静脈・瞳で「私」を証明 生体認証の用途広がる

指紋や静脈で本人確認をする「生体認証」の利用が広がっている。安全性や利便性が高く、タブレット端末などへの導入が進む。将来は駅改札や住宅への応用も模索され始めた。

「私の資産構成はどうなっていますか」。福岡市。個人向け金融商品を販売する福岡銀行の山田茜さん(24)は訪問先の男性顧客(60)に聞かれ、タブレット端末に手のひらをかざした。静脈が読み取られログイン。画面で円グラフを示すと、顧客は「国内株が多いな」と構成比を7割から4割に下げると即決した。

生産性・安全性高く

ふくおかフィナンシャルグループは昨年、福岡銀など傘下3行に同様の端末を2000台導入。銀行職員数の3割以上に相当する。従来は紙の資料を印刷し、端末の持ち出しには承認が必要だったが、「事前準備を短縮でき、資料を取りに戻る必要もない。訪問件数が増えた」と山田さん。安全性を確保しながら業務の効率化を実現している。

「目を大きく開いて図のように映してください」――。東京都内に住む男性会社員(27)は6月、瞳の回りの膜「虹彩」で認証できる初のスマートフォンを購入し、画面の指示に従い早速、虹彩情報を登録した。「パスワードを入力する手間が省ける。仕事用なので偽造が難しいという虹彩認証を選んだ」と話す。このスマホはNTTドコモが5月に発売した。開発した富士通の調査では購入者の約7割が虹彩情報を登録。虹彩認証の関心の高さを示す。

究極の認証技術とされる生体認証。用途はさらに広がる。日立製作所は昨年12月、歩きながら個人認証ができる自動改札機型の指静脈認証ゲートを試作した。駅で実用化すれば、乗客は乗車用ICカード「Suica」などの代わりに、指の静脈をかざすだけ。朝夕の通学・通勤の風景は大きく変わるかもしれない。

歩きながら本人確認ができる指静脈認証ゲートの実用化研究が進む(日立製作所中央研究所=東京都国分寺市)

富士経済の予測では生体認証を使う製品・システムの市場規模は2017年までの5年間で約1.4倍の161億円に達する。これまでも犯罪捜査や出入国管理で指紋や顔認証が使われてきたが、近年静脈認証が増えている。シリコンによる偽造例のある指紋に比べ静脈は偽造リスクが低いことなどが背景にある。

従来のパスワード認証は忘れるリスクや入力の手間がかかるため「パスワード疲れ」が指摘されている。タブレット端末やスマホはパスワード入力が特に煩わしいとの声もある。こうした中で生体認証が使える製品開発が進んだことも普及を後押ししている。

生体認証で利便性をさらに追求すると、何ができるか。情報システム各社は「住宅や自動車のキーとしての生体認証技術も実用化に向け研究開発中だ」(富士通パームセキュアビジネス推進部)。「自宅の玄関口に手をかざしてロックを解除」「自動車のハンドル部分に手をかざしてエンジンが動く」――。こんな社会が到来する可能性もある。

「利用せず」が85%

とはいえ社会全体でみれば普及はこれからだ。クロス・マーケティングを通じて実施したネット調査では、生体認証を「利用したことがない」と答えた人は全体の85.7%に上った。うち、41.5%が「偽造など悪用の恐れが一生続く」と不安を感じている。セキュリティー面で100%の安全は難しい。情報システム各社は暗号化技術などのさらなる向上に向けて研究開発を急ピッチで進めている。

情報化社会では価値ある情報へのアクセス制限が厳格化し、個人認証の重要性も増している。窮屈な社会とも言えるが、情報セキュリティ大学院大学の林紘一郎教授は「情報化社会で生きるには、自分が誰であるかを示す身分証明は不可欠だ」と指摘する。そんな中で少しでも安全に便利にという生体認証が、暮らしの仕組みとなっていくのは時間の問題かもしれない。

パスワード疲れで歓迎の声 新たな認識技術に感心も

短文投稿サイトのツイッターでは、生体認証について様々なつぶやきが見られた。

「生体認証はセキュリティ対策だけでなく、パスワード管理の負担も軽減するのでおすすめです!」「出来る限り何でも生体認証でお願いしたいです。パスワードいくつあるんだよってほんともう」とパスワード疲れに絡む書き込みのほか、「自宅の鍵とかもう生体認証にするべき」というつぶやきもあった。

また「脳波パターンによる個人特定の技術を応用すると新たな個人認証技術が確立される」と技術面に関心を示す書き込みもあった。

一方、「最近のスマートフォンは生体認証なんてものがあるのか気持ちわる」「スマホでの生体認証なんかが普及したら、パスワードと違って外から見えるから拉致、監禁、殺害なんて凶悪犯罪が増えるかもしれない」と批判的なつぶやきもあった。

この調査はホットリンクの協力を得た。

(福士譲)

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