地域おこし、「日本一」「世界一」頼みに落とし穴日経BPヒット総研 渡辺和博

日経BPヒット総合研究所

エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を斬るコラム「ヒットのひみつ」。いまを象徴するキーワードから、話題の理由、面白いワケなど、「ひみつ」を明らかにします。今回のヒットワードは【地域おこし】。ギネスの記録に挑戦するなど、「日本一」「世界一」を旗印に情報発信する地域が全国で急増していますが、落とし穴もあるようです。

香川県坂出市。かつて全国有数の塩田があり、現在も大規模な製塩工場がある。2015年5月17日、この「塩の町坂出」をアピールする「さかいで塩まつり」の一環として、「ギネス世界記録に挑戦」というイベントが開催された。当地の塩を使って、おにぎりを作り、同時に作る人数の多さを競うというものだ。

坂出青年会議所が中心になって、話題作りのために企画した。結果は、5分間で668人がおにぎりを作り、無事「ギネス世界記録」として認定された。

2015年5月、香川県坂出市の「さかいで塩まつり」では、おにぎり作りのギネス世界記録に挑戦した(さかいで塩まつりのホームページ)

実はこの記録は、約3カ月前の15年2月15日に、和歌山県みなべ町で作られた448人の記録を更新したものだ。こちらは、日本一の梅干の産地であることをアピールするために企画されたイベントだった。みなべ町がおにぎりの具材に梅干を選んだのに対して、坂出市は塩昆布を使った。残念ながら、みなべ町は記録保持者としては「百日天下」で終わってしまった。

和歌山県みなべ町は2015年2月にギネス世界記録を達成したばかりだった

どちらも、ギネス世界記録達成ということで、地元の新聞やテレビをはじめ、全国紙やネットのメディアで報道された。地域おこしの課題の一つ、いかに知名度を上げる情報発信をするかという目で見れば、一定の効果を上げたことになる。

ギネス世界記録を認定しているギネスワールドレコーズジャパンによれば、日本オフィスができる10年より前から、地域おこしの一つとしてこうした挑戦は行われていた。だが件数が増えたのは13年、同社が「街おこしニッポン」という名称で申請を受け付けるようになってからだという。

政府による地方創生の掛け声が高まるにつれて挑戦の件数は増え、同社がイベント会場に認定員を派遣したケースだけでも、14年には34の都道府県で50カ所以上に達した。15年もこの傾向は続いており、5月までで既に20の都道府県で挑戦イベントが実施されている。

以前は英語による認定の申請しか受け付けていなかったが、現在は日本語に対応したことも件数の増加に寄与している。

地域の結束に寄与

ギネスワールドレコーズジャパンのホームページ

ギネス世界記録への挑戦イベントは、申請から告知、当日の会場運営などに最短でも3カ月、長いケースでは準備期間が1~2年にも及ぶ。実際に運営に携わった関係者に聞くと、この準備期間に、地元の地域おこし活動への理解や参加者の当事者意識が醸成されたという。特に、短い準備期間で実施した場合は、「地域における団体活動のスピード感を変えることができた」「次への自信につながった」とする声も聞かれる。

ただ、百日天下に終わったみなべ町の例にみられるように、同種のイベントが各地で頻発してくると、いっときの話題にはなるものの、メディア側からみれば、記事として取り上げるバリューがだんだん低下してくる。

地域おこしの情報発信の落とし穴は、実はこのあたりにある。話題づくりにせよ名産品開発にせよ、その地域が消費量日本一か、生産量日本一かといった「日本一探し」がスタート地点になるケースが多い。

こうしたアイテムはそれこそ何百とあり、実はその地域の関係者が思っているほど「日本一」は珍しいことではない。「実はここは○○が日本一」「ふーん、知らなかった」で終わりである。

日本一なり世界一なりのお墨付きは、消費者が選択する際の安心感にはなるものの、購買の動機にはなりにくい。こればかりを強調した情報発信は、単なる自慢であり、消費者のメリット訴求や心の琴線に触れるストーリーの情報などとは異なるからだ。

地域発ヒット商品を育てるなら、日本一、世界一の称号が手に入った後、ターゲットとなる消費者視点での情報発信に切り替えることが求められる。

渡辺和博(わたなべ・かずひろ)
日経BPヒット総合研究所 上席研究員。86年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の商工会議所等で地域振興や特産品開発の講演やコンサルを実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援。
[参考] 日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見をもとに、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。
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