「きめ細かな視点」で新事業 女性起業家、変革を主導日経BPヒット総合研究所 佐藤珠希

日経BPヒット総合研究所

エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を切るコラム「ヒットのひみつ」。今回のキーワードは「女性起業家」です。国内の起業希望者数が減少傾向にあるなか、新たな起業・創業の担い手として女性への期待が高まっています。

国の成長戦略で重要な柱に据えられている産業の新陳代謝の促進。先に閣議決定された「日本再興戦略 改訂2015」素案においても、ベンチャー創出の促進がうたわれている。

しかし、国内の起業希望者数は減少傾向にあり、開業率も4.8%(2013年度)と低水準。国が目標に掲げる「欧米並みの10%台」はまだまだ遠い。

起業希望者に占める女性の割合は上昇

創業意欲の低迷が課題となる中、新たな起業・創業の担い手として期待を集めているのが女性だ。『2014年版中小企業白書』によると、起業希望者に占める女性の割合は33.4%と1979年以降では最も高くなっている。女性が活躍する場の拡大に向けた取り組みが進む中、女性の起業家支援に向けた動きも活発化している。

女性の起業に追い風が吹く中、日本政策投資銀行(DBJ)が実施する日本最大級の女性起業家のビジネスプランコンテスト「DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」のファイナリスト10人ならびに受賞者の発表・表彰式が2015年6月22日、東京都内で開催された。

同コンペティションは、女性の起業支援を目的にDBJが年1回開催しているもので、2015年で4回目。昨年を100件近く上回る406件の応募があった。

事業が発展する可能性が高いと認められた受賞者には、最大1000万円の事業奨励金のほか、外部識者による経営サポートのためのメンタリングが行われる。

今年のファイナリストとなった10人の女性起業家が手掛ける事業内容は食、地域創生、子育てや障害者支援からコンサルティングまで多岐にわたった。その多くに共通していたのが、身の回りにあるものの価値を再発見し、新たなビジネスにつなげていこうとする姿勢だ。

6月に開催された「DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」の表彰式。前列中央が女性起業家大賞の矢島里佳氏(撮影:東京都千代区)

職人のワザを高品質な子ども用品に

女性起業大賞を受賞した矢島里佳氏(26)が手がけるのは、日本の伝統産業の技術を生かした子ども向けの上質な日用品ブランド「aeru」。

全国各地の伝統産業に携わる職人とのコラボレーションにより、0~6歳の子ども向けの日用品を開発。東京・目黒の直営店やインターネットで販売する。津軽塗の子供用コップや、徳島の本藍染めの産着など、職人が手作りしたデザイン性の高い商品は、贈答品用としても人気を集めている。

「日本の伝統産業の技術を生かして子ども向け日用品の国産ハイブランドをつくることで、伝統産業を守り、次世代に日本の伝統をつなぎたい」と矢島氏は力を込める。

『青森県から 津軽塗の こぼしにくいコップ』。価格1万4000円(税別)/aeru
『徳島県から 本藍染の 出産祝いセット』 。価格2万5000円(税別)/aeru

女性起業地域みらい賞を受賞した坪内知佳氏(29)が手掛けるのは、地元・山口県萩市大島の漁師たちが釣った魚の自家出荷だ。漁獲量が減り、後継者もいない水産業の島に活気を取り戻すべく、漁業の「6次産業化」への取り組みを指揮。「萩大島船団丸」というブランドを立ち上げ、所属する漁師が釣って箱詰めした魚の情報を、坪内氏がSNSを使い飲食店とリアルタイムでやりとりし、販売する。

通常ルートであれば数日かかる納品も自家出荷なら最短8時間で可能。高鮮度・高付加価値の出荷を実現し、「現在は浜値の数倍から数十倍での販売をスムーズに行えるようになった」(坪内氏)。新たに干物販売も手がけるなど、6次産業化により「家業から企業へ」を実現することで、漁業の未来を切り拓くべく奔走する。

ほかにも、石川県に根付く発酵食文化の価値を全国に発信する体験型プロジェクト「発酵食大学」を手がける成田由里氏(47)や、深刻な過疎化・高齢化が進む静岡市の山村(旧玉川村)で、林業体験を通じて山村と街をつなげる事業を手がける「玉川きこり社」を設立した原田さやか氏(36)など、その地域が持つ伝統や産業の価値を、時代のニーズにあった形で商品化・サービス化し、ビジネスにつなげる女性起業家の存在感が目を引いた。

細やかな視点から事業を生み出す

時代の変化に取り残されそうになっているものの価値、あるいは目の前にある課題からビジネスの芽を見出し、育てようとする女性起業家たち。

そこに共通するのは「きめ細やかな視点」だと、DBJ女性起業サポートセンター長の原田文代氏は指摘する。「身の回りにあるものの価値や既存の資源を生かす、あるいは身の回りにある問題点を放置せずに、解決しようとする。多くの人が見逃してしまいがちなことに目を向ける細やかな視点から、新しい事業が生み出されていると感じる」。

自身の事業に社会的な意義を見い出すだけでなく、それを「事業」として成り立たせることで、継続していく。ファイナリストの多くが、自ら手がける事業によって、地域や社会の未来をつくると語ったことも印象的だった。

「女性たちが新しい視点でビジネスを立ち上げることは、経済の成長につながるだけでなく、社会を変革する原動力になる」と原田氏。

イノベーションの芽を育くむ土壌は今、着実に広がっている。

佐藤珠希(さとう・たまき)
日経BPヒット総合研究所上席研究員、日経BP社ビズライフ局長補佐。『日経WOMAN soeur』編集長。毎日新聞社、ベネッセコーポレーションを経て、2004年日経BP社入社。『日経WOMAN』『日経EW』『日経マネー』各編集部を経て、2009年『日経WOMAN』副編集長、2012年『日経WOMAN』編集長。2015年1月から現職。
[参考]日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見をもとに、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。
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