しつこい湿疹、夏の肌には亜鉛と「活性型ビタミンD」
湿疹を解決した栄養素とは?
なかなか治らない湿疹に悩まされていませんか。暑い時期は、汗が刺激になって、症状が悪化することがあります。また、入浴中や就寝中に体が温まると、猛烈にかゆくなってかいてしまう……、そんな経験はないでしょうか。
・エアコンなどで空気が乾燥すると、皮膚のかゆみが悪化する
・40代以降、湿疹が出やすくなった
・紫外線が気になるので、極力日光に当たらないようにしている
湿疹やそれに伴うかゆみは、精神的にもつらく、本人にしかわからない苦しみがあるものです。
実は私自身も子どものころから肌が弱く、長いこと湿疹とかゆみに悩まされてきました。入浴後や布団の中に入って体が温まったときなど、猛烈にかゆくなるのです。寝ている間にかいてしまい、朝起きるとすねが血だらけ、という状態に。そんな経緯もあり、医師になってからは、肌を保護する保湿剤や抗酸化剤についてもずっと研究してきました。
そして、分子整合栄養医学の勉強を経て、湿疹には「亜鉛」と「活性型ビタミンD(ビタミンD3)」の不足が影響しているのではないかと考えるようになったのです。
皮膚科で用いられている亜鉛とビタミンDの活性化
亜鉛は昔から皮膚科で「亜鉛華軟膏」などの薬に配合され、かゆみなどを抑える目的で使われてきました。薬の添付文書には、「酸化亜鉛の収れん、消炎、保護、緩和な防腐並びに浸出液吸収性を持ち、更に皮膚軟化性及び皮膚密着性を有する。これらの作用により、痂皮(かひ)を軟化し、肉芽形成・表皮形成を促進させて皮膚疾患を速やかに改善する」と書かれています。つまり、皮膚の再生を促す働きがあるのです。
一方、かゆみを伴う激しい湿疹が特徴的な症状であるアトピー性皮膚炎の治療では、有効な波長の紫外線だけを取り出して照射する治療法が、古くから行われてきました。紫外線には免疫を抑制する作用や炎症を抑える作用があることが分かっています。
紫外線を浴びることにより、体内ではビタミンDが生成されます。人工的に紫外線を当てることで、ビタミンDから変換される活性型ビタミンDが増えれば、皮膚の正常化が期待できます。
私は、昨年から「亜鉛」と「活性型ビタミンD」のサプリメントを一緒に取り始めました。すると、冬以降、湿疹とかゆみが嘘のようになくなったのです。
活性酸素から「亜鉛」で体を守る
ここで、亜鉛と活性型ビタミンDの働きについて、少し詳しく話をしたいと思います。
亜鉛は神経の伝達や細胞分裂、免疫機能など、あらゆる生命活動に関わる酵素の働きを助ける大切なミネラルの一種です。細胞分裂が盛んな組織・臓器に必要とされ、その中には皮膚も含まれます。
このような臓器や組織では、「TCAサイクル」という、エネルギーを生み出すための回路が常に働いています。ところが、エネルギーが作り出されるのと同時に、老化や病気の原因となる活性酸素も生み出しているのです。
活性酸素によるダメージから細胞を守るために、体は自らスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)と呼ばれる抗酸化力の非常に強い酵素を作り出しています。このSODを作る材料になっているのが、亜鉛、鉄、クロムといった必須ミネラルなのです。
亜鉛は外から補う必要がある"必須ミネラル"なのですが、カキなどの貝類に多く含まれるものの、日常的に取る食材にはあまり含まれていません。ですので、どうしても不足しがちです。
皮膚のターンオーバーを促す「活性型ビタミンD」
「活性型ビタミンD」は、ビタミンDが体内で変化したものです。その代表的な働きは、小腸や腎臓での、カルシウムとリンの吸収促進。そのほかに、細胞分裂を起こさせるための信号物質としても働きます。さらに、組織のコラーゲン生成を促し、細胞同士の接着を高めるとされています。そのため、活性型ビタミンDが不足すると、皮膚のターンオーバーが乱れるわけです。
ビタミンDが活性型ビタミンDに変換するには、紫外線を浴びる必要があります。実際に、海外の研究では、潜水艦の乗組員は血中ビタミンD濃度を適切に維持できないという報告(*)があります。また、ビタミンDの体内での合成量は加齢とともに減少していくため、活性型ビタミンDも年齢とともに不足しがちになります。
2013年の国民健康・栄養調査によれば、男性で平均324IU/日、女性で平均276IU/日のビタミンDを摂取しています。男女とも目安量(良好な栄養状態を維持するのに十分な量、200IU/日)を満たしていますが、湿疹の症状があって私のクリニックを訪れる人の血液を調べると、活性型ビタミンDの量が少ない傾向があります。ビタミンDを摂取していても、紫外線を避ける生活をしているため、活性型ビタミンDに変換できていないのだと考えられます。
*aviation, space, and environmental medicine.2005;76(6): 569-575(7).
