デリケートゾーンの悩み 「洗って解決」が常識に日経BPヒット総合研究所 黒住紗織

日経BPヒット総合研究所

エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を斬るコラム「ヒットのひみつ」。いまを象徴するキーワードから、話題の理由、面白いワケなど、「ひみつ」を明らかにします。今回のキーワードは「デリケートゾーン」。近年、デリケートゾーン専用洗浄料の種類が急増し、有望市場として注目を集めています。

“女性のキレイに関わる”分野に、まだ成熟していない有望市場が残っていた。女性の下半身「デリケートゾーン」の悩みは、相談しにくいがゆえに表面化しにくかったが、この1~2年で「デリケートゾーン専用洗浄料」の種類が急増。かゆみ、匂いなどの悩みを解消してくれて自分への癒し効果もあることから、静かに市場が成長しており、2015年はブレイクの素地が整いつつある。

ボディー洗浄料売り場に2015年、新たに「デリケートゾーン専用の液体洗浄料」が8商品登場(棚の中段、左から8品。東急ハンズ新宿店)

「デリケートゾーン洗浄剤はどこですか」。東急ハンズ新宿店の石鹸(せっけん)・洗浄剤売り場で、30代前半と見える女性2人組がスタッフを捕まえて声をかける。スタッフは売り場を示すと、すぐにその場を離れた。「これこれ。こっちの緑のボトルがお薦めよ」。一人が教え、もう一人は笑顔でレジへ――。

「昨年(2014年)まで、デリケートゾーン用の扱い商品といえば海外製の固形石鹸が1~2種類くらいだった。それが1年後の今は、液状タイプだけでも8種類。さらに今後も扱い数が増える予定で、急増ぶりに驚いている」

こう話すのは同店の洗浄剤売り場を担当する矢野瑞恵さん。「需要の高さは強く感じるが、商品の性格上扱い方が難しい。コーナーを作るとかえって買いにくくなるので一般のボディー洗浄剤に紛れ込ませ、スタッフも近くに長居しないようにしている」(矢野さん)

潜在ニーズがようやく顕在化

女性のデリケートゾーンを洗う専用製品の市場がいま、ホットだ。2013年7月に国内大手メーカーの先駆けとして「ヴィフェミィ デリケートウォッシュ」を発売したクラシエホームプロダクツによると専用洗浄品の使用経験率はまだ8%程度だが、同社の2015年1~3月期の売り上げは前年同期比で340%の伸びという。

「3年前は、“そんな商品必要ない”と小売店でも門前払い。それが、昨年ごろから耳を傾けてくれるバイヤーが出てきて、今年は積極的に歓迎される空気に変わった」と市場の急変ぶりを話すのは、「2011年に国産初のオーガニック専用洗浄剤を作った」という得田由美子さん。得田さんは5年前にデリケートゾーン専門サロン(脱毛やケアを行う)「ピュビケアサロン 白金台」を立ち上げたこの分野の先駆者のひとりだ。

需要は新たに生まれたわけではない。この悩みはずっと長い間、女性がひそかに抱えて続けていた問題だが、マーケットが未成熟だった。匂いが気になる、かゆい、ムレる…。クラシエホームプロダクツの調査では10代~40代までの女性の53%が「デリケートゾーンの悩みがある」と答えており、持田ヘルスケアの調査では約8割の人が「だれにも相談せずに自分で解決しようとしている」と回答している。多くの女性が潜在的に求めていた製品分野がいま、ようやく顕在化した形だ。

2012年5月に10代~40代の女性2319人に調査。デリケートゾーンの匂いやムレ、かゆみが気になる人は月経時には5割以上に(資料:クラシエホームプロダクツ)

ナプキンの普及や洗い過ぎが“加速させた”悩み

デリケートゾーンの悩みが生まれる原因は大きく3つ考えられる。

一つは生理用ナプキンやおりものシート、尿漏れナプキンなどの普及。こうした衛生用品は取り換えるタイミングが適切でないとかえって蒸れたり、雑菌が繁殖して炎症をおこし、局部などにかゆみが生じたりすることがある。

もう一つは「洗い過ぎ」の問題。デリケートゾーンの匂いを気にして、多くの人が体を洗う石鹸などで局部を洗っている。しかし、普通の石鹸で洗うことでかえって、ヒリヒリする、乾燥するなどの「新しい不快感」を生み出しているという。

「デリケートゾーンは体のほかの皮膚部分と違って粘膜であるうえ、pH(ペーハー)値4.0~4.5程度とほかの部位に比べて酸性度が高い。そんな敏感な部分を通常のアルカリ性のボディーソープや石鹸で洗うと、肌が突っ張ったり、痛いと感じるのは当然」と得田さんは説明する。

3つ目は、女性ホルモン分泌の乱れによる体内環境の変化。女性ホルモンが十分に分泌されていれば局部も潤いが保たれ、雑菌が繁殖しにくいpH値と環境が維持される。しかし、更年期で女性ホルモン量が急減すると、膣の潤いは低下して乾燥し、粘膜も薄くなる。このため、下着とこすれただけでも炎症が起きやすく、かゆみや痛みにつながる。pHバランスが崩れて雑菌が繁殖してしまうと、匂いの原因にもなる。もちろん、若い女性でもストレスでホルモンバランスが崩れたら、同様のトラブルは起きやすくなる。

