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定年楽園への扉

危うい「退職金で世界一周クルーズ」 経済コラムニスト 大江英樹

2015/6/11

 定年退職した人たちの多くが「ゆっくりと海外旅行に行きたい」といいます。これはこれで結構なことです。私も定年になった直後に1週間ほど海外旅行に出かけました。ただ、問題はその「程度」です。

 時々見かけるのが“夫婦で豪華客船世界一周クルーズに出かける”という人です。「長年、仕事で頑張ってきた自分に対するご褒美と妻に対する感謝だ」ということで一生に一度と奮発するのでしょうが、実をいうとこれは大変危ういパターンです。

 私自身の経験からいって「退職金」というのは実に危険な代物です。なにしろ普通のサラリーマンにとっては、恐らく生涯でただ一度受け取れるまとまったお金が「退職金」です。心がウキウキしないわけがありません。でも退職金というお金の性格をよく考えてみることが必要です。

 「退職金」は長年働いてくれた社員に対する会社がくれるご褒美というわけではありません。そもそも企業年金や退職金という制度は本質的には「給料の後払い」という性格を持っています。本来ならば給料に上乗せして支払ってしまってもいいのですが(実際に退職金前払いという制度の会社もあります)、多くの人にとっては自分自身で老後に備えてお金を準備しておくというのは強い意志がないと、むずかしいことです。

 そこで企業が社員の老後の生活のために本来支払うべき給料の一部を積み立てているのが退職給付制度です。この積み立てのことを「退職給付債務」といいますが、それは間違いなく企業にとっては将来支払わなければならない債務、すなわち給料の後払いだからなのです。

 したがってこのお金は公的年金同様、定年退職して収入がなくなった後の生活をまかなうための重要な財源です。本来は計画的に運用し、取り崩していくことが求められる性格のものです。ところが、なにせ生涯唯一のまとまったお金を手にする機会ですからかなり気持ちが高揚してしまいます。「これを手にするために長年苦労してきたのだから、少しぐらい使ってもバチはあたらないだろう」ということで自分を納得させて使ってしまいがちになります。それが「豪華客船世界一周クルーズ」になるのです。

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