2015/9/4

日経マネー 特集セレクト

売り手の論理に惑わされるな

塚:そもそも保険というのは「頻度は高くないけれど、いざ発生した時に家計を揺るがす経済的な損失」に備えるものですからね。そういう意味で、「日帰りでも入院給付金が出ます」とか「入院1日目から給付金が出ます」といった医療保険は、本来の趣旨から外れたものと言わざるを得ません。

藤:それ、元をたどると通販保険なんですよね。例えば入院5日目から入院給付金が出る保険の場合、コールセンターに顧客から「3日間入院したのに、どうして保険金が下りないの」といったクレームがどっと来る。ならばいっそ入院1日目から出してしまおう、となるわけです。顧客のためというよりは、売る側の論理。

つかはら・さとし 労働組合シンクタンク「生活経済研究所長野」事務局長。CFP。医療施設を含む全国の労働組合を対象に、年間200回以上の講演を行う。家計の見直しセミナーも開催。日経マネー誌で「男の家計改善」を好評連載中 (写真:大高和康)

塚:それを「入院1日目から出る」とありがたがって加入するのは、いかがなものか。

藤:保険を選ぶ際は、入院日額や保険料の安さなど分かりやすい部分に目が行きがちですが、実際はそれ以外の方が重要だったりしますよね。

例えば、手術給付金の内容や、途中解約した場合の解約返戻金がどれくらいあるか。保障内容以外でも、期限のある定期型よりは一生涯保障が続く終身型が、保険料は終身払いよりも短期払いの方がいいとかね。

塚:終身型医療保険への加入を考えるなら、保険料の総額を計算してみることをお薦めします。保険内容や特約を選び、年間の保険料に払込年数をかけて、それがいくらの買い物になるのかを確認するんです。日額5000円の終身医療保険なら、大抵は軽自動車1台分くらいの金額にはなるはずです。

それに対して、どういう保険サービスが受けられるのかを見る。とりわけチェックすべきは1入院当たりの支払い限度日数です。終身医療保険に加入するのは、老後の医療保障を確保したいからですよね。

先ほど平均入院日数が34.3日と言いましたが、75歳以上の患者に限れば50.2日と一気に延びます。精神及び行動の障害に至っては、入院が296.1日にもなります。

藤:保険料を総額で見ることは大切ですね。保険を売る立場からすれば、「1日当たりたったのコーヒー1杯分です」とか、なるべく短い期間の保険料を提示して割安なイメージを与えたいものなんです。行動経済学的にも、その方が契約への心理的なハードルが下がるとされていますから。(次回に続く)

(日経マネー 森田聡子)

[日経マネー2015年9月号の記事を再構成]

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