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金融パパが保育園・子育て支援政策に関わってみたら

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日経DUAL
こんにちは、治部れんげです。子どもに関する社会問題に怒りを覚えた際に、どんな解決方法があるのかを考えてきました。政治問題にもっと積極的に関わろうと呼びかける試みや、地域のママが立ち上がって保育園増設を求めた運動などを紹介してきました。今回は少し視点を変え、論理的な思考、そして、数字をきちんと見ることによって得られるものについて考えます。

金融企業経営者の忙しさにもかかわらず、地域の子育て政策づくりに深く関与

今回ご登場いただくのは、楠田喜彦(くすだ・よしひこ)さん。40代の金融マンで、2014年にマザーズに上場したファイナンス系企業で商品開発担当執行役員を務めています。共働きで、小学生のお子さんが2人います。

筆者はつい最近まで、楠田さんと同じ東京の文京区に住んでおり、保育園の保護者の会を通じて知り合いました。お互い「子どもは社会の宝」とか「質の高い保育環境が大事」と考えるだけでなく、「子どものための政策を勝ち取るために、論理的にものを考え、幅広いステイクホルダー(利害関係者)の合意を得ることが大事」という視点も共通しており、意気投合しました 。

役員任期が終わった後も、地元の「子ども・子育て会議」の委員になった楠田さんから、「こういう提案をまとめようと思っているのですが、どう思いますか」という趣旨のメールが届きました。

緻密な内容に「すごいなあ」と感心しただけでなく、考え抜かれた提案に「この人は保育政策の専門家だったっけ」と思ってしまうことも多々ありました。楠田さんの専門分野は金融ビジネス。リーマン・ブラザーズで住宅ローンを扱う日本子会社の社長を務めていたこともあるのです。

そんな忙しそうな人がなぜ、保育園の活動に? さらに、なぜ、子ども・子育て会議の委員まで? と良い意味で疑問に思い、今回、インタビューにご登場いただくことにしました。

役員を引き受けた妻が直後に第二子妊娠。やむなく顔を出して巻き込まれた

治部 楠田さんが保育園の活動に関わったきっかけを教えていただけますか。

楠田さん(以下、敬称略)本当に偶然なんです。動機は不純で、上の子が保育園に入って2歳のころ、「下の学年で役員をやっておいたほうが面倒が少ない」と聞いたから。ところが、妻が役員を引き受けたとたん、妻は第二子を妊娠し、つわりで役員の係決めの会議に出られなくなり、やむなく僕が顔を出したら巻き込まれてしまいました。

―― 本当に「偶然」ですね。

楠田 そんな形で父母会に関わり始めたところ、区の保育園保護者の役員会の連絡会に出る係になったのです。「楠田さん、ゴルフしないから土日空いているよね、この会議に出る係をやってちょうだい」みたいな感じで。前任者からは「黙って資料をもらってきて」と言われただけ。始まりは、めちゃくちゃ消極的でした。

最初は黙って参加していたのですが、そのうち、「もっとこうしたら効率がいいのでは」とか「こういう風にしたほうが、保護者の主張が通りやすいのでは」と言いたいことが出てきて、口を出したら、翌年はその連絡会で役員をやるはめになっていました。

仕事柄、つじつまの合わない数字を放置できず「保育量のニーズ調査」を主導

―― 私もそれとよく似た経験をしたことがあります。区役所で開かれていた子ども政策を考える会議をたまたま見に行って、つい意見を言ってしまったら、それをきっかけにいつの間にかその会議の役員をやることになっていました(苦笑)。

 楠田さんは、子ども・子育て会議の委員として、地域の「保育量ニーズ調査」に関わっていましたよね。シンクタンクやコンサルタント顔負けの精緻な試算、そして、その根拠提示の説得力に感銘を受けました。

楠田 仕事柄、つじつまの合わない数字を見ると放置できない性分で…。僕が関わった「保育量のニーズ調査」は、それを基に地方自治体が保育所の増設や保育内容を決める重要なものです 。保育に使える予算を考えると「ニーズ量」をきちんと把握してこそ「質(保育の中身、どんな保育をするか)」を考えることができるわけです。

自分の子どもが地域の保育園で楽しく過ごしてきた経験を踏まえると、そういう「高い質」を確保しつつ「量を必要な分だけ確保する」には、現実的なバランス感覚も必要になると考えています。

―― 確か、楠田さんが補正して試算したニーズ量は、国の示した算定手法で出て来る数字より小さい結果になっていたと思います。

楠田 これは、国の標準手法に難がありましたね。文京区でも、前回(5年前)の計画策定の際のニーズ調査では国の手法をそのまま使ったら、ニーズ量が実際の保育園児数の約2倍になってしまい、「いくらなんでもこれはないから」とその数字は使わない計画になってしまったんですね。そこで、今回改めて、5年前のニーズ調査結果の生データを分析してみました。本当は、実際の数字とその大きすぎる数字の間に狙うべき水準があったはずですから。

アンケート回答者の偏り(サンプリングバイアス)の補正や、ニーズの切実度の強弱での絞り込みを掛けてみたところ、「待機児童解消も期待できそうな、馬鹿げて大きくもない数字」になることが分かったのです。そこで、今回のニーズ調査では、そういう絞り込みができるように調査票の質問の修正や追加をしました。その結果、実状にかなり近い数量を算定できました 。

現実路線を示したほうが、子どもの環境は守ることができる

―― 確かに、ビジネス感覚で予算立てをするなら、そういうやり方になりますよね。

 さて、通常、働く親は「質の高い保育園をもっとたくさん作ってほしい」と行政に要望します。楠田さんが、客観的な指標を使いつつも、あえて、行政が当初考えていたものより抑え目の試算を出した理由を教えて下さい。

