いつも妻を見守っている紳士な鳥とコスタリカの国鳥
コスタリカ 昆虫中心生活
「ステーションの建物の横の木に、可憐な鳥が巣を作っているよ」
モンテベルデ・バイオロジカルステーションの従業員のおばさんが教えてくれた。
さっそく行ってみると、目が覚めるほど鮮やかな鳥がいた。
アオボウシミドリフウキンチョウという、コスタリカとパナマ西部だけに生息している鳥。和名の通り、青い帽子をかぶっていて、オスは、帽子の下と胸の辺りが鮮やかな黄色に彩られている。
ぼくはコウテイペンギン以外の鳥にあまり興味を持たないのだが、この鳥には惹かれ、さっそくカメラを構え、観察を始めた。
巣は、幹から枝が出ているちょうど付け根に、少しぶら下がるような状態で作られていた。コケや地衣類などの着生植物を集めて編み込んだのか、周囲の木の表面に同化している。
巣作りはオスとメスとの共同作業。つがいは一緒に巣の素材探しに出かけ、一緒に戻ってくる。そして当然、一緒に巣に入るかと思いきや、オスは手前でスルッとひるがえり、近くの枝にとまった。メスの巣作り作業を待っているようだ。オスは、メスが巣に入るまでの安全確認、ボディーガードをしているのかもしれない。
メスは作業を終えると、オスと入れ替わって近くの枝で待つ。オスが作業を終え、また2羽が一緒になると、森のどこかへと飛び立っていく。1~2分すると、また一緒に戻って来てオスがメスを巣の入り口前までエスコートする。
メスを見守るジェントルマン。見習わないと・・・(笑)
観察していると、すぐ横の建物のベランダの下に、ほかの鳥の巣があることに気付いた。こちらは、お椀型をしている。
ベランダの下にいたのは、ジグイロと呼ばれているコスタリカの国鳥だ!
こんなところに巣を作るなんて、日本のツバメのようだ。
こちらの巣もコケ系の植物素材でできているようなのだが、大き目の草(ツユクサの仲間)が生け花風に飾られていて、笑ってしまった。逆に目立ってしまわないのだろうか?
この鳥の和名はバフムジツグミ。さきほどのアオボウシミドリフウキンチョウに比べればずいぶん地味だが、コスタリカのほぼ全土で比較的よく見かけられ、人々の生活空間に溶け込んでいる鳥である。国鳥に選ばれた理由は、この鳥が奏でる美しいさえずりにあるそうだ。
毎年3月から6月にかけて、朝から夕方までこの鳥のさえずりを聴くことができる。「バフムジツグミは雨季の到来をコスタリカのみんなに知らせてくれる」のだという。
母親(メス)がいない間に2階のベランダに上がって、板の隙間から巣を覗いてみると、かえったばかりのヒナ1羽と卵が見えた。戻ってきた母親は、くちばしにイモムシをくわえていた。
話によると、このバイオロジカルステーション本棟が建てられて24年間、毎年、バフムジツグミの巣を見かけているという。ヒナが巣立っていくと、別のバフムジツグミがやってきて、巣を再利用するそうだ。
バフムジツグミについて、鳥に詳しいMarvin HidalgoさんとAiko Kenmochiさんから情報をいただきました。
1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学でチョウやガの生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[Webナショジオ 2014年7月15日付の記事を再構成]
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