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暮らしの知恵

若者にじわりと広がるマルチ商法

2015/7/22

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顧客を引き込み連鎖的に販売網を広げる、マルチ取引に関する相談が20代に広がっている。若者が頻繁に利用するインターネットの交流サイト(SNS)を入り口にした勧誘が増えている。また、ネットには新規客を紹介すると少額の特典をもらえるサービスがあふれており、「人を紹介すること」に慣れ親しんだ若者が無自覚に被害を広げている側面があるようだ。

1月27日、日本学生支援機構は大学の教職員向けに、悪徳商法被害をテーマにセミナーを開いた(江東区の東京国際交流館)

大学生のAさんは外国為替証拠金(FX)取引の自動売買ソフトを買う100万円の契約をしてしまい、消費生活センターに解約を相談した。SNSで知り合った友人から「飲みに行かない?」とメッセージが来たのがきっかけ。興味半分に行くと、彼の先輩と名乗る人物が現れた。海外で運用するFXの自動売買ソフトが買い得だと勧められ、根負けして消費者金融で借りて、支払ってしまった。

国民生活センターに2014年度に寄せられたマルチ取引の相談件数は、20代が3850件と全世代の32%を占め、突出している。10年度は2609件、22%だったから、4年間で10ポイント高まった。

20代女性のBさんは、SNSで豪勢な生活ぶりを披露する女性の投稿を読み、どうすればそんなにもうけられるのかと連絡をとった。会おうと言われ出向くと、待っていたのは本人ともう一人。20万円を払えば教えると勧められ、誰かに紹介すればあなたも高額な報酬を得られると説明を受けた。結局、受け取ったのはビデオメールと、ライブ会議に参加する権利。クーリングオフを申し出ても解約に応じなかった。

青少年のネット利用を指導する兵庫県立大学の竹内和雄准教授は「若年層はネット上の情報を信用し過ぎてしまう」と話す。竹内さんが中高生に「ネットに載っている情報を君は何を根拠に信じるか」と尋ねると、「口コミ情報だから信じる」という答えが目立つという。個人が語っている形の意見を純粋に評価し、疑わないという心理が働くらしい。

Bさんが相手にした女性のように、動画サイトで頻繁に「もうかった」と個人の名前で投稿し、稼ぎの秘密を教えるなどとしてサイトへ誘導するのが実は業者だったという手口は多い。

若者の心理を研究する明星大学の高塚雄介教授によると、ネットを活用したビジネスで巨額の金を稼ぐネオヒルズ族と呼ばれる人々に憧れ、自分も手っ取り早く稼ぎたいと考える若者が増えているという。「心のすきを突かれ、自分の才覚次第でもうけられると思い込まされている」。被害相談を受ける大迫恵美子弁護士は「ネオヒルズ族と呼ばれる人物の言葉を勧誘の文句に取り入れ、絶対にもうかると思わせて投資用教材を売るマルチまがい商法もある」と話す。

20代の男性、Cさんは空気清浄機や浄水器など一そろいを65万円で契約した。友人ほしさに始めたSNSに「あなたのプロフィルを見て気になった」とメッセージがきた。会ってみると「夢を探す人の手助けをしている人に会わないか。仲間ができるよ」と誘われ、セミナーに連れて行かれた。高い金額に不安はあったが「買う人を紹介すればあなたに収入が入るから大丈夫」と言われた。

面識のない人からのSNSのメッセージ1本で、簡単に会ってしまうのはなぜか。三菱総合研究所の福島直央研究員は「若者の中にはSNSで面識のない相手を簡単に友達として承認してしまう人が多い。日常からメッセージをやりとりしていると、相手をもう良く知った人物だと思い込んでしまう」という。

高塚教授は「通販サイトやアプリで新規客として友人らを紹介すると、自分にも友人にもポイントをもらえるといったサービスが多い」ことがマルチ取引を広げるのにつながっていると指摘する。友人を紹介するのに抵抗感なく慣れ過ぎてしまうと、知らず知らずのうちに被害を深刻にする片棒を担いでしまうことになる。

SNSで会おうと誘われたり、激しい勧誘をされたりしたらどうするのか。

三菱総合研究所の福島直央研究員は「会う前に相手の学校名や勤め先を確認できるか。会うなら一人でなく冷静に眺められる親しい友人と一緒に行く。また個室を避けて会う」と忠告する。

国民生活センターの小池輝明さんは「契約する気がなければ、やりませんと言葉にして断る。身の丈に合わない借金は決してしないこと」と言う。少しでも不安になったら、最寄りの消費生活センターにつながる相談ダイヤル「188」がある。クーリングオフの手続きなどを案内している。

ネット通販や課金トラブルが増える一方で、民法の親権者同意が必要でなくなる年齢の20歳以上から18歳以上への引き下げが検討されている。竹内和雄兵庫県立大准教授は「スマートフォンやネットのリテラシー教育とともに、より早い段階での消費者教育を広くする必要性がある」という。

1月には学生生活の支援をする日本学生支援機構が、悪徳商法の現状と対策セミナーを大学教職員向けに東京で開いた。31日にはSNSのトラブル防止セミナーを開く。

(小柳優太)

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