曲がり角の成年後見制度 新規利用申請が頭打ち

認知症で判断能力が低下した高齢者らに代わり財産管理などをする「成年後見制度」が曲がり角にさしかかっている。介護保険と共に高齢化社会を支える車の両輪として2000年4月に導入以来15年。介護保険の利用は500万人台だが、成年後見制度は18万人台。新規の利用申し立ても足踏み状態だ。制度があまり知られていない上、利用を敬遠する家族が少なくない。利用者を増やすには制度の見直しが必要だ。

「利用者数は増加し過去最高だが、新規の利用申立件数が2年連続で減ったのが気になる」。成年後見人を務める司法書士の団体「成年後見センター・リーガルサポート」相談役の大貫正男氏は心配する。「この傾向が続くといずれ利用者数も足踏みしかねない」という。

成年後見制度は認知症や精神障害、知的障害で判断能力が低下した人に代わり、法定代理人である成年後見人らが本人の財産管理や施設への入所契約などをして生活を支援する制度。利用するには家族らが家庭裁判所へ申し立て、家裁が可否を決める。

導入のきっかけは00年4月の介護保険の創設だ。介護施設の入所などが行政処分(措置)から契約に切り替えられたのに伴い、判断能力に乏しい人を代理する仕組みが必要になった。

ただ、この15年間で両制度は大きな差がついた。介護保険の利用者は導入当初149万人だったが、今年2月には約510万人と約3.4倍に膨らんだ。これに対して成年後見制度の利用者は14年末で18万4670人(グラフA)。身体障害者は成年後見制度を利用できないが、それを考慮しても利用者数が少ない。約460万人いる認知症高齢者の4%にすぎない。

気掛かりは利用の新規申立件数が昨年3万4373件と13年比0.5%減となった点(グラフB)。微減とはいえ新規申立件数は2年連続の減少(13年は12年比0.4%減の3万4548件)となった。

成年後見制度には本人の判断能力に応じて3つの種類がある(表C)。「保佐」「補助」の新規利用申し立てはいずれも増加傾向にあるが、判断能力がほとんどない人のための「後見」の減少が足を引っ張っている。

成年後見制度は開始から15年で足踏みし始めたとも言える。なぜだろう。

「制度の認知度が介護保険に比べて依然低い」と弁護士の上柳敏郎氏。介護保険は専門家による介護サービスを受けられるため、本人や家族に制度を利用する積極的な動機がある。

これに対して成年後見制度は「第三者から求められて初めて制度の存在を知り、やむなく利用する例が少なくない」(複数の弁護士、司法書士)。

それを物語るのが利用申し立ての動機(グラフD)だ。「預貯金の管理・解約」「施設入所などのための介護保険契約」などが多い。銀行は本人の判断能力が低下し預金管理ができない場合、成年後見制度の利用を求める。

「家族が利用に前向きでないことも足踏みの原因の一つ」と司法書士の山北英仁氏は指摘する。

家裁へ申し立てる際は本人の財産を調べ、書類を整える必要がある。利用が始まると、死亡などの理由がない限り原則、やめられない。「本人の預貯金の換金が済んだからといって利用をやめることはできない」(最高裁家庭局)。また、利用中は家裁に定期的に報告が必要。本人の財産の不正流用がないかをチェックするためだ。本人のためとはいえ家族に手間がかかる場合があり、それが敬遠の理由になっているという。

一方、後見制度支援信託は利用者が急増している。これは当面使わないと見込まれる本人の預貯金を家裁が指示して信託銀行に預けさせる制度で、12年2月に導入した。今年3月までの約3年間で利用件数は4391件、信託金額は約1589億円に達した。1件当たりの利用金額は約3619万円だ。

親族後見人による財産の不正流用は後を絶たない。後見制度支援信託は介護施設への入所などまとまった金額が必要な場合、親族後見人がその都度家裁に引き出しの許可を求める必要がある。家裁は不正防止に効果があると見ている。

成年後見制度の利用者を増やすためには何をどう見直せばいいのだろう。

「保佐や補助での利用を増やしていくことが必要」と大貫氏はいう。成年後見制度は判断能力がほとんどない「後見」段階が注目されがちだが、判断能力がかなり残る「保佐」「補助」の段階から利用すれば「本人の生活支援という制度本来の目的が徹底される」(山北氏)。保佐、補助の利用者が増え続けていることは制度の持続にとって評価できると言える。

制度の利用者が思うように増えないのは「後見人のなり手不足も大きな原因」(大貫氏)だ。そこで気になるのが親族後見人の割合が低いこと。司法書士、弁護士ら専門職など第三者の後見人の割合は昨年65%に達した。対して親族後見人は35%。家族に制度への理解を深めてもらい、後見人を引き受けやすい環境を整えることも必要だ。(編集委員 後藤直久)