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就職活動している学生にとって空き時間の過ごし方は悩みの種だ。企業の説明会や面接は東京や大阪のビジネス街などに集中するため、空き時間をどう過ごすかで平均15万円ほどとされる就活費用が膨らむからだ。そんな学生たちの間で口コミで広がり、最近利用者が増えているのが就活生専用のカフェやラウンジだ。無料や低額で出入りでき、「スマートフォン(スマホ)も自分自身も充電できる」のが魅力という。

就活生からの質問に答える三井物産の社員たち(東京都港区の知るカフェ@慶応大学前店)

就活生からの質問に答える三井物産の社員たち(東京都港区の知るカフェ@慶応大学前店)

JR大阪駅から徒歩10分ほどのオフィスビルの一室に、汗だくの就活生が次々に入っていく。「就活カフェ」とある扉を開けると、カウンター席やテーブル席、ソファ、冷蔵庫などが並ぶベンチャー企業のオフィスだ。

独り静かにスマホを充電しながら一息つく学生がいれば、居合わせた就活生と談笑する学生もいる。利用料は無料で予約は不要。冷蔵庫のお茶は紙コップに注いで自由に飲める。兵庫県伊丹市在住で関西学院大学経済学部4年生の勝川周さん(21)は「多い日は4社も説明会がある。合間に大学や家に戻って出直すより、ここで過ごす方が気分転換になる」という。

駅前にコーヒーショップはたくさんあるが「混んでいるし、学生が頻繁に利用するには高い。ここはアクセスがいいし、無料で長居できる。必要なら人事コンサルタントに相談にのってもらえる」。立命館大学スポーツ健康科学部4年生の小槻陽平さん(22)は利用の動機を挙げる。

運営元のHRコンサルティング(大阪市)の田中克典代表は「就職戦線の実態を知ろうと昨夏から学生に開放した。最近は関西だけでなく、九州や北海道、四国などからの就活生が利用するようになり驚いている」と話す。

人材サービス会社のディスコ(東京・文京)の調査では、2015年卒の学生の就活費用は平均15万1326円だった。採用難で今年は説明会や就職セミナーの機会が増え、空き時間にかかる飲食代を節約しながら気持ちを切り替えたい学生は多いという。

そんな就活生と、有名大学の学生たちと交流したい企業の双方の思惑が合致した新たなスポットが「知るカフェ」だ。すでに東京、関西、名古屋などに10店舗あり、いずれも特定の有名大学の近隣にある。主な利用者はそれぞれの大学に通う学生たちだ。

店舗ごとにスポンサーと呼ぶ協賛企業を募り、スポンサーとなった企業は一定額を払って店内で学生との交流会や会社説明会などを開く仕組みだ。内装はカフェそのもので、登録した大学生はコーヒーや紅茶などを無料で飲め、スマホを充電できる。

「商談がうまくいかなかった時、どうやって乗り切ったんですか」「総合商社が手掛ける商談で必要な英語力は」――。就活生から矢継ぎ早に飛んでくる質問一つ一つに、20代の採用担当者が自らの体験談を交えながら丁寧に答える。「知るカフェ@慶応義塾大学前店」(東京・港)の奥のテーブル席で5月下旬に開いた「三井物産の採用担当者との交流会」での一コマだ。

参加した経済学部4年生の川本隆さん(仮名、22)は「一対一で1時間のOB訪問だと緊張して聞きたいことが聞けない。今日は学生4人が一緒に質問する形式だったのでじっくり話を聞けた」と満足した表情だ。慶応大前を含め計4店舗のスポンサーになった理由について三井物産は「近い距離で話をし、当社の等身大の姿を知ってもらうため」(人材開発室の村木亮氏)と説明する。

知るカフェを展開するエンリッション(京都市)の柿本優祐代表は「学生が社会人と接する機会はアルバイト先などに限られる。意中の会社の社員と直接話したい学生と、特定の大学の学生と交流したい企業を引き合わす場にしたい」と話す。すでに10店舗合わせたスポンサーは100社を超えたという。

夜行バスで早朝上京した立命館大の仲原さん(写真左、JR東京駅前の立命館東京キャンパス内の就活ラウンジ)

夜行バスで早朝上京した立命館大の仲原さん(写真左、JR東京駅前の立命館東京キャンパス内の就活ラウンジ)

郊外や地方からの遠征組の就活を支えるため、ラウンジを設ける大学も相次ぐ。一橋大学は13年春から千代田キャンパス(東京・千代田)内にラウンジを設け、国立市や小平市のキャンパスに通う学生が就活中に利用できるようにした。北海道の小樽商科大学は東京・東池袋の同窓会事務所内に「東京就活支援室」を7月下旬まで開設している。

JR東京駅前にある立命館東京キャンパス内の就活ラウンジは、利用者が多い日は100人を超える。いずれも関西の立命館大や大分県別府市の立命館アジア太平洋大の就活生だ。夜行バスで早朝に到着した産業社会学部4年生の仲原朋美さん(21)は「ここには着替えられるコーナーがあるし、鍵付きロッカーで荷物を預かってもらえる。助言してくれる就活相談員もいて安心」と上京する度に利用している。

就活事情に詳しいコンサルタントの常見陽平氏は「今年は1日に複数の会社説明会や面接を抱える就活生が多い。いきあたりばったりで入るより、普段から就活エリアごとに無料か低額で利用できる安全な『マイ就活基地』を決めておくのが得策」と話す。

(編集委員 阿部奈美)

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