楠田 現実路線を示したほうが、子どもの環境は守ることができる、と考えているためです。現実よりも過大な数量目標を掲げてしまうと「予算を考えるとできるだけ人手は増やさずに」とか、「この数字は使うのはやめよう」とか、下手をしたら「子育て支援のこのサービスは大きすぎるニーズに応えきれないから、やめてしまおう」という議論になりかねません。それを危惧しました。

そもそも、文京区のみならず、都心では子どもが急増しています。文京区でも未就学児の人口が5年で2割も増えている。そういう中で、実状に合った保育ニーズを試算することは、保育園だけでなく、就学以降、共働き家庭を支える学童保育の維持にも大切だと思いました。

―― 保育ニーズが「大きすぎる」場合、学童保育を維持できない、ということでしょうか。

楠田 簡単に言えば、そうなります。たとえニーズが大きく出ても、保育園の設置は自治体に義務付けられているので、何とか頑張って作るでしょう。でも、学童のほうは、自治体には義務付けられておらず、努力目標になっています。

その結果、都心部で子どもが増えている自治体では、親の就業形態を問わず「全児童向け、放課後はみんなおいで 」とする代わり、より強いニーズがあるはずの共働き家庭の子どもの放課後に対する配慮としては今一つ、という傾向も見られます。「誰もが使える」ことは一見望ましいですが、「よりニーズの高い子どもが何人くらいいるか」をきちんと把握しないと「全員向けの薄めのサービス」になってしまうのです。

保護者は保育現場に対してより、大枠の話に意見を出すべきだ

―― 試算結果について、行政の反応はいかがでしたか。

楠田 驚いていました。保護者なのに、国の標準手法より少な目の数量を提案したわけですから。でも、先ほどもお話したように、数字は論理的に積み上げた根拠のあるものです。

子育て支援政策を語っていると、どうしても感情論になりがちです。子どもはかわいいし、大事ですから。僕も親としてそこは同意します。一方で、忙しいからこそ子どもを預けている保護者としては、昼間の現場のサービスの問題は現場の先生を信頼して預けるしかない部分もあります。

ですから、どちらかというと、その現場を支える大枠の話にこそ、保護者が意見を出す意味があるのではないかと思うんですね。そうなると、何をどのくらい実施するかという事業量の話はとても大事ですし、それを決める際は論理的に考えて数字をきちんと見た方がいいと思います。数字に右も左もありませんから。

今回出した試算には「のりしろ」がありません。だから、毎年見直し、ニーズが急増するような要素、例えば共働き率の上昇や人口流入があった場合は、行政もその年度内に対応する体制を取ってくれています。例を挙げると、今年度はある地域の学童保育が足りないことが年明けに判明しました。行政はわずか2カ月で学童保育の臨時対策を決めて、必要な子どもを受け入れられるように手配してくれました。

―― 2カ月で対応してくれたというのは、すばらしいですね。

楠田 文京区では住民と行政の間に、信頼関係があると思います。住民は前向きに意見を言い、過大な要求はしない。それを分かっているので、行政も住民の要求には出来る限り応える。

そもそも、保育ニーズの算定のみならず、子ども・子育て会議などの協議体に保護者代表が関われるのは、文京区の特徴です。住民参加の自治が行われていることで、優先度の高い施策を実施しやすい、ということは言えるのではないでしょうか。

地元の父母会は子どもがいるからこその機会。気軽に顔を出してみては

―― 本連載はタイトルにありますように、30代向けです。30代のパパママにメッセージをいただけますでしょうか。

楠田 地元の父母会に関わると、地域の友人が増えます。仕事に関係ない同世代の友達と子ども達も一緒にキャンプやバーベキューをするのは、とても楽しい。子どもがいるからこその機会なので、まずは気軽に顔を出してみたらどうでしょうか。どこまでやるかは一人ひとりのご判断ですから、みんなが僕みたいに深く関わる必要はないですけど、僕自身は、区の審議会とかに出させてもらって、大人の社会科見学という感じで勉強になることも多かったですね。

取材後記
 楠田さんのお仕事は、業界や職種を聞くと「忙しそう」「子育てに関わる時間がなさそう」と思われるかもしれません。しかも、かつてはリーマン・ブラザーズの日本における住宅ローン子会社で社長。リーマン・ショックのときは、その影響を直接受けて、保育園関連の活動はしばらくお休みしていた、と言います。

 今回のお話は「数字を客観的に見ること」「現実的に政策を考えること」の重要性をお伝えするものでした。お金や時間など、制約がある中で、説得力ある議論を展開する方法論としても、参考にしていただけたらと思います。
治部 れんげ
昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社入社。経済誌の記者・編集者を務める。その間、2006~07年フルブライト・ジャーナリストプログラムで米国留学。ミシガン大学客員研究員としてアメリカの共働き子育て先進事例を調査。13年4月から現職。社会人教育を手掛ける企業で編集者として働きながら、国内外の共働き子育て事情について調査、執筆、講演などを行う。著書『稼ぐ妻・育てる夫―夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)、『ふたりの子育てルール』(PHP研究所)。息子(小学生)と娘(幼稚園児)の母親。家事・育児を夫婦で半々に分担しながら、核家族の共働き子育て6年目。考え方の基本は「大人に市場主義、子どもに社会主義」。

[日経DUAL 2015年5月26日付記事を再構成]

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