中国、究極のリスクは「財政の持続性」(津上俊哉)

中国に精通した経済官僚から、経営コンサルティング業に転じた津上俊哉氏。2012年まで8年間は中国企業を投資対象とするベンチャーキャピタルの運営に携わるなど、異色の経歴の持ち主だ。世界の市場を揺るがした中国株の乱高下や経済見通しについて語ってもらった。津上氏は中国の究極のリスクは「財政の持続性」と指摘する。
津上俊哉(つがみ・としや)氏 1957年愛媛県生まれ。80年東大法学部卒業、通商産業省(現経済産業省)入省。96年外務省に出向して中国の日本大使館経済部の参事官。2000年北東アジア課長、02年に経済産業研究所の上席研究員。04年に東亜キャピタルを設立、社長に就任。12年から津上工作室代表。著書は「中国台頭」(日本経済新聞出版社)、「中国台頭の終焉」(同)、「巨龍の苦闘」(角川新書)など多数

上海株はしばらく不安定な状況

上海総合株価指数は昨年夏から上昇局面に入り、今年6月までの1年間で2.5倍になりました。深圳のベンチャー向け市場「創業板」に上場している企業は株価収益率(PER)が200倍を超えるものがゴロゴロ、中には1000倍以上という企業もあり、異常な水準まで上がっていました。誰が見てもバブルだったということでしょう。6月12日にピークをつけたあとは1カ月の下落率は一時3割を超えました。

それまで株価を支えていたのは「株価が下落しても政府が必ず支えるはずだ」という「政策相場」への期待でした。暴落当初は、国民の期待を裏切らず、中国人民銀行(中央銀行)が利下げと預金準備率の引き下げにダブルで動く「異例中の異例の措置」を打ち出しました。

政府はこれで市場に頭をもたげた弱気を一気に吹き飛ばすつもりだったのでしょう。ところが、発表後も株価は下げ止まらず、下支えの神通力の衰えが鮮明になりました。7月10日前後を境に上海株はようやく下げ止まる兆しが見えてきましたが、なにせ、大量のPKO(株価維持策)やIPO(新規株式公開)凍結という人為的な政策の下での反騰です。上海株はしばらく不安定な状況が続くでしょう。

昨年来の株高は金融緩和で加速されました。不動産はすでに高値圏にあったので、みんな株式投資に動いたというわけです。だから実体経済はどんどん減速しているのに株価だけ上がった。金融緩和は普通は景気刺激のためにやるものですが、昨年秋からの金融緩和は実は景気の刺激のためではない。高い金利負担に耐えかねている地方政府や国有企業の債務圧縮、いわゆるデレバレッジ支援のためです。

地方政府や国有企業は08年のリーマン・ショック後の大型景気対策で借金を膨らませて投資を拡大し、中央政府に協力しました。しかし、膨大な借金で首が回らなくなり、金融緩和で低利な借り入れに切り替えさせるなどの支援策を講じたわけです。目的がデレバレッジ支援だから、緩和したからといって現に経済は反転していない。ポストバブルというのはそういうものです。

不動産バブルの崩壊は考えにくい

一方で、日本で1990年代に起きたような不動産バブルの崩壊が中国でもあるかという命題に対しては、わたしは「ない」と答えています。中国の土地マーケットは日本とは全然違って、供給者は地方政府しかいない独占構造なので、売り急ぎは起きない。

中国の不動産業は大手を中心に基本的にヒットアンドアウエーです。つまり物件を抱え込まない。つくったらすぐに現金化する。全然買い手がつかないゴーストタウンも地方にありますが、一般的には供給された物件は短期間にオーナーの手に渡っている。だから不動産会社がただちに破綻という風にはならない。中国経済を楽観してはいけませんが、本屋に並んでいるような崩壊論もあれは極論。そういうことにはならないと思っています。

わたしは究極的な中国経済のリスクは財政の持続可能性だと考えています。そもそもリーマン・ショックの後に公共投資を大幅に拡大して経済の落ち込みを防ごうとしたわけですがそれ以来、借金をしてそれで投資を拡大した。まあ人工的な成長率のかさ上げです。それがいったんものすごく効果を上げた。

それで、高度成長はまだまだ続くという幻想に陥ってしまったんですが、持続可能ではないので、どこかでやめなければならない。いま中国は効率が高い投資案件はほとんどやり尽くしました。日本でいえば東海道新幹線から整備新幹線、東名高速から本四架橋へと先食いしてきて、もうけが出ない投資しか残っていない感じになってきているんです。その結果として、投資の効率がどんどん落ち、借金だけは積み上がっていくんですけれども、それに見合ったパイ(GDP=国内総生産)の拡大がない。

中央・地方政府の債務、GDPの半分に

その結果、債務とGDPの比率がすごく上がっている。中央政府と地方政府の債務はざっくりGDPの半分ぐらいになっています。日本と同じで債務増大といっても国債などは基本的には国内消化。だから、いますぐギリシャだ、なんだということにはならないんですけど。中国共産党も債務拡大にブレーキをかける方向ですが、まだまだ足りない感じがします。

あと10年もすると中国も本格的な高齢化社会を迎える。2030年以降になると、年金債務が急激に重くなってくる。しかも日本でいえばGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のような年金支払い原資の積み立てがされていないんです。だから、高齢化による財政の悪化というのがストレートに来てしまう。それを考えると、あんまり足元の安定を重く見過ぎて、高めの成長率を無理して追い求めると、将来の財政が苦しい状況をぐーっと手前に引き寄せてしまう可能性がある。

「中国が米国のGDPを抜くことはない」

わたしの持論は「中国が米国のGDPを抜くことはない」です。政府目標の7%成長は高すぎると思います。本当の成長率は現時点ですでに5%を切っていると思いますよ。過去数年間で投資バブルを経験したということを否定しようがないんで。投資バブルの後はデレバレッジによる「バランスシート不況」が来てしまって。しばらくは景気低迷のトンネルをくぐらなければいけないのが市場経済の姿だと思うんです。そこを共産党の過去の公約との関係で無理に成長をかさ上げ続けなければいけないのがちょっと危ういですね。

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