「求む、女性議員」 永田町、与野党が機運高める
安倍晋三首相が掲げた女性活躍政策を受け、女性議員を増やそうという機運が永田町で盛り上がり始めている。掛け声のお膝元である女性国会議員はまだ、全体の1割程度しかいない。女性の政治参加は拡大するだろうか。
2014年末、選挙を勝ち抜いた異色の経歴の女性議員が国会に初登院した。比例東京ブロックで当選した自民党の前川恵衆院議員(39)だ。20代の頃から料理研究家として活動し、東日本大震災後は食の安全や食品ロスの削減などの研究に取り組む団体をつくった。
なぜ政治家を目指したのか。食の安全を学び調べるため官庁を回るなかで「正しい情報を自分の目、足で集めて多くの人のためになる政策を実現したい」と思うようになった。例えば輸入食材は国が認めたものしか、消費者は買えない。「国というおおもとで取り組み、世の中に伝えたい気持ちが強かった」と話す。
国会では農林水産委員会、環境委員会、消費者問題特別委員会に所属する。いずれもこれまでの経験を生かせる場所だ。農林漁業や防災、地域活性化に、女性ならではの生活に根ざした発想を取り入れようと奮闘する。
男性社会の永田町にあって前川さんは「女性だからではなく、能力に応じて自然に女性が増えてくるのが望ましい。そういう女性が増えれば生活に密着した政策のアイデアが中心になってくる」と話す。
女性の視点を政治に取り込もうという問題意識は与野党共通の課題だ。2月には衆参両院議員の候補者の一定割合を女性にする「クオータ制」の導入を目指して、超党派の議連が発足した。
自民党は前回衆院選の候補者の女性比率が1割強だ。数値目標や行動計画、女性候補者の比率を高めるための仕組みについて検討を始めた。
野党からもユニークな取り組みが出てきた。「これから数年で次元の違うような増やし方をしないといけない」。6月中旬、岡田克也民主党代表(61)は全国の党役員を集めた会合でこう呼びかけ、全国比例11ブロックごとに政治家養成スクールを年内に設立する方針を示した。各ブロックの幹事長には受講生の募集計画や講座の日程準備を始めるよう要請した。
想定する講座は政策課題の解説や現場の視察、党役員による政局解説、選挙活動など多岐にわたる。女性に政治を身近に感じてもらい、政界進出に意欲を持ってもらう機会にしようと党幹部は意気込む。
こうした取り組みは女性候補がうまく集まっていないことが背景にある。同党は今春、全国で女性候補を公募した。党内女性議員の一日を紹介した専用サイトや配布物を用意。書類だけでなく自己PRの動画を送ってもらうユニークな選考を打ち出し、応募者は「2桁いった」(党関係者)。講座で応募者をさらに開拓する。
政府も本腰を入れ始めた。14年秋の内閣改造で初入閣した有村治子女性活躍相(44)は各方面への働きかけに精力的に動いている。5月下旬、有村氏が訪ねたのは東京都千代田区のビルの一室。「女性が政治に参画することはまちづくりにも生きてくる。ご協力をお願いします」。全国市議会議長会の会長を務める佐藤祐文横浜市議会議長を前に頭を下げた。
この日の要請は全国の市議会の規則に、出産に伴う欠席の規定を設けてほしいというもの。多くの地方議会は産休の規定を持たず、女性議員が出産で休むことは「事故」による休暇と見なされる。慣行を改め女性が働きやすい議会をつくることで女性議員を増やす作戦だ。佐藤議長は「地方に趣旨をしっかり伝える」と応じ、すぐに議長会がつくる市議会の標準規則に産休の規定を加えた。
日本の女性国会議員の人数は衆議院が45人で9.5%、参議院が38人で15.7%。地方議会の女性議員比率は都道府県で8.8%、市区町村で11.8%と低く、地方議員で経験を積んで国会に挑戦するという道も狭い。
衆院選前の14年10月時点の数字をみると、下院(日本は衆議院)の女性比率で日本は189カ国中162位。経済協力開発機構(OECD)加盟国の間では最下位で、世界平均の22.2%に遠く及ばないのが現状だ。先進国でもドイツ(36.5%)やイタリア(31.4%)などでは女性議員が3割を超す。
世界経済フォーラム(WEF)が調べた男女平等の度合いを示す指数(14年版)で日本は142カ国中104位。なかでも政治分野では129位だ。女性活躍推進法案で経済界に対策を求める一方、自らの改革が進まない政治に批判の声がある。世界的に後れをとる日本が女性議員を増やすためには各党や政府の強力な取り組みが不可欠だ。
(甲原潤之介)
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