ナショジオ

睡眠

夜型生活から脱却する効果的な方法

2015/7/28

ナショナルジオグラフィック日本版

三島: さて、前回「睡眠サイクルの朝型夜型って何?」に引き続いて補講です。ヒツジ君のご要望に応えて「夜型生活から脱却する効果的な方法」と銘打って、朝型勤務を命じられた際の対策について考えてみます。

ヒツジ: よろしくお願いします!「朝型体質」に変わるのは難しいにしても「朝型生活」めざして勉強します!

三島: いやー、玄人好きのする宣言が聞けて嬉しいなぁ。よく勉強しているね。それではさっそく始めましょうか。まずヒツジ君の普段の睡眠習慣を黒板に書き出してください。

(イラスト:三島由美子)

ヒツジ: とにかく寝起きが悪いのが悩みです。重力と戦いながら寝床から出て、ボーッとしながら洗面や着替えなどを済ませ、朝食抜きで家を出ます。勤務先には始業時刻の8時45分ギリギリに滑り込んでいます。

三島: ドアツードアで45分か。東京だとかなり恵まれている方だね。早く帰宅した日も、遅い日も、寝るのは同じ2時頃なの?

ヒツジ:(ビクッ)色々とやることがあって……。

三島: ま、夜型の人にありがちな生活だね。昼間は眠気や疲れを感じていても、夜になると元気になってしまうんだよね(笑)

ともかく目標を決めましょう。出勤時刻は第24回「朝型勤務がダメな理由」で紹介したある商社マンと同じ7時45分にしよう。これはキツイよー。

そのために起床時刻は今より1時間早めて6時にします。通勤時間が長いともっと早起きしなくちゃならないけど、その点、ヒツジ君はラッキーだ。

商社マンのケースでは5時に起床して、出勤前にジムトレーニングをやっていたけど、さすがにハードルが高すぎるから諦めよう。

ヒツジ: 6時起床だけで十分キツイです……。ますます睡眠不足になりそう。2時寝の6時起きじゃ、4時間睡眠になってしまいます(涙目)

■「早起き早寝」が第一歩

三島: 睡眠時間は確保しなきゃね。そのためにも就寝時刻はできれば2時間前倒しで0時をめざそう。

ヒツジ: 母親からは普段から「早寝早起きしなさい!」と注意されているんですが、どうしても2時頃にならないと眠くならないんです。

三島: まず、「早寝早起き」という考え方を止めよう。順番が逆です。「早起き早寝」これが第一歩ね。

夜型の場合は、早寝から始めるのは難しいんだ。なぜかというと、体内時計が遅い時刻で固定しているので、睡眠に深く関わっている体温やメラトニン、コルチゾールなどの生体機能がまだ覚醒状態にあるため。これらの生体機能と睡眠の関係については、第6回「お風呂で快眠できるワケ」、第19回「起きたい時間に目が覚める不思議なチカラ」でも説明したよね。眠るためのコンディションが整っていないのに寝ようとしても無理ってわけ。

ヒツジ: 早起きから始めるとイイことがあるんですか?

三島: 良いことと、苦しいことがあります。まず良いこと。これは第24回「朝型勤務がダメな理由」の復習になるけど、普段よりも早起きをして朝日のような強い光を浴びると翌日の体内時計が朝型にシフトするんだ。これは「光位相反応」と呼ばれる現象です。メカニズムは難解なので説明を省くけど、イメージ図があるから紹介するね。

光を浴びる時刻と体内時計の朝型夜型シフトの関係。青い曲線は、1日のある時間帯(x軸)に光を浴びると、翌日の体内時計がどの程度朝型化もしくは夜型化するか示している(y軸)。この図では夜0時~朝8時頃まで眠る人を例にしておおよその時刻を示している。(イラスト:三島由美子)

三島: 図中で黄色い枠の時間帯、早朝から昼過ぎにかけての太陽光は翌日の体内時計を早めてくれるんだ。具体的には体温やメラトニンのリズムを前倒ししてくれる。たとえば午前中いっぱい光を浴びると、時には数時間も朝型にしてくれるよ。

ヒツジ: え、そんなに簡単なんですか?だったら、もう明日からでも朝型出勤できますね♪

三島: うーん、そう簡単にはいかないんだ。毎日午前中に外で日光浴をしていたら、そもそも「会社に来なくていい!」ってことになりかねないしね。それに図を見てもらうと分かるけど、午後から夕方にかけての光は逆に体内時計を夜型にしてしまうんだ。その間も光を浴びないわけにはいかないよね。つまり、起床から寝るまでの光の影響の足し引きで体内時計は時刻調整されているんだ。数学的に言うと青い曲線の積分値だね。朝日だけ浴びて、昼過ぎから真っ暗闇で生活するなら朝型生活を維持するのも楽なんだけどね。

ヒツジ: 午前中はデスクワークで、午後は外回りの営業で思いっきり太陽光を浴びています……。

三島: 午後に外出する時はスティービーワンダー型の濃くて側面もカバーするような大きめのサングラスをかけるのも効果的だよ。極端な夜型睡眠になる睡眠障害にも効果があることが分かっています。

