ニヤリ・ホット… 介護職場でカイゼン、活性化

介護施設で新たな働き方に挑み、職場を活性化させるカイゼン活動が始まっている。思わずニヤリとする発想、利用者のお年寄りの健康に役立てる施設がある。介護業界は長時間労働と低賃金で人手不足が慢性化する。魅力ある職場を作り、新たな人材確保に動く。

東京都杉並区にある介護付き有料老人ホーム「ライフ&シニアハウス井草」(居室数70)は2年前、「ニヤリホット」活動を取り入れた。

「ニヤリホット活動」を企画した一人の和田悠三さん(写真右、東京・杉並のライフ&シニアハウス井草)

「一般に介護の世界では、高齢者が危ない目に遭う恐れがある場面、つまりヒヤリとしたりハッとしたりした事例を集め、職員が朝礼で共有する『ヒヤリハット報告』がある。ニヤリホットはその逆で、高齢者の良いところを見つけようとする活動」。企画した一人、介護サブリーダーの和田悠三さん(26)は言う。

以前、車いす生活の92歳女性が、和田さんらが目を離したすきに車いすから立ち上がって歩こうとしたことがあった。「ヒヤリハットでは、見守りをおろそかにするなと結論づける。ニヤリホットでは、この女性が歩こうと頑張っていると報告書に記録した」

報告書は女性のケアプランを担当するケアマネジャーの目に留まった。やがてトイレ介助の際、自力で車いすから立ち上がって数歩歩いて便座に座ってもらうようにした。行動を制限するヒヤリハットでは実現しない身体機能の向上につながった。

ホームでは和田さんを含めて30人が入居者の世話をする。みな20~30歳代と若い。施設を管理するハウス長の奥村進さん(48)は「職員とお年寄りとの距離が縮まった。今では月間10件ほどのニヤリホット報告がある。話したがっているという報告を受けて対話を心がけた結果、心を開いた入居者もいる」と手応えを感じている。

ホームを運営する介護サービス会社の生活科学運営(東京・港)によると、施設での職員の仕事は食事、入浴、排せつの介助の繰り返し。マンネリを打破するには、職場のカイゼン活動が欠かせないという。

同社が川崎市多摩区で運営する施設「上布田つどいの家」もカイゼンの舞台になる。昨年春から、パート職員のリーダーがパート職員採用の1次面接に参加、ほしい人材を現場の視点で見極める。2カ月の試用期間中は、40人ほどのすべてのパートが、新人をやめさせないように励ます。

新人への「声がけリスト」を作成し、それを全員で共有する。リストには良い声がけとして、「大丈夫、君ならできる。いつでも相談に乗るよ」などがある。新人のやる気を高める声がけをパート自らが集めた。今年は3月と4月、一人ずつ採用したが、軌道に乗った。

デイサービスを全国展開する日本介護福祉グループ(同)が東京都足立区に構える「茶話本舗デイサービス壱伍亭」は、日中訪れる高齢者の一番の楽しみ、食事で成果を上げる。

昼食400円、夕食490円。本社が指示する1人当たり食材料費の中で、おいしい食事を出すには、「食べたいものをお年寄りに教えてもらうのが一番」(管理者の伊藤好美さん=47)。そこで食材の買い物にお年寄りに同行してもらうことにした。

会話で好き嫌いを把握、調理担当に伝える。すると嫌いな野菜でも小さく刻んで、おいしく食べてもらうなど趣向を凝らす。評判を呼び、定員10人の施設は連日、高い稼働率を誇る。

やる気のある職員には賃金で報いるのが一番。同社は6月支給の給与からパート職員がヘルパー2級や介護福祉士の資格を取った場合、資格手当を付ける。今後もカイゼン活動などで成果を出した職員を評価し、賃上げする仕組みを検討するという。

最近は景気の好転で産業界全般の雇用改善が進み、介護業界の新規採用が難しい。明治安田生活福祉研究所(東京・千代田)の主任研究員、内匠功さんは「やる気のある介護職員が賃金で報われる仕組みを作らないと、人材が集まらない」と指摘する。

介護保険ができた2000年の職員数は55万人だったが、13年は2.9倍の161万人だ。だが需要の増加に追いつかず人手不足は深刻。介護関連職種の14年度有効求人倍率は2.30倍に上昇した。

内匠さんは人が集まらない理由の一つとして、「長時間労働なのに賃金が低い。事業所のマネジメント力は他の業界に比べて低く、職員に勤続年数に応じた給与体系を示せない。キャリアも人生設計も描きにくい」と話す。

打開策として、「やる気も能力もある介護職員の賃上げをしやすい環境を整えること」を挙げる。給与水準を上げるには、介護報酬の引き上げは避けられない。だが、「事業所すべて一律に上げるのではなく、介護福祉士の有資格者数や職員の勤続年数に応じて、事業所加算にメリハリを付けることが必要」と内匠さんは強調する。

(保田井建)

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