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暮らしの知恵

出稼ぎママ奮闘 都会で働き、地方で子育て

2015/7/8

大自然の中でのびのびと子育てしたい。でも都会での仕事は捨てられない。そんなジレンマを感じる親が多いなか、東京での仕事を続けながら、子育ての拠点を地方に移す母親たちが登場し始めた。自然豊かな地方に子どもたちを残し、東京へ仕事にやってくる「出稼ぎママ」たちの暮らしぶりを追った。

週に3日は東京で働き、残りの4日間は子どもと長野県で暮らす。マタニティーサイト「ニンプス」の発行人、高沖清乃さん(41)は3月からこんな生活を始めた。住まいは長野県伊那市に定め、高速バスで片道3時間半かけて上京する。東京滞在の間は、ビジネスホテルなど手ごろな価格帯の宿泊施設に泊まり、仕事をして伊那市に帰るという一種の出稼ぎスタイルだ。

仕事を終え高速バスで自宅へ戻る高沖清乃さん(東京都新宿区)

職場に近い東京都中央区で男の子2人を育てていたが、長男が1歳を過ぎたころから、子育て環境が気になりだした。子どもが走り回れる広場がなく、コンクリートの硬い地面を歩かせる日々。「これでいいのだろうか」。ところが、伊那市の実家に帰省すると、子どもたちは自然の中で走り回り、生き生きした顔を見せる。地方での暮らしを真剣に考えるようになった。

とはいえ、東京での仕事は手放せない。仕事と地方暮らしの両立策を考えた結果、長野ではスカイプ会議などを活用し、東京では打ち合わせを調整して週に3日間滞在する方法を編み出した。ファイナンシャルプランナーに予算を見積もってもらったところ、滞在費や交通費などを含めても収支はトントンになった。

「会社は大丈夫か」「子どもたちは平気か」と迷いもあった。後押ししたのは夫の「やってみれば」との言葉だった。夫が長野で在宅で仕事をし、家事や育児を担う形で高沖さんの出稼ぎ生活がスタートした。「移動が時々疲れるが、東京の刺激と田舎のゆったりした暮らしの両方を堪能できる」と満足げだ。

東京と田舎など2地域居住に関するセミナーを手掛けるヒトカラメディア(東京・渋谷)の田久保博樹さんによると「子どもの小学校入学を機に、2地域居住を希望する30~40歳代が増えてきた」。

情報サイト「東京こども星★レストラン」を運営する今西敦子さん(37)もその一人。長女のアトピー性皮膚炎が悪化したのを機に地方への移住を決めた。旅行がてら訪れた山梨県の自然に感動。昨年、東京都港区から山梨県に引っ越し、現在は富士吉田市に住む。平日はグラフィックデザイナーの夫が山梨で家事と育児を担当し、今西さんは週に4日、仕事のある東京へ高速バスでやってくる。

築30年の民家は8LDK。障子や畳の昔ながらの造りに子どもたちは大喜び。庭にはナスやピーマンなど家主の植えた季節の野菜が取り放題だ。東京では大変だった保育園探しもすんなり決まった。

庭で季節の野菜を収穫する今西さん親子

「過剰に周囲を気にする必要がなくなり『静かにしなさい』と子どもを叱ることがほとんどなくなった」(今西さん)。東京のように習い事が充実しているわけではないが、子どもたちは虫や植物の名前はたくさん覚えた。

ニッセイ基礎研究所の久我尚子准主任研究員は、こんな出稼ぎママの登場を「丁寧に子育てをしたい、子どもの育つ環境を重視したい、という志向が強まっている」とみる。専業主婦が多かった親世代に大事に育てられた働く女性も少なくなく、子どもにも同じような環境を与えたいと考えるのだという。一方で、女性が仕事をするのは当たり前という感覚も強いため、仕事を諦めずに理想の子育て環境を模索するようだ。

今のところ、出稼ぎママは起業家やフリーで働くなど、会社員に比べ働き方に制約が少ない立場の女性がけん引役だ。しかし勤め人の立場でも実現しているケースもある。

公益財団法人ジョイセフ(東京・新宿)に勤務する小野美智代さん(41)は、静岡県三島市の自宅と東京のオフィスを新幹線で往復し、東京の仕事と地方の暮らしを両立させている。朝の通勤時は約10分に1本の割合で運行しており、自宅から1時間10分で職場に着く。「郊外から満員電車に揺られるより楽」

最初は周囲の理解を得るのが難しく、同僚からも「仕事は続けられるのか」と心配された。交通費は「前例がない」と役員会議にかけられ、在来線の運賃をジョイセフが払い、特急料金を小野さんが払う形で決着した。

7歳と0歳の子どもの保育園などへの送迎は静岡で仕事をする夫が担当。台風などで帰宅できないことも年に数回ある。それでも「山と海が近く、家族も自分も快適。精神面で安定し、仕事にもプラスになっている」と強調する。

勤務先や家族の理解など、出稼ぎママを実現するには周囲のサポート体制が必須条件だ。しかし、画一的な働き方を見直す機運が高まっているのも事実。在宅勤務制度やスカイプなどウェブツールの普及で、普通の会社員でも選択の可能性が広がってきた。「田舎暮らしをしたいなら都会の仕事を諦めるしかない」という常識を手放した先には新しい生活が待っているかもしれない。

(生活情報部 松原礼奈)

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