ライフコラム

ヒット総研の視点

「女性活躍の見える化」 法律で義務化のインパクト 日経BPヒット総研所長 麓幸子

2015/7/30

日経BPヒット総合研究所

エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を斬るコラム「ヒットのひみつ」。いまを象徴するキーワードから、話題の理由、面白いワケなど、「ひみつ」を明らかにします。今回のキーワードは「女性活躍推進法案」です。これについて、企業のトップは何を知っておくべきなのでしょうか。

2015年6月4日に衆議院本会議で全会一致で可決された「女性活躍推進法案」は、今国会で成立の見込みだが、今回はこの法案に関して企業トップが知っておくべきことをまとめたい。

■市場原理そのものがインセンティブに

この法律の要諦は、企業の「女性活躍の見える化」である。同法では、従業員数301人以上の企業に対して、事業主行動計画の作成と公表を義務づける(300人以下は努力義務)。301人以上の企業は1万5000社ほどあるといわれている。多くの企業にとって行動計画の作成は「自分ごと」となる。

行動計画策定のためには自社の状況把握と課題の分析が重要となる。状況を把握するための必須項目は、(1)女性採用比率、(2)勤続年数の男女差、(3)労働時間の状況、(4)女性管理職比率だ。

「各社で共通の課題となりうるものを上げている。女性を採用しているか、男性と比べ女性だけが辞めていないか、長時間労働になっていないか、女性が管理職として登用されているか。必須4項目で状況を把握し自社の課題を分析したうえで、課題に即した行動計画を策定していただきたい」と厚生労働省雇用均等政策課長の小林洋子氏。

行動計画の必須項目は、(1)目標(数値目標)、(2)取組内容、(3)実施時期、(4)計画期間である。策定した行動計画は、行政機関(各労働局)に届け、さらに企業のWebサイトなどで外部に公表することが義務づけられる。法案が成立すると、平成28年(2016年)4月1日から施行される(10年の時限立法)。

そのことは知っていても、その日までに策定した行動計画の届け出と公表が終わっていなければいけないということを知らない人は多いのではないか。つまり、あと8カ月の間に、301人以上の企業はみな、それを求められることになる。まさに「女性活躍、待ったナシ」の状態である。

同法には罰則規定がないため、実効性を危ぶむ声も一方ではあるが、このステークホルダーへの「見える化」という仕組みそのものが、いい動機づけとなろう。

「女性活躍を見える化することで、先進企業は、女子学生が就職先として選んでもらえるようになる。また投資家が投資先を選ぶときにも優位になる。そういう市場原理そのものが女性活躍推進のインセンティブとなるだろう」(小林課長)。子育て支援の取り組みを認定する「くるみん」制度のような、女性活躍企業の認定制度の導入も予定されているという。

■大手ゼネコン初の女性ダイバーシティ推進室長

大手ゼネコン初のダイバーシティ推進室の女性室長になった清水建設の西岡真帆氏は土木技術職出身

新法成立をにらんで、企業の女性活躍推進は加速化しているように思う。いや、正確には加速化している企業とそうでない企業に二極化しているというべきか。

「日経WOMAN 企業の女性活用度調査2015報告書」によると、「女性活躍のための組織・プロジェクトがある」と回答した企業は、2014年より10.7ポイントも増加して、53.6%と過半数を超えた。経営トップが社内外に女性活用ビジョンを明言している企業は54.0%。これも2014年より約8ポイントアップしている。

女性管理職人数/比率の数値目標は46.6%の企業が設定している。さらに研修内容も進化し、マネジメント層への女性活躍推進のための研修は41.4%、女性管理職候補を対象とした研修も45.5%の企業が実施している。

2009年に専門組織「ダイバーシティ推進室」を人事部内に立ち上げた清水建設では、この6月に初の女性室長が誕生した。西岡真帆氏である。ダイバーシティ推進室の女性室長は大手ゼネコンでは初だという。西岡氏は1995年に入社以来一貫して建設現場を含む土木技術の分野で働いていたが、昨年経営企画部に配属されコーポレート企画室課長を経て、4代目の室長に就任した。

土木技術職出身で、現場のこともよく理解している女性室長としてダイバーシティ推進の舵を切る。「女性管理職数を2019年には、2014年から倍増すること」を目標とする同社は、今年度から新任役職者対象にダイバーシティ研修を実施している。さらに女性人材の育成に熱心な管理職を表彰する「イクボスアワード」を開催したり、新たな仕組みを導入して男性管理職の意識変容に注力している。

現場での西岡氏

■企業トップが「ダイバーシティ宣言」

一方、2014年10月にダイバーシティ推進組織を立ち上げたアスクルの迅速な展開は目を見張る。

人事部内にダイバーシティ推進室を新設し、女性管理職とスタッフの2名で活動の準備を着々と進めてきたが、この3月には同本社内でキックオフイベントを開催。岩田彰一郎社長が「アスクル ダイバーシティ宣言」を行い、「Diversity for Vitality(ダイバーシティ・フォー・バイタリティ)」のスローガンのもと、積極的な取り組みをスタートさせた。

2015年3月に社内でキックオフイベントを開催し、「ダイバーシティ宣言」をするアスクル岩田社長
スピーディにダイバーシティ推進を進めるアスクル人事統括部長の新井氏

経営のコミットメントによるステアリングコミッティと社内から手上げ式で集まったメンバーによるタスクフォースチームを設置、多様な人材育成、多様な働き方促進、組織風土醸成など、6つの分科会から出た30もの提案を実現に向けて検討中である。

人事統括部長の新井久美子氏は「半年かけて現行の仕組み・制度を見直してきた。今後、採用、教育・育成、配置、評価などの人材開発と組織開発両面で、ダイバーシティ推進に必要なものを最優先で実施していく」と語る。

女性活躍の取り組みを進化・加速させる企業の一方で、課題が山積して何から手をつけていいか分からないと悩む企業担当者も多い。2016年春に予定される、女性活躍の見える化によって、働き手や消費者、そして投資家などにより選ばれる存在になれるのか、はたまた逆になってしまうのか。企業は岐路に立っている。

麓幸子(ふもと・さちこ)
日経BPヒット総合研究所長・執行役員。日経BP生活情報グループ統括補佐。筑波大学卒業後、1984年日経BP社入社。1988年日経ウーマン創刊メンバーとなる。2006年日経ウーマン編集長、2012年同発行人。2014年より現職。同年、法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。筑波大学非常勤講師(キャリアデザイン論・ジャーナリズム論)。内閣府調査研究企画委員、林野庁有識者委員、経団連21世紀政策研究所研究委員などを歴任。経産省「ダイバーシティ経営企業100選」サポーター。所属学会:日本労務学会、日本キャリアデザイン学会他。2児の母。編著書に『なぜ、あの会社は女性管理職が順調に増えているのか』『なぜ、女性が活躍する組織は強いのか?』(ともに日経BP社)、『企業力を高める~女性の活躍推進と働き方改革』(共著、経団連出版)、『就活生の親が今、知っておくべきこと』(日経新聞出版社)などがある。
[参考]日経BP社は2015年8月5日、ダイバーシティマネジメントに関するセミナー「女性が活躍する組織づくり講座」の無料説明会を開催する。同セミナーは、女性活躍推進に効果的な行動計画を策定する問題解決型プログラム。説明会では、日経WOMAN元編集長の麓幸子の講演のほか、先進企業の事例を紹介する。詳細はhttp://www.nikkeibpm.co.jp/hit/

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