日テレとHuluが共同で独自ドラマを製作する狙い
日経エンタテインメント!
スマートフォン(スマホ)やパソコンなどネット経由で見られる月額制動画配信サービスの新しい試みに注目が集まっている。Huluと同社を2014年4月に子会社化した日本テレビが、初めてオリジナルドラマを共同製作し、『金曜ロードSHOW!』の枠で2015年6月19日に1話目(2時間ドラマ)を放送。その直後からHuluで2話(1時間ドラマ)の配信を始め、その後5話まで全7回を6週間にわたり順次配信スタートさせた(4、5話は前・後編に分かれている)。
これまでにもテレビ番組と連動した映像をネット配信するなど、テレビとネットのコンテンツの融合の事例はあった。しかし「21時というゴールデンタイム枠で放送し、その直後からネットに誘導するという大きい仕掛けは日本初でしょう」(Huluを運営するHJホールディングスのコンテンツ制作部長の三枝孝臣氏)。
テレビの制作規模をネットへ
今回放送&配信される『THE LAST COP/ラストコップ』は、ドイツでヒットしたドラマの日本版。20代から30年間昏睡(こんすい)状態だったが突然目を覚まし、「時代遅れ」になった刑事と、平成生まれの若手刑事のギャップが時にコミカルに描かれる。「2話以降はHuluでの配信ですが、小ぶりの作品ではありません。制作の規模感としては、地上波の連ドラと同じです」(日本テレビ放送網 制作局専門副部長で本作のプロデューサーの戸田一也氏)。
Huluが、NHK大河で主演を務めたこともある大物・唐沢寿明を主演に、地上波の制作規模でドラマを制作・配信するほど力を入れている背景には、まだまだネットでの有料動画配信の利用者層が限定されていることがあるだろう。
現在、月額制の動画配信サービスの契約者は大人層が多い。その理由はクレジットカードが主な決済手段で、往年の映画やドラマなど、マニア向けの作品も多く楽しめるからだ。三枝氏によると、Huluも同様で、M2層(35歳から49歳までの男性)の利用が比較的多いという。
これに対し、地上波の視聴者層は正反対で、子どもから大人まで女性が中心。ネット側が取り込みたいのはこの層だ。利用層拡大に向け、今、各配信会社がほしいのがキラーとなるオリジナルコンテンツ。しかし制作には大きな費用がかかるため、各社がなかなか大きく仕掛けられないなかで、地上波で絶好調の日テレが豊富な資金力を武器にHuluのオリジナルコンテンツを作り始めることは、他社には脅威に映るに違いない。
また、新しい時代のコンテンツを模索するテレビ局にとって、地上波に比べて、比較的幅広い表現ができるネットの自由度は魅力的なようだ。「事故の危険もあるので、『西部警察』や『あぶない刑事』のようなアクション満載の刑事ドラマを今作るのはなかなか難しいですが、ネット配信する今作では唐沢さんにクルマが迫り、屋根につかまって振り落とされて…、といった体を張ったアクションシーンを2日かけて撮るなど、昔よく見た刑事ドラマのワクワク感も出していきます」(戸田氏)。
三枝氏によると、今回の作品の海外での放送も視野に入れており、ビジネス的な成功の後には続編も制作し「『24-TWENTY FOUR-』のジャック・バウアーのような人気者にしたい」(同氏)という。まだまだ利用者が少なく資金力はないが、自由度の高いネットの世界。そして、多くの視聴者を抱えるものの、不特定多数の視聴を想定するため、できることに限りがあるテレビ局。両者のタッグが、今後のエンタ界に人気者を生み出す勝ちパターンとなるか、注目が集まる。
(日経エンタテインメント! 白倉資大)
[日経エンタテインメント! 2015年7月号の記事を再構成]
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