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職場の知恵

マタハラNet代表に聞く、「現在進行形」の無理解 小酒部さやかさん

2015/6/22

妊娠や出産を機に、働く女性が職場で嫌がらせや不当な扱いを受けるマタニティーハラスメント(マタハラ)が後を絶たない。被害者の支援活動で米国務省の「世界の勇気ある女性」賞を3月に受賞した、マタニティハラスメント対策ネットワーク(マタハラNet)代表の小酒部さやかさんに理解が進まない現状を聞いた。

――活動開始から7月で丸1年です。

「マタハラNet」代表の小酒部(おさかべ)さやかさん 2005年多摩美術大卒、広告会社等を経て契約社員に。妊娠中に事実上の退職勧告を受け、後に流産。退職後、労働審判を申し出た。14年7月マタハラNet設立、38歳。

「妊娠後の職場での降格が男女雇用機会均等法に違反するとした2014年10月の最高裁判決、マタハラへの指導を強化した厚生労働省通達、米国務省からの表彰が相次ぎ、マタハラが話題と注目を集めた」

「女性が輝く社会をと言いつつ、日本ではいまだに問題がある。マタハラNetに届くコメントの半数は進行形の『これってマタハラ?』という疑問だ。多くの人に理解が行き渡っていない。情報発信や交流会開催、マタハラ防止の一文を法律に盛り込むための署名運動などを進めてきた」

――マタハラが起きる原因は何でしょうか。

「はびこる長時間労働と、女性は家庭へという性別役割の強い分担意識だと思う。高度経済成長の目いっぱい働き、稼ぐ労働者を重視する考えは健在。妊娠や出産、子育てで仕事に穴を空ける労働者に配慮は不要という発想は根強い」

「自分の家庭のあり方が最高だと信じて疑わない上司の傾向がある。私自身も妊娠中、上司に『妻が妊娠した時、すぐに仕事を辞めさせた』と言われた。価値観の一方的な押しつけを相手によかれと思う典型だ」

――女性の立場や気持ちに配慮が欠けている?

「加害者は男性に限らない。マタハラNetの調査で最多は男性上司(30%)だが、女性の経営者や上司が約2割に達した」

「職場のセクハラは男性から、パワハラは上司からの被害が圧倒的だが、マタハラは男女問わず、四方八方から矢が飛んでくる。妊娠中や出産前後は心身とも大変な時期。被害者は泣き寝入りしがちだ」

――妊娠や出産への理解が進んでいませんか。

「女性自身が妊娠後の労働に関する制度をよく知らない。周りに退職する例が多いと産休・育休を取るののは『契約社員は対象外』といった不正確な情報を真に受けやすい」

「病気やケガは不可抗力だが妊娠は自己責任という風潮が問題だ。『妊娠してすみませんでした』と謝罪文を書かされたという相談を受けた。これこそ子どもを産ませない社会だと思う。部下に妊娠の予定を聞くのも不適切。違法行為だけがマタハラではない」

――企業や組織の風土を変える切り札は何ですか。

「経営者の考え次第で変えられるはず。現在子育て中の男女の声や考えを聞いてほしい。上司に『早く帰ったら』と言われてありがたく思う人もいれば、職場に不必要な存在と見なされたと意欲を失う人もいる。価値観は多様化している」

「マタハラの加害者は男性とは限らない」と語る小酒部さん

「男女平等の意識があって初めて、女性が活躍する職場が実現する。入社後研修で『転勤中は妊娠しない方が良い』と言われた女性がいた。結婚や妊娠の機会を奪い晩婚・晩産化を招く発言。大きなお世話だ」

「少子化や労働人口が減る今、多くの人が諸事情を抱えながら働いている。休んだ分をサポートした人への評価、妊娠や出産を望まない人を想定した長期休暇などを整備してマタハラを解消できれば、あらゆる問題の解決が可能だ」

――今後の活動は。

「今回の受賞は課題解決に向けて安定的に活動することへの期待だと受け止めている。7月にNPO法人化して基盤を固める。他団体と連携し、活動の市民権を得たい。一生を懸けてマタハラ撲滅に取り組む」

◇           ◇

■育休後1年以内の解雇・降格は違法に

厚生労働省は1月、マタハラを防ぐため、各地の労働局に企業への指導を強化する通達を出した。妊娠や出産、育児休業の終了後、原則1年以内の解雇や降格を違法とみなすという新たな考え方を示した。悪質な企業名の公表を徹底し、被害拡大を食い止める。

従来は妊娠や出産を「理由として」解雇や降格した場合は法律違反と解釈していた。女性が不当な配置転換や降格をされても、会社側は「本人の能力不足」や経営の悪化を理由と主張し、女性が泣き寝入りする例が多かった。通達は不利益な取り扱いが妊娠と出産、育休から時間的に近いかどうかで判断し、1年以内なら「契機とした」としてマタハラと見なす。

連合の1月の千人調査によると、職場への妊娠報告に「ためらいがあった」と答えた女性は3分の1に達した。妊娠中に職場で勤務上の配慮を十分に受けられた人は45%にとどまり、19%は「一切受けられなかった」と回答した。マタハラを受けたと答えたのは正社員で24%、契約・派遣社員で22%に上り、うち8割以上がストレスを感じたという。

連合の南部美智代副事務局長は「妊娠や出産をスムーズにできる職場環境こそが、少子化対策の第一歩」と指摘。マンガで典型例を示した「働くみんなのマタハラ手帳」をウェブサイトで公開、情報発信に取り組む。

妊娠が分かった女性らに制度を知ってもらおうと、厚労省は今年度、母子手帳交付時に渡せるチラシを発行して自治体に配った。妊娠・出産や産休・育休などが理由の退職強要や配置転換など法律違反の例を明示し、パートやアルバイトでも要件を満たせば育休取得が可能と説明している。(南優子)

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