
祖父母を上手に子育てに巻き込んでいこう
──日本助産師会と孫育て・ニッポンは、なぜ「楽しい子育て・孫育て」という企画を始めたのでしょうか。
棒田: 子育てする上で、親は子どもをたくさん褒めたほうがいいというのは多くの方がすでにご存知でしょう。しかし、親以外の人に褒められることも、同じぐらい大切だってことは知っていましたか?
「あら、大きくなったわね」「元気があっていいわね」と褒めてくれる大人が多ければ多いほど、その子どもは伸びます。祖父母は、まさにそんな存在ですよね。だから、祖父母を上手に子育てに巻き込み、できるだけたくさん褒めてもらったほうがお得。「祖父母との付き合いは気を遣うから面倒」と、実家と距離を置くのはもったいないことなんです。

岡本: ただ、今は親世代も働いているケースが多いので、昔のように引退したおじいちゃん、おばあちゃんとの関係をイメージすると、少し違ってきています。
だから、お互いに現状をよく話し合って、どういうことが困っているのか、どういう風に関わってほしいのかということを、正直に伝える必要があります。そのお手伝いをするために、私たちは「楽しい子育て・孫育て」講座を始めたのです。
育児の常識は、時代によって違う
──自分や夫の両親に子どもを預けるときは、どういうことに注意したほうがよいでしょうか。
棒田: 祖父母は子育て経験もあるし、家族だから「言わなくてもわかる」と思い、自分たちの子育て方針ややってほしいこと、やってほしくないことを祖父母に伝えていない場合が多いようです。何も伝えないまま預けて、あとで陰口を言うのはよくないですね。「あまり甘いものは食べさせたくない」というように、気になることがあれば、前もって伝えておくことが重要です。
ただ、妻からみて夫の親に言いづらいのは確か。そうならないために、夫の親には夫が伝えて、妻の親には妻が伝えるというルールを夫婦で決めておくとよいですね。
岡本: 預けた後、きちんとお礼を言うことも大切。義理の親ならまだしも、実の親となると遠慮がなくなり、お礼を言わないまま帰ってきたりしていませんか? 「孫はかわいいから、預けるのも孝行」と思っていませんか?
祖父母に預けている間、子どもは親がいない不安でいっぱい。いつもの彼らとは、かなり様子が違っているはず。そんな子どもたちの相手をする祖父母は本当に大変なんです。しかも、親より体力がないから、想像以上に疲れます。
そんな祖父母の状況を思いやり、きちんと「預かってくれてありがとう」と口に出して伝えてください。

棒田: 育児に対する常識の違いも理解しておく必要があります。
母乳育児や離乳食についての常識は、時代によって変わります。例えば、離乳食を与える時、昔はよくお父さんやお母さんが口の中で噛み砕いたものを食べさせたりしました。しかし今は、自分が使っているスプーンを使って離乳食をあげるのもよくないとされています。
だからといって、お母さんがおばあちゃんに対して「同じスプーンで食事をあげるのはやめて!」なんて厳しい口調で言ったら、すぐにバトルが始まってしまいますよね。
それを防ぐには、自分だけでなく、自分や夫の親にも最新の育児について知っておいてもらう必要があります。私たちが「孫育て講座」を開いているのも、祖父母世代の人たちに最新の知識を伝えたいと考えたからなんです。バトルにならないように、上手に伝えてみてください。
実は、これはお母さんにとってだけではなく、育児を手伝う祖父母にとっても、とてもいいことなんです。今の子育てがどう変化しているのかを知ってもらえれば、自信をもって子育ての手伝いができるようになりますから。
岡本: 育児には、時代によって変わる部分と、いつまでも変わらない部分があります。
例えば「人に優しくしましょう」というようなことは、時代は関係ありませんよね。そういうことを子どもに伝えていく上で、祖父母はとても頼りになります。祖父母の言葉を借りながら、子どもの情緒を上手に育てていきましょう。
──自分や夫の両親達と上手に付き合うコツがあれば、教えてください。
岡本: 子どもを預けるときだけ連絡するのでは、ご両親もおもしろくないですよね。ですから、ぜひ普段からこまめに電話してあげてほしい。そうして連絡を密にしておけば、子どもを預けるときもうまくいきます。実家が離れているから、なかなか親密になれなくて…という方もいますが、今や距離は大きな問題にはなりません。メールや電話を使えば、遠くにいても密につながることができます。いい間隔で声をかけながら、うまく関係を構築していきましょう。
棒田: もちろん、最初からうまくやろうというのは無理。お互いに探りながら、いい距離感を見つけていくしかない。あきらめず、根気よく続けること。それは夫婦も同じですよね。
ひとつ、コツを教えましょう。祖父母といっても、他人は他人と割り切ること。もちろん自分の親であれば血のつながりはありますが、それでも自分と同じではなく、別の人間。夫の親なら、なおのことです。だから、完全に分かり合おうというのは無理な話なんですよ。
ただ、全くの他人ではなく、自分より目上で身近な人であることは確か。ですから、祖父母は仕事の上司と同じだと考えてください。
上司とのやり取りを思い出せば、たまには聞き流すのも大事だということもわかりますよね。親ではなく上司だと思えば、自分の意図が100%伝わらなくても当たり前で、50%うまくいけば上出来です。そういう風に、気軽に考えたほうがうまくいきます。
妻と義母がけんかになったら夫はどちらも応援しない
──最後に妻が親とけんかになってしまったとき、夫はどうすればいいのでしょう。
棒田: 基本的には、奥さんの味方でいてほしい。母親の味方になって、妻を責めるなんていうのは論外です。とはいえ、妻を応援するのもよくない。
──では、どうすればいいのでしょうか。
棒田: 黙って二人のけんかを見守り続けるのが一番。口をださずにただ見ているだけというのも、結構つらいかもしれませんが、そこは頑張って! ここが、パパの腕の見せどころなんですから。
そして、ちょうどいいタイミングを見計らって、甘い物とお茶を出してあげればいいんです(笑)。
同志社大学神学部、大阪大学医学部附属助産婦学校、国立公衆衛生院専門課程修了(保健学修士)。勤務助産師を経て、2004年6月に「おたふく助産院」を共同開業。日本助産師会の役職を歴任し、2011年より現職。
公社 日本助産師会 孫育て・ニッポン共催「楽しい子育て、孫育て講座」(毎月第1金曜日開催)
http://www.midwife.or.jp/kouza/kosodate/index.html
NPO法人孫育て・ニッポン理事長、NPO法人ファザーリング・ジャパン理事。「母親が一人で子育てを担うのではなく、家族、地域、社会で子どもを育てよう」をミッションに、全国にて「子育て、孫育て、他孫(たまご)育ての講演、プロジェクトを行う。東京都北区赤羽コトニア内多世代コミュニティーカフェ「いろむすびカフェ」アドバイザー。産後のママをみんなでサポートする「1.2の産後」(2015年7月始動)プロジェクトリーダー。著書、共著に『祖父母に孫をあずける賢い100の方法』(岩崎書店)、「ママとパパも喜ぶ いまどきの幸せ孫育て」(家の光出版)。
(ライター 井上真花 、撮影 勝山弘一)
[日経DUAL 2015年6月12日付の掲載記事を再構成]