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宝塚歌劇団宙組公演「王家に捧ぐ歌」 新トップ、朝夏まなとが示した存在感

2015/6/21

宝塚歌劇団の宙(そら)組新トップ、朝夏(あさか)まなとが宝塚大劇場(兵庫県宝塚市)で上演中のお披露目公演で、トップに何よりも必要な華を備えていることを証明した。歌劇「王家に捧ぐ歌~オペラ『アイーダ』より~」(脚本・演出、木村信司)は2003年、湖月(こづき)わたる、壇れいの星組新トップコンビお披露目の際に初演された。湖月らの舞台は文化庁の芸術祭優秀賞を受賞するなど好評だっただけに、再演はプレッシャーがかかるだろうが、朝夏は愛に殉じる主人公ラメダスをはつらつと演じ、その人物像をくっきりと客席に印象づけた。

大劇場ではトップの力量が如実に表れる。中でも舞台中央前面の床に記された番号「0番」と、客席に張り出し、舞台上手と下手を弧につなぐ銀橋(ぎんきょう)に立った時だろう。「0番」はトップの立ち位置、銀橋はトップのみがソロで歌うことが許される。朝夏は立ち姿や歩の進め方がよく、どちらの位置でも存在感を増す。「陽の性格」を自認する朝夏。スポットライトと共に一身に浴びる2500人の観客の視線が心地よく、体内で視線を活力に転じているかのようだ。

2幕もので、紀元前2500年のエジプトが舞台。戦いを幾度も繰り広げるエジプトの若き武将ラメダスと、エジプトに囚(とら)われの身となったエチオピアの王女アイーダの純愛を描く。そこにラメダスに想いを寄せるエジプト王女アムネリスが絡む。イタリアの作曲家ヴェルディのオペラ「アイーダ」を基にしており、物語の大半が歌でつづられ、その歌もキー(調)が頻繁に変転する難しい作品だ。

アイーダを務めるトップ娘役、実咲凜音(みさき・りおん)は序盤、戦いの無益さを訴える歌を声量豊かに聴かせた。アイーダは強い意志を持つ役柄で、初演時は星組の2番手男役だった安蘭(あらん)けいが演じている。実咲はこの難役をものにし、祖国エチオピアと敵将ラメダスへの思いの間で揺れる心をにじませた。

朝夏も平和を求める歌で観客を引き付ける。この歌は殺陣の後に用意されているため、「息を持たせるのに苦労する」ともいうが、朝夏はそんなことを微塵(みじん)も感じさせず乗り切った。そして、2人は終盤、デェット「月の満ちるころ」を情感豊かに歌い上げ、この世で添い遂げられなくても互いを想い続ける心情を客席に届けた。

アムネリス役は、伶美(れいみ)うららが務める。初演は美貌をうたわれた娘役トップの壇れいが演じただけに、期待を込めての配役だろう。王女の豪華な衣装が似合い、登場時から視線をひき付けた。エチオピア王アモナスロ役の一樹千尋(いつき・ちひろ)、ファラオ(エジプト王)役の箙(えびら)かおるが好演。コーラスを得意にする宙組だけに、出演者それぞれが歌をうまくこなし、新トップをもり立てた。

最後に、出演者全員が舞台奥から引き出された全26段の大階段を順に降りてくるパレードが圧巻だ。劇中で用いた歌のさわりが歌われるが、よい曲ぞろいで、もう少し長く聴いていたくなる余韻を残す舞台だった。

所見したのは6月12日午後1時の舞台。5月に退団したばかりの元星組トップ男役、柚希礼音(ゆずき・れおん)が客席で観劇するというトピックスがあった。ファンは客席に姿を現した柚希を大歓声で迎えたが、彼女がトップの重責を果たしたと認めたからだったろう。演出家の重鎮、植田紳爾はトップ就任が決まった生徒(劇団員)に「おめでとう」ではなく、「あとは退団だけが君の仕事だ」と声をかけるという。トップとして一層成長した姿を見せてもらい、いい形での退団を望むからだ。朝夏もまたしかり。これからは歴代の中でも名を残すトップとしての成長を求められる。

「王家に捧ぐ歌~オペラ『アイーダ』より~」は7月13日まで宝塚大劇場。7月31日から8月30日まで東京宝塚劇場(東京・千代田)。

(編集委員 小橋弘之)

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