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なぜ早まるランドセル商戦? 「ガラパゴス」考現学

編集委員 小林明

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NIKKEI STYLE

ランドセル商戦の時期が毎年ジワジワと早まっている。今年は昨年よりも1~2カ月前倒しされてゴールデンウイーク(GW)の前から商戦がスタート。売り上げのピークも早まる傾向が続いており、「ここ10年間で年末年始から8月前後に大きくシフトしてきた」(そごう・西武)という。

どうして商戦がこれほどまでに早まっているのだろうか?

取材してみると、背景には消費行動や市場構造のダイナミックな変化が隠れていることが分かってきた。興味深いのはそれだけではない。ランドセルは日本特有の社会構造、文化、機能が詰め込まれた究極の「ガラパゴス」商品であり、今やクールジャパンの強力なコンテンツとして外国からも熱い視線を集めつつあるのだ。

そこで今回はランドセルを通して見えてくる新たな商機や奥深いウンチクについて紹介しよう。

子どもが減っているのに活気づく市場

少子高齢化が進む中で過熱するランドセル市場。子どもの数が減っているのにどうして活気づいているのだろうか? 西武池袋本店こども部でランドセルを担当する山口和弘さんが解説してくれた。「少子高齢化が進行している。つまり、子どもの数が減り、高齢者が増えているからこそ、市場が活気づいているのです」

たとえば来春、小学1年生になる子どもは約100万人強。これは戦後最大だった団塊の世代の約270万人の4割程度の規模。一方、逆に65歳以上の高齢者人口は3186万人を突破して増加の一途。1950年に411万人だったのが80年には1065万人、2000年には2204万人と倍々ゲームで増えている。

祖父母がスポンサー、「6ポケット」「3世代消費」……

ただ「たとえ子どもの数が減っても、支出面でサポートしてくれる財布の数は増えている」(山口さん)という。これが「6ポケット」(子供1人に両親・両祖父母の計6人の財布=ポケットがある)と呼ばれる現象。大勢の大人が少ない孫にたくさんのお金を使う――。そんな祖父母、両親、孫による「3世代消費」がランドセル商戦を力強くけん引しているのだ。

電通の「祖父母の孫消費調査レポート」(2013年)によると、祖父母による孫への年間平均支出額は24万6443円。ランドセルは、外食、おもちゃ、衣類、絵本などと並んで支出対象の上位にランキングされている。

紫や水色が売れ筋、昔の定番の黒や赤は片隅へ

では、最近のランドセルの売れ筋はどうなっているのか?

百貨店やスーパーのランドセル売り場に足を運ぶと、多くの方はかなり驚くかもしれない。まず目に入るのがカラフルな色合いやきらびやかな装飾。「男子は黒、女子は赤」という昔の定番はすっかり影を潜めてしまった。強い個性のある商品がほとんどの売り場を席巻している。

「大ヒットした米国アニメ『アナと雪の女王』の影響で女子だと紫やピンク、水色、薄茶色のパール光沢がブーム。サイドやかぶせ、内側のポケットに豪華な刺しゅうやラインストーン、金属の飾りが付いた商品の人気が高い。男子だと金や銀の色合いや縁取りに派手な色を使った商品がよく売れている」(西武池袋本店)

5万針の刺しゅう、1万6416種類から注文、甲冑タイプも

イオンリテールはかぶせの部分全面に5万針もの豪華な刺しゅうをあしらった1個10万2600円(消費税込み)の超高級ランドセルを発売した。イトーヨーカ堂は今シーズンから色、デザイン、装飾などを計1万6416種類から選べる「パターンオーダー」を受注している。各社の価格帯は4万円から10万円までかなり幅広い。だが単価は着実に上昇しているという。

男子向けではナイキ、プーマなどのスポーツブランドも根強い人気。陸上トラックをかたどったデザインに国旗の配色をワンポイントで施した商品が売れ筋。さらに「戦国武将ブーム」を踏まえて鎧(よろい)・甲冑(かっちゅう)をモチーフにしたデザインの商品も登場している。安全面へのニーズの高まりから、歩くと振動による自家発電で青色発光ダイオード(LED)が自動的に光るランドセルも発売された。

2001年の「24色ランドセル」を機に色の固定観念が崩れる

一昔前ならば「これほど自分の好みや遊びの要素を入れてしまって大丈夫だろうか」と心配になったかもしれない。だが、最近の消費者の感覚はだいぶ変化してきている。

「大きな転機となったのが2001年」というのが業界関係者の一致した見方。イオンが業界初の24色のランドセルを売り出したことで「男子が黒、女子が赤」という固定観念が一気に崩れた。それ以来、色はもちろん、刺しゅうや飾りなど凝ったデザインが増え、ランドセル商戦は様変わりした。

「年末年始」→「お盆」、販売のピークが前倒し

グラフを見て欲しい。これは西武池袋本店のランドセルの月別売上個数の推移(2012~14年度)。販売のピークは12年度には秋口と正月だったが、14年度には8月に早まってきている。10年以上前はもともとクリスマスや正月が最大の商戦だったので、前倒しが一気に進んだ格好だ。

多様化・こだわり、受注生産で納期が長期化

では、なぜ商戦がこれほどまでに早まってきたのだろうか?

