劇団四季『アラジン』が日本でも大ヒットした理由
日経エンタテインメント!
2015年5月24日(日)、東京・汐留の大同生命ミュージカルシアター電通四季劇場[海]にて、ミュージカル『アラジン』が開幕した。1992年に公開されたディズニー製作の長編アニメーション映画を基に、2014年にディズニーが舞台化。砂漠の街アグラバーを舞台に、市場で盗みを繰り返す貧しい青年アラジンが、手に入れた魔法のランプから現れた魔人ジーニーや、3人の仲間の力を借りて、王女ジャスミンの心を射止めるべく、壮大な冒険を繰り広げる。
昨年3月に開幕したブロードウェイ公演は、1年以上経った今もチケットが入手困難なほどの大ヒットとなっている。その人気の理由は、大きく3つある。
徹底して観客を楽しませる
まず、ストーリーの面白さとキャラクターの魅力だ。物語は映画と同じくアラジンとジャスミンのロマンスを軸に進むが、「アドベンチャー色が強かった映画に対して、誰もが楽しめるミュージカルコメディの要素を強くした」(演出のケイシー・ニコロウ)のが舞台版の特徴。
その重要な役割を担うのがジーニーで、派手な衣装に身を包み、ハイテンションの言動で観客の笑いを誘い、圧倒的な歌とダンスを披露して強烈な存在感を放つ。また、映画には出てこないアラジンの3人の仲間も加わり、登場人物はより多彩になった。
次に、アカデミー賞で作曲賞を受賞した『新しい世界-ア ホール ニュー ワールド』など誰もが知る名曲ぞろいであること。ビッグナンバーも目白押しで、劇中最大の見せ場となるジーニーによる『理想の相棒-フレンド ライク ミー』では、ジャズ、ラップ、ラテン、バラード、タップなど、あらゆるジャンルの音楽とダンスが、マジックなどの仕掛けと共に8分にわたって次々と繰り出され、観客の大喝采を浴びる。
音楽は、映画に続きアラン・メンケン(『美女と野獣』『リトルマーメイド』)が担当。アラジンが亡き母への思いを歌うバラード『自慢の息子』のような映画でカットされた曲や、新たに書き下ろされた曲も加わり、大人の観客の琴線に触れる楽曲が増えている。
そして、絢爛(けんらん)豪華かつ観客の度肝を抜くステージ美術の数々。なかでも見る者を驚かせるのが空飛ぶ「魔法のじゅうたん」で、アラジンとジャスミンを乗せ、まるで意思を持っているかのように舞台の上を自由に飛び回る。2人が歌う『新しい世界-ア ホール ニュー ワールド』の美しいバラードの調べとあいまって、舞台ならではの夢のような場面になっている。まさに"ディズニー・マジック"だ。鮮やかな色彩に彩られた衣装や、エキゾチックなデザインを施された装置や小道具の数々も、観客を夢の世界へと誘う。
舞台版『アラジン』の魅力を一言で言えば、徹底して観客を楽しませようとするショーアップの精神であり、まさにディズニーの神髄といえる作品だろう。
新生四季の試金石に
このディズニー・ミュージカル最新作の日本版を手がけるのが劇団四季。ディズニーとの提携は5作目で、95年の『美女と野獣』日本初演から数えて提携20周年の節目を飾る作品となる。
さらに劇団四季では昨年、創立者である浅利慶太がトップを退き、経営面も創作面も引退。新体制が初めて手がける大作とあって、『アラジン』にかける意気込みは大きい。制作費には過去最高とされる額を投入。キャストは、劇団外からも挑戦できる公募オーディションで決定。日本語訳詞には、昨年社会現象となった大ヒット映画『アナと雪の女王』で日本語訳詞を担当した高橋知伽江を起用した。反響は大きく、開幕を前にして21万枚を超える年内のチケットはほぼ完売。16年末までの上演が決まっている。
日本版は、ブロードウェイ版のスタッフとの共同作業で作り上げた。台本は日本の文化や劇団四季のテイストに合うように変更。開幕直前まで何度も何度も練り直されている。アラジン、ジャスミン、ジーニーのそれぞれが、今の自分に疑問を持ち、自由を求めて新しい世界へ向かう姿をより強調。「とにかくお客さまに楽しんでいただける楽しい舞台に」(日本版製作チーム代表の加藤敬二)というオリジナルの精神はそのままに、生きることの素晴らしさをうたいあげる"人生賛歌"という劇団四季らしさを施したのだ。開幕後の客席からの好意的な反応を見る限り、そのアレンジは成功と言える。「日本の観客のための『アラジン』が生まれた」(演出のケイシー・ニコロウ)とブロードウェイ版のスタッフからも絶賛された。
こうしてブロードウェイ同様、大ヒットで幕を開けた劇団四季の『アラジン』。話題性に富み、チケットが手に入りにくい状況が続くだけに、今後観客の期待値は高くなる一方だろう。その期待にどこまで応え続けられるか。これまでの四季作品よりもコメディ色が強く、キャストに求められるスキルも高いだけに、一定のクオリティーを維持しつつロングラン記録を続けるのはやさしいことではないはず。新生四季の真価が問われるのは、これからだ。
(ライター 長谷川あや、写真 松川忍、荒井健)
[日経エンタテインメント! 2015年7月号の記事を再構成]
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