サプリ+ケアを同時進行していく
亜鉛と活性型ビタミンDの働きを理解していただいたところで、肌トラブルの予防・対策として、サプリメントをどのように活用すればいいかを紹介しましょう。先でも触れたように、亜鉛は不足しがちで、活性型ビタミンDが足りていない方も、決して少なくないという現実があります。
私のクリニックでは皮膚のかゆみに悩まされている方に、亜鉛は1日45~135mgの範囲で、その人ごとに成分量を調整し、1日数回に分けて飲んでもらっています。
ビタミンDについては、残念なことに、わが国で流通しているサプリメントの多くが、活性型ではありません。湿疹を抑える目的でビタミンDを服用するなら、許容上限量を目安(成人1日当たり4000IU)に、数回に分けて取るといいでしょう。
前述した通り、ビタミンDを活性型に変えるには、紫外線に当たらないといけません。ちなみに、東京都内で肌の露出度が10%(顔や腕を露出する程度)の場合、直射日光を30分浴びると、700~800IUの活性型ビタミンDが生成されるといわれています。
活性型ビタミンDの利用は医療機関に相談を
とはいえ、紫外線はシミやシワなど老化を促進させる要因。皮膚トラブルの悪化を恐れて、「なるべく日に当たりたくない」と日差しを避ける人であれば、ビタミンDではなく活性型ビタミンDの活用を検討してもいいでしょう。私のクリニックでは、成人でしたら活性型ビタミンDを4000IU/日を目安に使ってもらっています。
ちなみに、国内では活性型ビタミンDは、骨粗しょう症治療のために医療用医薬品としても使われています。もし、活性型ビタミンDを使ってみたい場合は、医師に相談をしてみるのも手です。
私のクリニックを訪れる湿疹に悩む患者さんに、亜鉛と活性型ビタミンDを処方すると、みるみる症状が良くなっていきます。「ずっと治らなかった湿疹が良くなった」と患者さんたちから喜んでもらえています。
ところで、皮膚のかゆみを改善していくために、忘れてはいけないのは日常の肌のケアです。入浴する際、ボディソープをたっぷりつけたナイロンタオルでごしごし洗うと、皮脂を落とし過ぎてしまいます。石けんを付けて洗うのはわきの下や陰部、足の裏だけで充分だと思います。汚れはお湯だけでもきれいに落とすことができますから、天然の保湿成分である皮脂を落とし過ぎないように気を付けることも、湿疹を抑えるためには効果があります。
(まとめ:柳本 操=フリーライター)
松倉知之(まつくら ともゆき)
松倉クリニック&メディカルスパ(東京都渋谷区)院長・医師
1962年東京生まれ。1988年北里大学医学部卒業、同大形成外科勤務。99年より現職。ボトックス、ブルーピール、レチノイン酸などを日本に導入したことで知られる。一人ひとりの患者に結果の出る最良の治療法を提示することを信条とする。日本形成外科学会・日本美容外科学会・日本整形外科学会・国際形成外科学会専門医、医学博士。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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