『ブレイキング・バッド』のスピンオフが高評価
海外ドラマはやめられない!~今 祥枝
ガンで余命宣告をされた中年の高校の化学教師ウォルターが、家族に財産を残すためにドラッグを密造する。そんな過激な設定から始まった傑作『ブレイキング・バッド』は、2013年9月に全5シーズンで終了しました。
2015年2月、待望のスピンオフ『Better Call Saul』が、ついに放送スタートしました。主人公は、オリジナルのシーズン2の第8話から登場したソウル・グッドマン。「ソウルに電話しよう(タイトルの邦訳)」のキャッチフレーズで地元アルバカーキでは知られる弁護士で、表向きには一般市民相手の刑事事件を扱っていますが、裏では犯罪者を相手とした仕事も請け負い、ウォルターに関わることになる人物でした。
スピンオフの舞台は、オリジナルにソウルが登場する6年前の2002年。前日談であることが発表されるやいなや、オリジナルの人気キャラクターの誰が登場するのかなどの臆測が飛び交い、放送前から注目度の高さは抜群。さらに放送開始前にシーズン2の製作も発表されたことから、どれだけ視聴者の期待値を上げるのかと心配になるほどでした。
ですが、ふたを開けてみれば文句なしの高評価。オリジナルの人気を考えれば当然面白くできるだろうと考える人もいるでしょう。ところが、スピンオフは意外なほど変化球ともいえる内容です。
善良な弁護士が悪の道へ
本作のソウルは、公選弁護人として働くさえない弁護士で、名前もジミー・マクギル(ソウルは偽名だった)。クライアント獲得に奮闘するリーガルドラマ風の作りで、オリジナルの過激さや大胆な設定は見られません。オリジナルからの登場人物も、当座のところは後に仕事上で手を組むマイクのみ。しかし、エピソードを重ねるごとにジミー・マクギルが、いかにしてソウル・グッドマンという人物に変貌を遂げるのかが描かれていくであろう展開に、期待と興奮を覚えずにはいられません。
1人の善良な男が悪の道へと向かうといったプロットは同じでありながら、描き方や面白さはオリジナルとは異質です。それでいて、世界観はオリジナルと共有しているというスタイルは、2匹目のどじょうを狙う上でも非常に巧みで、技ありの戦略といえるでしょう。
オリジナルでのソウルは、ひょうひょうとしたユーモアを漂わせるコミックリリーフ的な存在でしたが、本作ではまた違った一面を見せてくれます。演じるボブ・オデンカークはコメディアン出身で脚本家、監督、俳優として活躍する才人。時間をかけて、じっくりと熟成されていく味のあるキャラクターの造形は、うるさ型のドラマ通や批評家をもうならせるいぶし銀の魅力があります。
………………………………………………………………………………
●今月のオススメドラマ
『グレイスランド 西海岸潜入捜査ファイル』
ビーチハウスを拠点にした危険な潜入捜査
FBIの養成所を首席で卒業した新人捜査官マイク・ウォーレンは、本人の希望に反して、西海岸のビーチに建つシェアハウス「グレイスランド」に配属される。そこには、気ままにサーフィンを楽しみ、スタイリッシュな共同生活を送るイケメン&美女たちがいた。実は、彼らはFBIや麻薬取締局(DEA)、移民税関捜査局(ICE)のエリート捜査官で、3つの機関が麻薬カルテルや武器密輸組織などへの潜入捜査を極秘に行っているのだった。マイクはブリッグスを教官役として危険なミッションに挑んでいく。
太陽が輝く海辺のロケーションに、サーフィンに興じる若者たち。青春ドラマのようなさわやかで開放的な背景とは裏腹に、ディープな潜入捜査が1話完結で描かれるクライム・サスペンスだ。アメリカでは2013年6月より、ケーブル局USAネットワークで放送開始。クリエーターは、同局の『ホワイトカラー』の脚本を手がけるジェフ・イースティンで、2015年6月からシーズン3が放送スタート。
マイク役は、映画『レ・ミゼラブル』や『ゴシップ・ガール』で知られる、ブロードウェイの人気ミュージカル俳優のアーロン・トゥヴェイト。共演は、映画『プラダを着た悪魔』のダニエル・サンジャタ、『CSI:ニューヨーク』のヴァネッサ・フェルリトほか。
映画&海外ドラマライター。女性誌、情報誌、ウェブ等に映画評やインタビュー等を寄稿。「BAILA バイラ」「eclat エクラ」「日経エンタテインメント!」映画サイト「シネマトゥデイ」などに連載中。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP社)。
[日経エンタテインメント! 2015年6月号の記事を基に再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。