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ライフコラム
法廷ものがたり

消える在庫商品、従業員と神経戦の末に

2015/6/10

法廷ものがたり

裁判記録をとじた厚いファイルを開き、埋もれた事案に目を向けてみれば、当事者たちの人生や複雑な現代社会の断片が浮かび上がってくる。裁判担当記者の心のアンテナに触れた無名の物語を伝える。

大型量販店のバックヤードで、入荷したばかりのDVDが箱ごと消えた。防犯カメラには、それらしい箱を持ち出す従業員の姿が記録されていた。シラを切る従業員に対し店側は監視を強めたが、その間も商品の消失は続く。長い神経戦の末、ついに店側は決定的な証拠を押さえた――。

関西にある大型量販店の2階にある事務所で、30歳代の店長は首をかしげた。前日入荷したはずの人気音楽グループ「ケツメイシ」のDVD10枚が入った段ボール箱が見当たらない。店内に設置した防犯カメラの映像を巻き戻してみると、前日深夜、それらしい段ボール箱を持った20歳代の男性従業員が、倉庫から店外に出て行く姿が映っていた。

映像からは箱の中身までは分からない。店長は男性従業員を呼んで問いただしたが、「知らない」とかわされた。疑念を持った店長は、従業員に気付かれないよう「監視カメラ」を駐車場に向けて設置した。

1カ月後、今度はブルーレイレコーダー3台がなくなっていることに別の従業員が気付いた。店長はすぐに、新たに設置した監視カメラの映像を確認した。男性従業員が大きな段ボール箱を台車に載せて倉庫から運び出し、駐車場に止めた自分の車に積み込むまでの様子が映っていた。

倉庫の天井に複数の隠しカメラ増設

しかし、やはり段ボール箱の中身までは分からない。もっと確実な証拠が必要だった。店長は倉庫の天井に小さな穴を開け、複数の隠しカメラを仕込んだ。保安員として調査会社の社員を派遣してもらい、1日2人態勢で男性従業員の行動をそれとなく見張らせた。

男性従業員も自分が疑われていることに気付いていた。新たに取り付けられた隠しカメラの電源コードを抜いたり、ほうきで天井を突いてカメラを壊そうとしたりする様子が別の隠しカメラに映っていた。その間も店の在庫商品は少しずつ倉庫から消えていった。

さらに1カ月が過ぎ、ようやく決定的な場面が撮影された。ある日の午前4時前、倉庫内で男性従業員がブルーレイレコーダー2台を段ボール箱に入れ、持ち出す様子が監視カメラや隠しカメラに映っていた。店長が問い詰めると、男性従業員は笑いながら「証拠はあるんか」とシラを切った。

店側は、自動車通勤ができない店舗に男性従業員を異動させたうえで、警察に被害届を提出。男性従業員は翌月逮捕され、窃盗罪で起訴された。懲役1年6月、執行猶予4年の有罪判決が確定した。

店側は過去の棚卸しで行方不明になっていた商品と、男性従業員がインターネットのオークションサイトに出した品物とを一つずつ突き合わせていった。ブランド品の財布、腕時計、ゲーム機、小型液晶テレビ……。男性従業員が盗んだとみられる商品は逮捕までの1年9カ月で405点に上った。オークションサイトなどでの売却益は計約950万円になる計算だった。

店側は賠償を求め、男性従業員のほか、身元保証人の父親と祖母を相手取り提訴した。証拠をつかむために要した監視カメラや保安員の費用も、損害額に含めて請求した。

「管理厳しければ盗まなかった」、開き直る従業員

男性従業員は「たくさん被害を与えてしまいすごく申し訳ない」と反省の言葉を述べながらも、「友人にもらって出品した物も被害額に含まれている」と損害額を争った。店側が商品名を挙げて「これはあなたが盗んだものか」と尋ねると、「正直、数をとってるのでそれが僕かと聞かれると何とも……」と言葉を濁し、「管理が厳しかったら(窃盗は)やめていた」と開き直った。

父親と祖母も「これほど長期、多数の盗難に気付かなかったとは、あまりに従業員や商品の管理体制が甘い」と店側に責任転嫁した。

地裁の判決は、店側が紛失記録を提出できなかった一部商品を除いて窃盗の被害を認め、男性従業員側に875万円の支払いを命じた。監視カメラの設置費用などについても「男性従業員が否認していたことから、証拠収集のためにかかった費用は窃盗による損害に当たる」と認めた。男性従業員側は控訴せず、判決は一審で確定した。

一方で判決は「商品管理体制上、少なからぬ被害が生じていることを速やかに発見できなかった」と、店側の管理の甘さも指摘していた。

男性従業員は法廷で、盗みに手を染めたきっかけについて、在庫のロスが出ても追及がない社内の雰囲気を見て「自分がやってもばれないかなと思った」と話した。怪しまれないように管理の甘い古い在庫から盗んでいたが、欲を出して納品間もないDVDに手を出したことが発覚の端緒となった。

(社会部 山田薫)

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