業界関係者によると、(1)色、デザイン、装飾などが多様化して自分だけのこだわり商品が増えたため、消費者がじっくり時間をかけて選ぶようになった(2)生産工程が増えたため、注文してから客に届くまでの納期に時間がかかるようになった(10カ月かかることも)(3)祖父母が支出を負担することが増えたため、8月のお盆や4~5月のGWに3世代で一緒に売り場を訪れてゆっくり購入することが多くなった――ことが大きな要因になっている。

「少子高齢化」「こだわり消費」「6ポケット」「3世代消費」などの要素が相互に影響しながら市場構造に変革をもたらしたのだ。

お盆休みに祖父母と購入、流通各社は「前倒し競争」

ベネッセコーポレーションの調査(2014年)によると、選んだランドセルの色は女子を中心にかなり多様化している。またクラレの調査では「子ども自身」がランドセルを選ぶ割合が圧倒的に増えている傾向も読み取れる。祖父母や両親が「孫・子どもの満足感」をより重視するため、さらにこだわりの強い商品が売れる。流通各社は顧客をいち早くつかまえようと「前倒し競争」を加速する。

こうして商戦の時期が継続的に早くなってきたというわけだ。

発祥は江戸末期、オランダの軍事用リュックを導入

ところで、日本で独自の発展を遂げてきたランドセルは、そもそもどんな理由で誕生したのだろうか?

ランドセルの歴史をひもとくとこれまた面白い。

日本で最初にランドセルが生まれたのは江戸時代末期。徳川幕府が洋式軍隊制度を導入するのに伴い、オランダの軍事用の布製リュックサックを取り入れたのがきっかけ。もともとオランダ語の「ランセル」がなまって「ランドセル」になったようだ。やがて皇族・華族の子弟の教育機関だった学習院で1885年に学用品などを入れる学童用の背嚢(はいのう=ランドセル)として採用される。

伊藤博文が大正天皇に献上、箱型(学習院型)のルーツに

現在、使われているランドセルの原型が生まれたのは1887年。当時の内閣総理大臣、伊藤博文が皇太子(後の大正天皇)が学習院初等科に入学したお祝いに特注の皮革製の箱型ランドセル(学習院型ランドセル)を献上したのが始まり。

ランドセルはものを運ぶのに実に機能的にできている。丈夫で耐久性が高い。両手が自由に使えるし、転倒した場合には頭部をまもるクッションの役割を果たすなど安全面でもメリットが多い。そのため都市部を中心に次第に普及し、戦後の高度経済成長の到来と団塊の世代の就学に合わせて全国に広がる。軽くて安価で雨にも強い合成皮革の登場もこれに拍車をかけた。

こうしてランドセルは日本の小学生の通学風景には欠かせないアイテムになってゆく。

高度成長期に全国に普及、合成樹脂登場も弾み

「男子は黒、女子は赤」が定番になったのは、男女を見分けやすい、皮革の発色にムラが出にくいなどの理由から。だがすでに触れたように、2001年に「24色のランドセル」が登場してからは色やデザインが多様化。さらに2011年に学習指導要領の改訂に合わせてA4判のクリアファイルやフラットファイルを入れることができるより大型のランドセルも登場。色、デザインに加えて大きさも多様化してきた。

1980年代、90年代にはファッションアイテムとして日本の人気タレントらが次々に愛用。さらに昨年、米国の人気女優ズーイー・デシャネルが赤いランドセルをプライベートで使っている様子がメディアやネットで紹介されたことでブームが海外にも広がり、日本発のクールな文化として関心を集めつつある。

世界の有名人が注目、新たな「クールジャパン」に商機

昨年6月には関西国際空港の免税店の「萬」と「和」がランドセルの販売を開始。「月間で1店あたり100個程度は売れるほど好調。中国人を中心に台湾、香港、タイなどアジア系のお客さんが買ってゆく」と責任者の安食(あんじき)実さん。東京・表参道に昨年5月にオープンしたセイバン(兵庫県たつの市)の初の直営店でも「多いときは売り上げの2割までが外国人」だという。外国人向けの観光ガイドなどでも取り上げられており、わざわざタクシーで乗り付ける観光客もいるらしい。

外国人に人気が高いのは「むしろ黒や赤など昔の定番」(セイバン)。日本アニメなどでなじみが深いランドセルの方がよく売れている。子どもへのお土産で買っていく客もいれば、自分自身で使うために買う客もいるそうだ。

このように、江戸末期にはるばるオランダから導入され、日本で独自に進化を遂げてきたランドセル文化は、今や海外で新たなブームを巻き起こしつつある。異なる感性や好奇心に導かれ、発見されながら文化は発展していくのかもしれない。

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