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大ナゴヤを行く

乾杯は愛知のお酒で 木曽川・矢作川の水でおいしく 海外へのPRに官民躍起

2015/6/8

 日本酒の産地といえば、兵庫や京都、新潟などが有名だが、実は愛知県も全国有数の酒どころだ。近年の和食ブームを追い風に、酒造会社は見学ツアーで日本酒ファンの呼び込みに力を入れている。名古屋市では酒蔵の若手グループが知名度アップに向けて活動を本格化。「乾杯は愛知のお酒で」を合言葉に、草の根のPR作戦が広がっている。
米を蒸すこしきの前で見学者に酒造りを説明する沢田社長(愛知県常滑市の沢田酒造)

 「杜氏(とうじ)はどの工程から関わっているんですか」「洗米の段階からです」。今年3月、中部国際空港(セントレア)近くの酒造会社「沢田酒造」(愛知県常滑市)で開かれた酒蔵見学。築約150年の酒蔵を訪れた人たちが、沢田研一社長(64)に熱心に質問した。

 仕込みに使う水をくみ上げる井戸や、酒米を蒸す「甑(こしき)」などの設備も見て回り、最後は同社の日本酒を試飲。岐阜県恵那市の男性(75)は「日本酒造りの大変さがよく分かった」と満足した様子だった。

 見学会は沢田酒造が月に数回開いており、米国や欧州などから観光客が訪れた。沢田社長は「セントレアで飛行機を降りたら、まずは常滑に立ち寄っておいしい日本酒を楽しんでもらいたい」と意気込む。

見学者に酒造りを説明する沢田社長(愛知県常滑市の沢田酒造)

 愛知県酒造組合(名古屋市)によると、県内には2012年時点で42の酒蔵がある。なかには1600年代に創業した蔵もあり、愛知の酒造りには長い歴史があるといえそうだ。13年に和食が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「無形文化遺産」に登録されたことで海外で日本酒への関心が高まっているとみられ、同組合の寺田寿孝会長は「国内需要が頭打ちということもあり、米国や韓国など海外への輸出に力を入れる酒蔵が増えてきている」と話す。

 酒蔵の若手も動き出した。名古屋市では、酒造会社4社の後継者らが名古屋の日本酒をPRするグループ「ナゴヤクラウド」を昨年3月、結成。若者に日本酒を手にとってもらおうと、公募したカラフルで斬新なデザインのラベルを商品に採用。これまでの古風なイメージから一新、売り上げも増加したという。今春には、市内の飲食店関係者らに、試飲を交えて日本酒の魅力を訴えた。

 メンバーの「金虎酒造」(名古屋市北区)の水野善文専務(38)は「市内にも酒蔵があることを知らない人が多く、知名度の低さに危機感を持った」と振り返り、「ブランド力を上げていきたい」と語る。

ナゴヤクラウドが開催した日本酒勉強会(名古屋市東区)

 飲食店「地酒や 和食 花くるま」(名古屋市北区)では最近、来店客に20~30代が増えているという。店主の戸谷勇さん(67)は、蔵元自らが杜氏を務める「蔵元杜氏」の酒蔵が増えたことが、日本酒人気の背景にあると分析。「個性的でおいしいお酒が出てくるようになった」とみる。日本酒ブームは地元でも静かに広がっているようだ。

 酒蔵など民間での日本酒のPR活動を、行政も後押ししている。

 中部・北陸9県による外国人観光客誘致政策「昇龍道プロジェクト」は昨年、119カ所の酒蔵を紹介する「昇龍道日本銘酒街道ガイドマップ」を発行。英語版、中国語版も合わせて旅行会社などに配布し、酒蔵見学をツアーに組み込んでもらうよう売り込んでいる。事務局を務める中部運輸局の担当者は「日本酒を観光資源ととらえ、日本文化の一つとして海外の観光客に理解を深めてもらいたい」と期待を寄せる。

酒造見学で日本酒を試飲する人たち(愛知県常滑市の沢田酒造)

 愛知県も、外国人観光客に県産の日本酒を売り込むため、2015年度予算に約819万円を盛り込んだ。ポスターやパンフレットを作るほか、中国からの観光客が増える春節(旧正月)に合わせ、16年2~3月ごろに中部国際空港で販売促進イベントを開くという。

 酒蔵が集まる知多半島の自治体は「乾杯条例」を相次いで制定。常滑市では13年、特産の常滑焼の器に注いだ日本酒での乾杯を勧める条例が施行された。半田市と南知多町でも同様の条例が施行されており、地元の日本酒のPRに一役買っている。

 愛知の日本酒は、口当たりが良く、飲みやすいのが特徴だ。酒造りに適した県産米や酵母などを組み合わせ、木曽川や矢作川水系の軟水で仕込まれており、味の「甘辛度」と「濃淡度」を数値化した場合、全国平均に近いという。

 全国的な評価も高く、酒類総合研究所と日本酒造組合中央会が共催する全国新酒鑑評会では、2013酒造年度は愛知県から出品された日本酒21点のうち14点が入賞。うち8点が金賞を受賞した。名古屋国税局で酒の分析や技術指導を担当する川口勉主任鑑定官は「愛知は高い技術力を持つ酒蔵が多く、辛口やワイン風など、幅広いタイプの清酒が製造されている」と説明する。

 名古屋国税局によると、2013年の愛知県の清酒生産量は約1万4千キロリットルで、兵庫、京都、新潟、埼玉、秋田に続く全国6位。国内需要の落ち込みで生産量は03年の6割程度に減っている。海外への輸出は年々増加。同局管内の4県(愛知、岐阜、三重、静岡)の12年の輸出量は約500キロリットルで、03年の約1.7倍に上った。日本文化の一つとして、「日本酒」が徐々に、海外で受け入れられているようだ。

(名古屋支社 久永純也)

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