しくじり先生、自身の黒歴史を語る形式で人気番組に日経エンタテインメント!

初回は2013年11月。ゴールデン進出にあたり番組スタッフが心がけたのは深夜テイストのまま勝負すること。「いろいろ変えた結果、半年で終わるしくじりだけは避けたい」(北野氏)。月曜20時/テレビ朝日系

芸能、スポーツ、政治など、様々な分野の人物が先生となり、授業形式で自身の失敗談を披露する『しくじり先生』。3度の単発を経て、昨年10月から深夜帯で放送されていた同番組が、この春、月曜20時に昇格した。半年でのゴールデン進出は異例のスピード出世だ。

オリエンタルラジオが天狗になって干された話や、元木大介が巨人軍のスター街道から外れていったプロセス、ヒット曲『それが大事』を歌いすぎて何が大事か分からなくなってしまった立川俊之など、当事者にとってはしょっぱすぎる黒歴史を、本人が分かりやすく説明する。人の失敗話という興味深さだけでなく、敗因と教訓をきっちり解説する点が肝だ。ゴールデン初回には堀江貴文、前園真聖らが登場、視聴率12.8%(関東)という上々の滑り出しを見せた。

ハイクオリティーの教科書

番組の面白さに大きく貢献しているのは、「教科書」と呼ばれる小道具(右)。100ページ近くになることもあるこの“教材”には、当時の写真や、失敗の流れを説明するチャート、格言として書き出されたポイントなど、面白くてためになる内容が満載。授業はこれをめくりながら進んでいく。

番組では先生別に担当をつけるチーム制の形をとっている。先生1人につき、プロデューサー、ディレクター、放送作家、AP、ADという5名が専属となり、そのチームが先生役となるゲストと打ち合わせを重ねながら教科書は作られる。

「最初に3時間くらい、雑談込みの打ち合わせをしながら教科書の構成を考えます。とは言っても遠回しに話を進めるのではなく、単刀直入に『しくじりましたよね?』と。そこを分かってもらわないと始まらない番組なので(笑)。そのあと、事実確認のための深い話を1、2回各2~3時間かけて行っています」(北野貴章チーフ・ディレクター)

番組の企画者でもある北野氏は29歳で、ゴールデンのチーフDとしてはテレビ朝日で最も若い制作マン。AD時代に怒られてばかりだった自身の経験を企画書にしたためて生まれたのがこの番組だ。

表は5月25日放送分までをまとめたもの。

教科書完成への道のりはまだ序の口。ベースができると今度は全体会議の「審議」にかけられる。

「担当チームが会議に持ってくる段階でもかなりの精度なんですが、授業で使うまとめの一句や格言はさらに全員で揉みます。会議では、一部の人間しか発言できない雰囲気が嫌なので、肩書きに関係なく誰もがフラットに言い合えるようにしているんですが、他のチームに対して相当辛口な発言もある。それぞれプライドがあるから必死です」(冨澤有人プロデューサー)

そうやってできた教科書を持って臨む番組収録当日。まだ作業は終わらない。

「収録当日は教科書をもとに2時間ほど打ち合わせをしますが、先生も覚悟と決意を持って来る。自分をさらけ出すわけですから考えれば考えるほどリクエストが出てきます。最終打ち合わせでスイッチの入る先生もいて、その修正に追われます(笑)」(冨澤氏)

番組を楽しくしているもうひとつの要素が若林正恭や吉村崇ら、聞き手たちの存在だ。というのもこの番組、先生役のゲストが進行するという変則構造。バラエティに慣れていない先生も多いため、ぎこちなくならないように若林らがツッコミやフォローを挟むという隠れ技のなかで進む。2人の起用理由は“柔らかさ”だと言う。

「『しくじったじゃないですか!』と言いつつ先生を立て、決して相手を攻撃したり傷つけたりしない。若林さんや吉村さんには、面白さの中に優しさがある」(北野氏)

聞き手たちの温かいヤジのなかでは、打ち合わせで絶対NGと言われていたことも、本番で気持ちよくなってつい口に…という展開も少なくないのだそうだ。

失敗というテーマゆえ、キャスティングには苦労しているが、冨澤氏はこんなふうに思っている。

「今はどんな業界も『失敗しちゃダメ』という風潮が強まっている気がする。しくじったら終わりなんじゃなく、またスタートを切ればいいという考えが少しでも浸透してくれれば」(冨澤氏)

番組に対する共感の輪はまだまだ広がっていくはずだ。

(ライター 田中あおい、木村尚恵)

[日経エンタテインメント! 2015年7月号の記事を再構成]

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