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映像で見る明治日本の産業革命遺産 地元活性化に活用

2015/7/5

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会は5日、「明治日本の産業革命遺産」(福岡、長崎、山口など8県の23資産)を世界文化遺産に登録すると正式決定した。ただ、昨年登録が決まった富岡製糸場(群馬県)などと比べると一つ一つが小粒なのは否めない。産業革命遺産とはどんなものか。地元はどう地域活性化につなげようとしているのか。

「19世紀末の日本の近代化は世界の奇跡と言われた。その資産の一部がここにある」。山口県萩市の野村興児市長は口癖のようにこう語る。産業革命遺産は福岡、佐賀、長崎、熊本、鹿児島、山口、岩手、静岡の8県11市に点在する。

政府は「シリアル・ノミネーション(同種遺産の一括推薦)」という方法で、集合体としての価値を訴えた。その価値をちゃんと理解するには近代化のストーリーを知ることが重要だ。

例えば構成資産の一つである萩市の萩反射炉。造られたのには時代背景があった。アジアへの進出を強めていた欧州列強に対抗しようと長州藩の武士らは海防を強化。洋式の鉄製大砲の鋳造を試みる。その中で13代藩主、毛利敬親は金属溶解炉の反射炉を建設しようと決断した。

このようなストーリーがあるからこそ反射炉も萩城下町(城跡や旧上級武家地)も産業革命に関わる遺産なのだ。幕末の思想家、吉田松陰が主宰した松下村塾では伊藤博文ら近代化を進めた多くの人材が学んだ。

産業革命遺産の地元は世界遺産登録を地域活性化に結びつけようと奔走する。5つの資産がある萩市は観光客の増加に備え受け入れ態勢を急ピッチで強化している。反射炉近くに新たに自動車10台程度を収容できる駐車場を整備。反射炉と恵美須ケ鼻造船所跡ではガイドの常駐を始めた。

市の中心部から遠い山中にあり、大型バスが入るのが難しい資産の大板山たたら製鉄遺跡はアクセスが課題だった。市は今夏から同遺跡と近くの道の駅とを結ぶマイクロバスを予約制で運行する。萩博物館では産業革命遺産の解説コーナーを充実。「近代化のストーリーを訴えていきたい」と道迫真吾主任学芸員は強調する。

3つの資産がある鹿児島県の伊藤祐一郎知事も鼻息が荒い。「(11代薩摩藩主の)島津斉彬公がいて、初めて今回のプロジェクトがある」と語っている。

鹿児島市は資産の「寺山炭窯跡」や「関吉の疎水溝」の周辺を中心に臨時案内看板を設置。来場者の増加に対応している。鹿児島県立図書館の原口泉館長は構成資産以外にも近代の産業遺産が県内に多くあることを指摘。産業革命遺産と関連づけて紹介していくべきだとの考えを示す。

一方で、今回の産業革命遺産は稼働中の施設が含まれ、企業活動への配慮と地域活性化の両立を迫られる自治体もある。北九州市の官営八幡製鉄所(現・新日鉄住金八幡製鉄所)関連施設では、司令塔の機能を担った「旧本事務所」などが操業中の製鉄所構内にあり、新日鉄住金は施設への立ち入りを禁止している。市が粘り強く交渉を重ねた結果、製鉄所の敷地内で旧本事務所の外観を見渡せる「眺望スペース」の整備が実現し、今春完成した。新日鉄住金側は5日にバスツアーの受け入れも表明するなど姿勢が変わってきており、意見交換を密にして知恵を絞る官民の取り組みが地域活性化との両立のカギを握る。

今のところ地元の観光振興策は「点」での取り組みが目立つ。今回は8県にまたがるという日本では異例の世界遺産となった。観光振興をより効果的にするためなるべく多くの資産を理解してもらい、さらには周遊をも促すような新たな戦略が求められる。

(伊藤健史、松尾哲司、青木志成)

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