の子を育てる都内の会社員女性(40)は「乳児を抱えて2人分の保育園を探すのは負担が大き過ぎる」と語る。

9年ぶりの出生率低下が注目を集めた14年の人口動態統計。実は出生順位別に見ると、第2子の出生が前年より1万4703人減っており、出生数の減少分の56%を占めた。第2子の産み控えが出生数減少に大きな影響を及ぼしていることがわかる。

一般財団法人「1more Baby応援団」の調査(15年、約3000人)によると、79.6%が理想の子どもの数を2人以上としたが、75%が「第2子の壁」があると回答。働く母親に限ると、壁の原因(複数回答)には64.7%が職場復帰など「仕事への影響」を挙げた。

子の保育園入園を希望する親に「保活コンシェルジュサービス」を提供するマザーネット(大阪市)の上田理恵子社長は昔、育休退園を迫られた経験を持つ。「保活で苦労して、本当は2人欲しいけれど1人であきらめよう、と考える働く母親は多い」。入園の競争率が比較的低いとされる、0歳児枠を目指した計画出産も助言しているという。

育休退園ルールが広がりを見せるかは現段階では不明だ。しかし、働く親が第2子を持つことに不安を抱かせる現状は、第2子出産の壁を厚く高くする。ニッセイ基礎研究所の土堤内昭雄主任研究員は「第2子は第1子と必ず同じ保育園に入れる、といった大胆な政策を打つなど、自治体の首長のリーダーシップが必要だ」と指摘する。

静岡市待機児童園は2歳児までを受け入れている(静岡市駿河区の待機児童園「おひさま」)

静岡市待機児童園は2歳児までを受け入れている(静岡市駿河区の待機児童園「おひさま」)

解決策を講じる自治体もある。静岡市は14年10月、市独自の3園目の「待機児童園」を開いた。認可保育園に入れなかったフルタイム勤務の両親を持つ0歳から2歳の子が対象だ。同市は上の子が2歳児までの場合、育休退園を実施する。職場復帰のときに「預け先が見つからない人の一時的な保育の受け皿として必要」(同市)と市内3カ所に待機児童園を設けた。

第1号の「おひさま」開設には約8800万円を投じ、認可園同様の保育士配置と保育料にした。育休退園した子どもたちも利用する。申し込んだ園が空くまでの利用で「最短で1カ月、長くても年度内にほぼ全員転園できている」(鈴木洋子園長)。

育休退園問題を含め、待機児童解消には保育園の整備が欠かせない。だが政府の見通しでは保育需要は17年度、ピークに。少子化をにらみ「野放図に保育園を増やせない」との声も自治体から漏れる。

明治大学の加藤久和教授は「女性が働き続けやすい環境づくりの手段として保育園を位置づけ、統一ルールを国が定めるべきだ」と話す。「少子化解消や女性活躍の施策があっても、現実に大変な思いをする働く母親が多いと、それを見た若い世代の晩婚化、晩産化がさらに進みかねない」と危惧する。(南優子)

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