では、なぜ今、ニーズが顕在化したのか――。

「欧米や台湾、タイなどのアジアでは、専用品でケアするのは日常的のようです。そうした情報がネットで入手できるようになり、潜在的に“悩み”を持っていた女性が動き始めた」と持田ヘルスケアマーケティング部マネジャーの友光智美さん。

また近年は脱毛エステの低価格化の後押しもあって、デリケートゾーンの脱毛は特別なことではなくなっている。「脱毛を機に局部の美容に意識が向く人も多い。また更年期以降、“女性性の喪失感”を抱く人は少なくないが、そうした人にとって女性性の象徴部位をケアする行為自体が、自分を大切に扱っているという心の癒しになっている」と得田さんはサロンでの接客体験を踏まえて解説する。

近年の夏期の気温上昇や、体にフィットしたパンツなどのファッションの流行も、局部のムレを増長させ、女性たちの不快感をより高めているという背景もあるだろう。

そんな中で登場した製品はどれも刺激の少ない弱酸性をうたい、外観もスマート。香りも良く、浴室に置いて家族や友人に見られても違和感がないデザインだ。

左から、国産大手の先駆けとして2013年にクラシエホームプロダクツが発売した「ヴィフェミィ」、2015年夏に全国展開が待たれるサノフィの「ラクタシード」。日本初の専門エステサロン「ピュビケアサロン白金台」が2011年に発売した「ピュビケア デリケートソープ」、2015年発売の持田ヘルスケアの医薬部外品「コラージュフルフル 泡石鹸」

半数以上が登場を知らない

デリケートゾーン専用洗浄料は、アイテム数が増え、扱う売り場面積も着実に広がっている。問題は、認識率が38.5%(クラシエホームプロダクツ2015年4月調査)と、半数以上の人が専用製品の登場を知らないことだ。

そこを打ち破って「今年、市場拡大に勢いをつけてくれるのでは」と業界関係者が熱い期待を寄せるのが、2014年末に日本に上陸したグローバル企業、サノフィの「ラクタシード」。ラクタシードは1950年代にフランスで誕生。1980年代には欧州各国に、1995年以降はアジア、米国などにも展開し、今や世界のトップブランドだ。その製品が今夏以降、本格的に日本で全国展開するという。

同社はデリケートゾーンを専用品で洗うのは海外では常識であることを訴え、日本はその分野では遅れていることを訴求、人気モデル、道端ジェシカさんをテレビCMに起用して認知度を高める。

一方で、女性誌やネット、セミナーなどで、「専用品を使う生活」が理に適うことを納得させる情報提供に力を入れる。曰く、肌は弱酸性だが、デリケートゾーン(膣内)はより酸性度が高い(pH3.5~4.2)であるため、アルカリ性の石鹸はもちろん、中性(pH7)の水で洗ってもpHバランスは崩れやすく、匂いやかゆみなどのトラブルが起こりやすい環境になること。膣内と同様のpHの洗浄料で清潔を保つと快適である、などだ。

新しい概念の製品を認知させ、それが自分の悩みを解消してくれることを広く知らせる。そして、他人にも説明できる「使ったほうがいい理由」を説明して、女性たちが羞恥心を乗り越えて商品に手を伸ばすのを手助けする戦略だ。

「医師の賛同」が市場拡大のカギに

婦人科医、皮膚科医など、消費者が悩みを相談する医師の賛同を得ることにも力を入れる。実はかゆみやムレなどの悩みは不定愁訴と思われているケースも多く、医師が軽視している面もある。悩んだ人が相談しても、通常は「お湯で軽く洗って。かゆみには薬を」と指導される。

筆者も取材時に、女性皮膚科医に「デリケートゾーンを専用洗浄剤で洗うのはどうでしょうか」と話を振ってみたところ、「お湯で洗うだけで十分よ」と返答された経験がある。「専用洗浄剤で洗うことを医師に否定されたら、消費者は不安になる。それを避けるためにも、医師の賛同者を増やすことは大切なのです」と得田さんもその重要性を指摘する。

「その洗い心地の良さを体験した人はクセになり、リピートする」と得田さんが言うように、使ってみる人が増えれば日本でも“専用品で洗うのが当然”となる可能性は高い。実際、使用感、香りなど、女心をくすぐる要素は確かにある。従来の男性中心社会が目を向けてこなかった、そして女性側も言い出せなかった「デリケートゾーンの悩み」。扱いもデリケートな分野だけに供給側の手腕が問われるが、認知されたら救われる女性が多い分野だけに、市場の成長ぶりを見守りたい。

黒住紗織(くろずみ・さおり)
日経BPヒット総合研究所主任研究員。日経BP社ビズライフ局プロデューサー。サンケイリビング新聞社を経て、90年、日経BP社入社。『日経レストラン』『日経ベンチャー』などの記者を経て、2000年より『日経ヘルス』編集部。その後『日経ヘルスプルミエ』編集部 編集委員など。女性の健康、予防分野の中で、主に女性医療分野を中心に取材活動を行う。
[参考]日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。
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