消化できない年次有給休暇は、お金に換えられるか
年休買い取りの基本的な考え方
年次有給休暇(年休)は、会社によっては「入社日からもらえる」という方もいるかもしれません。どのタイミングで、何日分もらえるか、というのは就業規則に定められた会社のルールによりますが、最低限のルールが法律で定められています。
原則として入社日から6カ月間継続して勤務し、全労働日の8割以上勤務した場合に10日、その後は勤続年数と出勤率に応じて1年で20日までの年次有給休暇が与えられます(労働基準法第39条第1項、2項)。
例えば、継続して6年半以上働き、前年度の出勤率が8割以上あれば、20日の年休が与えられます。
しかも、年休は付与された次の年度まで繰り越すことができるのです。なかなかお休みを取らないでいると、あっという間に年休がたまってしまうのではないでしょうか。
どうせ使いきれないなら、最初から会社に何日分か買い取ってもらい、残った日数でやりくりすればいい、という意見もあるようです。
しかし、これは「NG」。年次有給休暇は、労働者が安心して休養をとり、心身の疲労を回復させることなどを趣旨としているため、基本的に買い取りは認められません。
行政解釈でも「年次有給休暇の買上げの予約をし、これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じ、ないし請求された日数を与えないことは、法第39条の違反である」(昭和30年11月30日 基収第4718号)としています。
退職するときはどうなる?
それでは、退職するときはどうなるでしょうか。労働者には、希望する日に年休を取得できる権利(時季指定権)があります。一方、会社には事業の正常な運営を妨げる場合に、他の時季に変更させることができる権利(時季変更権)があります(労働基準法第39条第5項)。
年休はその性格上、退職後は権利を行使できません。したがって、働く側からすれば、何とか在職中に取得しておきたいと思うところでしょう。
辞める直前に、余っていた年休を使いきってしまおうと思っても、会社側が時季変更権を行使するかもしれませんし、会社の就業規則で実際に退職日まで就労することが定められている場合もあるかもしれません。
そうなると、せっかく手元にある年休が使いきれないまま、退職することにならざるを得ません。
しかし、年休の買い取りについては例外も認められています。
退職者の年休が未取得のまま残っている場合、その残余分を買い上げても必ずしも違法とはなりません。年休は、本来労働すべき日に労働義務を免除するものですが、退職後はその権利を行使することができなくなるからです。
そのため、会社によっては退職時に慣行として年休の買い取りを認めている場合もあります。ただし、気をつけなければいけないのは、この場合の買い取りは、会社の義務ではないということです。
買い取ってもらえないか、会社に相談するのは自由ですが、これまでそうした対応をしていない会社に「退職時の年休を買い取るべきだ」と強く求めることまではできません。これは会社ごとに対応が異なりますので、ご留意ください。
退職以外に例外のケースも
これ以外にも、年休の買い取りが認められるケースがあります。
ひとつは、法定日数を超えて年休が与えられている場合。会社によっては、法律の定めを超えて、多くの年休を与えている場合があります。
たとえば、労基法上は、6カ月継続勤務をして8割以上の出勤率がある場合に10日の年休を与えることになっていますが、入社日から15日付与されるケースでは、5日分を買い上げたとしても、違法とはなりません。
もうひとつは、時効までに年休を取得できなかった場合。年休は2年の時効がありますが、そこまでに使いきれなかった分について、買い取ることは違法ではありません。
ただし、この取り扱いをすると、「休まなくてもお金でもらえるからいい」といった、本来の趣旨から外れた結果となってしまうおそれもあるため、企業側としても積極的にこうした対応をしていないのが実情です。
こう考えると、日頃から無理のない範囲で年休を消化して、疲労回復に努めておくことが望ましいといえるでしょう。
社会保険労務士。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。平成17年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、【働く女性のためのグレース・プロジェクト】でサロンを主宰。著書に「知らないともらえないお金の話」(実業之日本社)をはじめ、新聞・雑誌、ラジオ等多方面で活躍。
[nikkei WOMAN Online 2015年6月2日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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