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食品のムダを減らし、社会貢献につなげる試みが広がってきた。家庭で食べきれない食品を生活に困った家庭や福祉施設に寄付する活動や、廃棄予定の食品を買うと、代金の一部を寄付金にまわす通販サイトが登場している。「もったいない」と「人の役に立つ」を結ぶ一石二鳥の新しい食のサイクルだ。

生活に困った家庭に届ける食品を箱詰めするボランティアスタッフ(千葉市のフードバンクちば)

生活に困った家庭に届ける食品を箱詰めするボランティアスタッフ(千葉市のフードバンクちば)

千葉県を中心に活動している任意団体、フードバンクちば(千葉市)は5月中旬から6月末まで「フードドライブ」を実施した。フードドライブは家庭に眠る食品を寄付してもらい、福祉施設や生活の苦しい家庭に提供する取り組み。米国で始まり、国内でも活動が広がっている。

フードバンクちばは3年前に活動を始め、年3回のペースでフードドライブを実施。社会福祉協議会など約70カ所に回収場所を設け、賞味期限まで2カ月以上残っているなどの条件を満たす食品を持ってきてもらう。今回集まったのは乾物や缶詰を中心に計3.6トン。前年同時期の約1.5倍に増えた。

千葉市内に住む飛世洋子さん(74)は、のりやそうめんを寄付した。よく通う市民プラザで告知ポスターを見つけて寄付を始めた。「昔は生活に困った人がいれば地域で助けていたが今の時代は難しい。こうした仕組みは気軽だし、有効だと思う」と話す。

寄付された食品を支援先に送るフードバンクと呼ばれる団体は全国に40ほどある。活動は主に企業の寄付で支えられていたが、生活に困窮する家庭の増加で、依頼が多く寄せられるように。「家庭からの寄付が増えれば量が確保できる。集まる食品の種類も広がるのでありがたい」(フードバンクちばの菊地謙代表)

国の調査では、国内でまだ食べられるのに捨てられている食品の量は年間約640万トン。食品メーカーや外食産業、家庭からの廃棄量がほぼ半分ずつだ。企業などの廃棄物は堆肥などへのリサイクル率が高いが、家庭からの廃棄は大半が焼却される。「家庭からの廃棄を減らす余地はまだまだ大きいうえ、処理負担を減らす面でもプラス効果は大きい」(環境省)という。

自治体も動き始めた。東京都内でいち早くフードドライブに取り組み始めたのが世田谷区。年間6200トン(清掃車約4100台分)もの食品が食べられる状態で捨てられている状況に危機感を強めた。昨年5月に始め、2、3カ月に1度開催している。

世田谷区はイベントに合わせてフードドライブを実施している

世田谷区はイベントに合わせてフードドライブを実施している

これまでに寄付された食品の量は約400キロ。回収効果が上がりやすい環境イベントなどで受け付けている。担当者は「家の近くでやってほしいという声が寄せられており、手応えはある」と話す。

インターネットの通信販売でも、お得に買えて社会貢献もできるサイトが登場している。2月にサービスを始めた「KURADASHI(蔵出し)・jp」は、賞味期限が近づいたカップ麺や飲料などをほぼ週替わりで約20品掲載。メーカー希望小売価格の約7~9割引きで買える。

ただの格安サイトではなく、商品価格の3~10%を社会貢献活動をするNPO法人などに寄付する。例えばパスタや缶詰を買えば、発展途上国の子どもに給食費を送る「TABLE FOR TWO」の運営団体などに寄付金が送られる。

江東区に住む主婦、梅宮真理さん(46)はこれまでに6回利用した。中でも役に立ったのがオリーブオイル。希望小売価格の約7割引き、6本2550円で購入し、寄付額は80円。料理のほか、小学生の娘たちの肌の保湿にも使っている。余った分は友人に分け、喜ばれているという。

もともとインドの子どもの里親に登録するなど、社会貢献活動に関心があった梅宮さん。「子どもたちと食べ物のムダについて話し合うきっかけにしたい」と話す。

日本では、食べ残しなどは作った人の苦労をムダにするからもったいない、といわれることが多かった。ただ、今や食品流通は世界規模。消費生活アドバイザーの井出留美さんは「食品をムダにすることが、発展途上国の食料不足や環境汚染など、社会全体に悪影響を与えていることを知ってほしい」と強調する。

国連は昨年、小売り段階や消費段階の食品廃棄量を2030年までに半分に減らす目標を打ち出した。食品メーカーや流通企業などは賞味期限や納期の延長などの仕組みづくりを進めている。だが消費者レベルでは、個人の意識に頼る部分が大きく、目標を達成するにはハードルが高い。

スーパーなど小売企業は品切れや鮮度の劣化で消費者を逃すことを恐れ、多めに商品を仕入れる。食品メーカーは小売店への欠品を出さないように多めに生産する――。食品のムダは、企業が消費者の要求に過剰に応えようとすることが大きな原因、との指摘は多い。

消費生活アドバイザーの井出さんは「社会の流れを変えるのに、一番力を持つのは消費者。買い物をしたり食べ物を捨てたりするときに、まずは立ち止まって考えてみてほしい」と話す。

(高田哲生)

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