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「空港」と「飛行場」、何がどう違う?

2015/7/22

夏休みシーズンがやってきた。帰省や旅行で飛行機を使うひとも多いのでは。飛行機が発着する場所を普段我々は何気なく「空港」と呼んでいるが、実は正式には「飛行場」という名称の施設も結構ある。両者の違いはどこにあるのか。調べるとその答えは空港整備の歴史の中にあった。

2010年に供用を開始した茨城空港(茨城県小美玉市)。実は国土交通省の登録名は「百里飛行場」となっている。茨城空港を所管する茨城県空港対策課によると航空自衛隊の百里飛行場を共用化するにあたって、利用者になじみやすいよう愛称としての呼称を一般公募。「特に○○空港とするという縛りはなかったが、結局集まった候補の多くが空港という名称だった」(同課)という。呼称変更については国交省にも相談したが、特に「空港」と名付けることに問題はなく、結局「茨城空港」に決めたという。

■「米子鬼太郎空港」と「美保飛行場」は同じ施設

羽田空港(東京都大田区)の登録名称は「東京国際空港」。しかし、戦前は『東京飛行場』だった

 茨城空港以外にも鳥取県境港市の米子鬼太郎空港は「美保飛行場」が国交省の登録名、というように飛行場が「正式名称」の空港が全国にたくさんある。登録名の「空港」と「飛行場」、なにか違いはあるのだろうか。

国交省のホームページでは全国の空港を管理者と規模によって分類し、(1)成田国際空港など民間企業が管理する「会社管理空港」(2)国交省が管理する「国管理空港」(3)地方自治体が管理する「地方管理空港」(4)国交省や地方自治体が管理しているが規模が小さいため上記に含まれない「その他の空港」(5)自衛隊と共用しており防衛省が管理する「共用空港」――としている。

このうち「その他の空港」と「共用空港」に分類されるものは登録名が「○○飛行場」とされている。なぜこれらは「空港」という名前で登録されなかったのだろう。

現在、空港の設置などについて定めているのは空港法だ。同法は第2条に「この法律において『空港』とは公共の用に供する飛行場をいう」とある。つまり航空機の発着場の総称が「飛行場」で、そのうち公共の用に供するものが「空港」ということだ。「公共の用に供する」とは誰でも繰り返し利用できる、という意味なので定期便が就航していれば「公共の用に供している」といえる。しかし、始めに紹介した飛行場は定期便があるにもかかわらず「飛行場」で登録されているので、この条文はあまり参考にならない。

空港法をいくら見ても飛行場と空港の違いがわからなかったが、実は空港法の前身である空港整備法にヒントがあった。

空港整備法が施行されたのは1956年。終戦後、米軍に接収されていた全国の飛行場が日本に返還され始めたころだ。現行の空港法第2条では「この法律において『空港』とは公共の用に供する飛行場をいう」とあるだけだったが、空港整備法第2条では「この法律で『空港』とは主として航空運送の用に供する公共用飛行場であって、次に掲げるものをいう」として第1種空港、第2種空港、第3種空港という分類と結びつけられていた。この第1種、第2種、第3種というのは現在の会社管理空港、国管理空港、地方管理空港におよそ一致する。

■戦前はみんな「飛行場」だった

実は戦前、日本に空港という名の施設はなく、東京国際空港は「東京飛行場」、大阪国際空港は「大阪第2飛行場」などすべて飛行場という名称だった。それが戦後、米軍の接収を経て運輸省(現国交省)の所管になった時、管理や費用の負担などについて定めるため多くの飛行場が空港整備法の第1種~第3種空港に分類され「○○空港」に改称された。

しかし、滑走路の長さが1200メートル未満か、あるいは定期便が就航していない規模の小さな飛行場や旧日本軍の基地だった飛行場、近隣に他に第1種~第3種空港がある場合は空港整備法第2条の対象外となり、戦前の「○○飛行場」という名称のまま取り残された。百里飛行場や美保飛行場、調布飛行場(東京都調布市)など、このとき「空港」になれなかった飛行場が今も「○○飛行場」という名称で登録されているというわけだ。

調布飛行場(東京都調布市)は、伊豆大島などとの定期便が就航しているが、「飛行場」と名乗り続けている

名古屋飛行場(愛知県豊山町)に至っては戦後第2種空港に登録されたので「名古屋空港」と改称したにもかかわらず、より規模の大きな中部国際空港が同じ愛知県内にできたときに第2種空港から外されてしまったため、登録名を飛行場に戻したという経緯がある。愛知県の担当者によると「『飛行場』にしなければならないという決まりはなかったが、『その他の空港』に入るほかの施設がみな『飛行場』だったので合わせた」という。

日本に「空港」ができたのは戦後だったが、「空港」ということば自体は戦前からあった。古くは1932年刊行の「現代語大辞典」にエアポートを空港とする解説が写真付きでみられる。

しかし、その当時の新聞では「飛行場」「空港」を区別しておらず、違いはみられない。東京飛行場を出発した民間航空機が空中衝突事故を起こした38年、当時の東京朝日新聞は原稿の中では「羽田飛行場」としているが、見出しでは「羽田空港初の惨事」と書いている。その前年の中外商業新報(現日本経済新聞)でも米国で発生したドイツの飛行船の墜落事故を報じる記事で原稿中は「レークハースト飛行場」としながら見出しでは「レークハースト空港」と打っており、飛行場と空港を同じことばとして使っている。

戦前は飛行場と空港に違いはなかったが、戦後、空港整備法によって「空港」が「飛行場」から区別されたことによって、規模の大きな「空港」と小さな「飛行場」というイメージが醸成されていったようだ。

国交省航空ネットワーク企画課の平室公氏は空港法第2条について「この条文はあくまで空港法中での『空港』という語を定めているのであり、各空港の名称に影響は与えない」と説明し、「各空港や飛行場が自由に愛称をつけることは問題ないし、それで混乱が起こったという話は聞いたことがない」という。名古屋飛行場・県営名古屋空港・小牧空港のように同じ空港なのにさまざまな呼び名を持つ空港が全国にたくさんある。この夏、空港を利用する際は空港名も調べてみてはいかがだろうか。(桜井豪)

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