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 これからの派遣社員の働き方を決める労働者派遣法改正案が参院で審議中だ。26の専門業務を全廃し、同じ職場で働ける期間を原則3年に限るのが改正案の柱で、成立すれば9月にも施行の見通し。従来の派遣の常識が大きく変わる。派遣社員はこれからどんな働き方をしなければならないのか。変化の兆しを見せる労働市場と、対応のノウハウを上下2回で探る。
研修に参加し、専門知識を磨いて実力アップを目指す派遣社員ら(東京都港区のTEI)

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「今の職場に派遣され、統計を扱うようになって8年。正社員が異動してくるたび仕事を教えるのは私で、職場になじんでいる。3年で職場を移れと言われても困る」。事務機器操作で東京都内の大手サービス業に勤務する独身女性(52)は法改正に憤る。

一方、週2~3回、午前10時から午後2時までITコンサルティング会社で働く東京都練馬区の大城佳代子さん(39)は法改正に無関心だ。仕事は別の派遣社員と分担する一般事務。「長男が小学校に通う時間だけ働くという私の条件にぴったり」。夫に教えられるまで3年規制ができることは知らなかった。

2人の改正法に対する意見を分けるのは、派遣の仕事で生活費をまかなっているか否かだ。大手サービス業勤務の女性にとって3年規制は、別の課に異動できなければ今の会社にいられないことを意味する。家計を支えていない大城さんには切迫感がない。

もう一つ、働く期間に関して派遣社員が気にしなければならない時間軸がある。「5年」だ。2012年に成立した改正労働契約法の規定で、有期雇用の社員が契約を繰り返しながら同じ企業で5年を超えて働いた場合、希望すれば無期雇用に転換できる。このため期限が近づいたのを気にする派遣会社は、雇い止めに動く危険性がある。

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2つの時間規制に加え、現行法で期限のない派遣を認めている専門26業務について、厚生労働省は実態を厳しく監視した。このため派遣労働市場は大幅に規模を縮めている。

日本人材派遣協会の調べで、派遣の代名詞だった「事務用機器操作」の派遣社員は08年3月末で26万人いたが、15年3月末には8万1560人に。26業務に含まないが似た仕事を担う「一般事務」区分の社員を15年3月末の人数に加えて比較しても、10万人以上少ない。景気回復で派遣需要が高まる中、伸びは鈍い。

事務職の派遣労働市場には質の変化も表れている。短時間勤務で使いやすい人が求められるのだ。関東・関西に16の営業所を持つ派遣会社、戦力エージェント(東京・新宿)の林下三夫取締役によると、ここ1年ほど規模の大きい企業から「週2、3回、午前10時~午後4時勤務」といった短時間の派遣依頼が多くなったという。応募する人の9割は大城さんのような20~40代の育児中の女性だ。

市場の変化を読んで短時間派遣を前面に打ち出す派遣会社もある。ビースタイル(東京・新宿)は6日から管理職・専門職の経験を持つ主婦の一般派遣を「時短エグゼ」と名付け再出発した。単に短時間であるだけではなく、彼女たちの高いスキルを生かすのが特徴。フルタイムでなくてもやりがいがある仕事を望む女性と、中小企業の中核業務を結びつける。

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一連の動きは今回の法改正で厚労省が強調する、派遣社員を「臨時的・一時的」な働き方と位置づける考え方に沿う。同省の本音は「派遣先で仕事の経験を積んだ後、人材不足の中小企業などに正社員として就業する道をつくりたい」(厚労省幹部)ことにあるからだ。このため同省は派遣先に「キャリアアップ助成金」を出して転職しやすいよう後押ししていく。

また派遣先による引き抜きも想定内で、打撃を受ける派遣元には補償金のような形で報酬が渡るよう考え始めている。戦力エージェントの林下さんは「優秀な派遣社員を自社に引き抜きたいと潜在的に考える企業は多い」と話す。

だが改正法案には大きな問題が残る。26業務のうち、特に高い専門性を売りものにしてきた派遣社員とその派遣元が、3年と5年の規制で多大な影響を受ける可能性だ。

旅行添乗員を派遣する会社の団体、日本添乗サービス協会の三橋滋子専務理事は「経験を積むほど専門性が高まるのが添乗員の仕事。3年経過後に派遣先を替えねばならないのでは、専門性が生きず業界が成り立たない」と訴える。直接雇用についても「添乗員の多くは自分で派遣先や仕事を選びたいと思い、雇われることを必ずしも望んでいない」と指摘する。

専門性の高い社員は息をのんで法改正の行方を見守る。

日本総研の山田久調査部長は「より高いスキルを派遣社員に求める動きが出て、ルーティン的な仕事は短期・短時間の働き手に任せるようになる」と予想する。キャリアについてあまり考えずにいた多くの派遣社員にとっては、技能の追求か小回りの良さか、選択の時が迫っている。

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▼派遣法は9月1日からこう変わる見通し
・派遣事業を許可制に、届け出制を廃止
・人が変われば、企業は同じ仕事を派遣社員に任せ続けることが可能に
・派遣社員が1つの職場で働けるのは一律3年まで
・派遣社員の雇用継続、キャリア支援を派遣会社に求める
・派遣労働は「臨時的・一時的」と位置づけ

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