成功のカギは「内発的動機」にあるメンタルトレーニング・コーチ 大儀見浩介

2015/6/8

職場の知恵

「結果を出せ!」「早くやりなさい!」――部下や子どもたちに、ついついそんな言葉を掛けてしまうことはありませんか。スポーツの現場でも指導者がそう発破をかけ、選手はだまって従うのをよしとする風潮が長くありました。ですが、物事は人にただ言われてやるよりも、「自発的にやろう、本当にやりたい」と思えたときにはじめて、よい結果につながるのです。

私は小学校時代から大学時代まで、ずっとサッカーを続けてきました。そんなサッカー人生の中で印象的だった、ある出来事があります。私の通っていた中学校は、Jリーガーを多数輩出した静岡県の名門校でした。

全国中学校サッカー大会で、私たちの代は勝てば3連覇という状況でした。しかし、私たちは史上最弱と呼ばれた学年でした。それでも県大会をぎりぎり突破し、全国大会に出場、決勝戦でも何とか勝つことができました。試合終了のホイッスルが鳴りました。本来ならここで、選手たちは涙を流して大喜びするシーンのはずでした。

ところが、私の胸にまず浮かんだのは、歓喜ではなく安堵の感情でした。「もうこれでコーチに怒られなくて済む」「理不尽なしごきを受けることもないんだ」――。日本一になれたという喜びや満足感よりも、そんな感情ばかりが浮かんできたのです。

もともと好きで始めたはずのサッカーが、いつしか次第に、楽しくない、苦痛なものへと変わっていきました。当時の私は、ロボットのようにただ指導者に言われたことだけをやる選手でした。

この「やらされているから、やっている」、つまり人に指示されて道筋をたどる状態を、心理学では「外発的動機付け」と呼んでいます。自分の意思とは関係なしに、指導者に従う。学校スポーツの現場では、長らくこうした方法が正しいとされてきました。

では、プロスポーツにおけるトップアスリートと言われる選手たちは、どんな気持ちで競技に向き合っているのでしょうか。彼らに共通しているもの、それは自発性です。好きで、楽しくて、ワクワクするような「よし、やってやろう!」という気持ち。先ほどの「やりなさい」と他者に引っ張られる力に対し、これは押す力、「内発的動機付け」です。こうしたメンタルが高いパフォーマンスにつながっているのです。

トップアスリートのもう一つの特徴は、「自己の成長を目標とし、結果はその過程に過ぎない」ととらえていることです。もし、勝敗などの結果だけを目標にすれば、負けたときには「ああ駄目だった」と、そこで終わってしまいますし、勝ってもその次はありません。

では、自己の成長を目標としたならば、失敗しても「どこが問題だったか」と自己分析ができ、「次はこうしてみよう」とポジティブな気持ちに変換できます。その経験は階段状に蓄積され、揺るぎない自信となり、よい結果につながっていくはずです。

ある企業向け講演会で、こんな質問をいただきました。「営業職なので、常に売上アップを求められます。『自らの成長が大切』と言われても、現実には『結果を出せ』と怒られる。それでもモチベーションを維持するにはどうしたらいいのでしょうか」。

私の答えはこうです。「周りがなんと言おうとも、自分自身で主体的な目標を掲げて、それに向かってコツコツと経験を積み重ねていってください」。

また、たとえ物事を始めるきっかけが人に与えられたものだったとしても、それを内発的動機付けに変えることができたならば、やる気は出てきます。すなわち、最初は「いやだな、やりたくないな」と思っていたとしても、「まあやってみるか」「とりあえずやるか」「こうすればうまくいきそうだ」と、自分のなかで動機を「内在化」してしまうのです。

逆に、主体的に始めたことであっても、外からの動機付けによってだめになってしまう場合もあります、海外のメンタルトレーニング・コーチから聞いた話です。あるお金持ちが、家の敷地内にきれいな芝を敷いたところ、近所の子どもたちがサッカーをしにやって来ました。

芝が荒れるのでサッカーはやめてほしいな、と考えたお金持ちは、子どもたちに「サッカーを見せてくれてありがとう」とお金をあげることにしました。その額は1ドル、2ドル……と日に日に増やしました。10日目、お金持ちは1ドルを渡しました。すると子どもたちは「なぜ10ドルじゃないんだ」と不満を抱き、芝生に来なくなってしまったそうです。

つまり、最初は自発的に始めたサッカーが、人に見てもらいお金をもらうためのサッカーという、外発的な行為に変わってしまったのです。そして、期待していた報酬がもらえなくなったので、サッカーをやる意欲が一気に削がれてしまったというわけです。

ちょっといやらしい話ではありますが、この話から分かるのは、目的を報酬などではなく、自分の興味や喜び、成長に向けていたならば、何があっても心はブレないということです。物事を「やらされている」のではなく、自ら進んで「やりたい」とポジティブチェンジすること。そして自分だけの目標をつくり、地道に励むこと。それが積み重なっていけば、たくさんの気づきが得られ、必ずや豊かな人生を送ることができるのだと思います。