ヒツジ: なんか怪しげだなーー。夜の電灯も悪さをするんですか。確かに明るいですが、太陽光よりはずっと弱いと思うんですが。

■テレビやパソコンの画面の光に注意

三島: 残念ながら影響はあります。太陽光よりはシフト作用は弱いけど、昼に比べて夜は光が効きやすいんだ。図を見ても曲線がマイナス方向に大きく膨らんでいるよね。最近の家庭照明はかなり明るいし、流行のLEDは体内時計に強く働きかける青色光が多く含まれているしね。人を設計したカミサマもさすがに人工照明の登場までは予測できなかったといったところかな。実際、文明開化で人工照明ができる前は、日没後はほぼ暗闇で生活していたので朝型生活は楽だったはず。

ヒツジ: じゃあ、家に帰っても電灯を点けるなと……。先日買ったゲームもやってはダメだと……。

三島: ま、まあ、ほどほどにしてくださいってこと。少しは楽しみもないとね(汗)。でも、比較的大型の液晶テレビやパソコンの画面を、50cm~1m位の距離で垂直方向から眺めていると、かなり強い光が目に入ってくるので要注意だよ。どうせ、食い入るように画面を見つめてはっと気づくと瞬きもせずに1時間とか経っているんでしょ?

ヒツジ: ……黙秘します。

三島: やめろとは言わないけど、パソコンの照度を落としたり(輝度で調整)、体内時計に影響の少ない暖色系の光や間接照明にするなどの工夫もいいと思うよ。

それともう1つの問題は、体温やメラトニンのリズムが朝型になっても、睡眠リズムが朝型になるには少しタイムラグがあること。早寝のコンディション作りが整っても、主役は遅れて登場するんだな。

ヒツジ: えー! どのくらい待てばいいんですか?

三島: どのくらい早起きするかによっても違うけど、一般的には睡眠が体内時計にキャッチアップして体調が安定するまでは3週間くらいかかるね。その間は、早起きした割には早寝ができないため、一時的にせよ睡眠不足になります。これが最初に話した苦しい点で、夜型の人が早起きにチャレンジして1、2週間でギブアップする最大の理由だね。

ヒツジ: ひえー、今でも寝不足なのに、さらに寝不足になるのでは死んじゃいます!

三島: 文字通りそうなんだよ。朝型勤務の回にも書いたけど、サマータイムの切り替え時期に心筋梗塞や交通事故死が増える原因の1つがこの睡眠不足なんだ。

■週末の寝だめはダメ

ヒツジ: ひえーーー、でも、週末の寝だめもダメなんですよね。

三島: うーーん、言いにくいけれど、朝型生活に馴染むためには避けた方が良いね。たった2日の寝だめでも、体内時計はあっという間に夜型に戻ってしまうからね。そこはこらえて週末も平日と同じ生活リズムを保ってほしいな。

とは言っても睡眠不足で事故を起こすのも怖いよね。そこで対策としては「戦略的な昼寝」だね。時間を決めて、30分くらい昼寝をする。その程度の昼寝でも眠気はかなり軽くなるし、目覚めた後もぼんやり感(睡眠慣性)が少ないからね。13時・14時くらいがお薦めだが、昼食を早めに済ましてお昼寝もいいでしょう。

また、一気に1時間早起きするのではなく、最初の2週間は30分だけ早起きするなどワンクッション入れると楽なこともあるよ。

ヒツジ: 教えてもらったコツを利用してチャレンジしてみようと思います。でも、何週間も頑張って……その先はどうなるんでしょうか。ずっと一生がんばり続けなくてはならないんでしょうか(涙目)。

三島: 根拠もなく楽観的なことは言いません。いったん朝型生活に適応しても、気を抜いたら夜型生活に戻ってしまいます(キリッ)。

でも、当初の辛い状態がそのまま続くわけではないよ。まず体内時計を朝型にリセットして、数週間で睡眠リズムが追いつく。その頃には、寝つける時間も早まってきます。睡眠不足も徐々に解消されるわけです。睡眠不足が解消されれば朝起きも少しずつ楽になる。朝型生活になれば夜に浴びる光量は減り、早朝に浴びる光量は増える。

もしかしたら朝食も食べられるようになるかもしれない。光ほど強くはないけど、朝のカロリー摂取も体内時計のリセット効果があることが分かってきているよ。

(イラスト:三島由美子)

ヒツジ: 少しは希望を持ってよいでしょうか?

三島: 朝型生活を頑張ってしばらく経つと、光や食事、運動などの環境因子を巻き込んで睡眠リズムをその時間帯に安定化させるメカニズムが働き始めるんだ。もともとの朝型の人と違って楽に早起きできるわけではないけど、朝型生活を始めた当初の苦しみは徐々に軽くなります。

朝型勤務を命じられたときは一度はあがいてみましょうよ。切り替え時期の健康管理に気を付けながらね。

ヒツジ: 了解です! うおーー! トリを見返してやるぞーー!!

三島和夫氏
三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。これまで睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2015年6月11日付の記事を基に再構成]

8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識

著者:川端 裕人, 三島 和夫
出版:日経BP社
価格:1,512円(税込み)


ナショジオ 新着記事

ALL CHANNEL