くらし&ハウス

暮らしの知恵

働く女性を後押し 家事代行、ITで外国人雇用つなぐ

2015/6/4

 労働人口減少を背景に女性の社会進出や移民政策が議論に上がると、必ず出てくるのが家事労働をする外国人移民の検討だ。香港やシンガポールではフィリピン人女性などが住み込みで家事や育児を担い、女性が活躍してきたが、経済格差を前提とした労働力の活用には課題も多い。

3時間で家中をピカピカにしてくれたタスカジさん

 一方、日本で国内に在住し就労が可能な外国人を生かそうとする動きが出てきた。昨夏にスタートした家事代行マッチングプラットフォームの「タスカジ」は、夫が日本人であるフィリピン人妻や留学生など、在留資格を持つ外国人を中心に家事労働者を家庭に紹介する。IT(情報技術)の活用により仲介料を低く抑えることで、働き手の時給を高水準に保つ。日本人配偶者を持つ外国人は14万人に及び、潜在的な労働力発掘につながる可能性がある。

■家事のマッチング

 共働き家庭や単独世帯の増加を背景に、家事代行の利用がじわりと広がってきた。様々な業者やツールが出てくる中で、日本に住んでいる外国人の活用を推進するプラットフォームが登場した。富士通出身の和田幸子さん(39)が立ち上げた家事代行マッチングのタスカジ。家事代行を頼みたい個人と、家事を引き受けたい働き手をスマートフォンやPC上で引き合わせる。

 働き手である「タスカジさん」は、就労ビザと写真付きの身分証明書を確認のうえ2度の面接とテストを受けた登録者で、現在40人程度。外国人が8割で、夫が日本人や日本で働いている外国人の妻、留学生などがそれぞれ就労可能な条件内で働いている。

 利用側は現在、1200人が登録。個人確認は身分証明書をスマホで写真に撮って送り、運営会社が確認。タスカジさんの安全確認のため、免許証などに記載されている住所以外には赴くことができない仕組みになっている。

タスカジさんのレビューやスケジュールはスマートフォンでチェックできる

 最寄りの駅を登録すると、通える範囲のタスカジさんが表示される。レビュー機能がついており、過去の利用者のコメントを参考に好きなタスカジさんを選ぶと、空いている日程が表示される。来てほしい日時をクリックし、タスカジさん側がOKを出せば手続きは完了。あとは当日来てくれるのを待つだけだ。

■実際に使ってみると……

 記者が実際に頼んでみると、フィリピン人のRさんが訪ねてきて、やってほしい作業を確認。最低単位の3時間で、自分ではやらないテレビ台の裏の掃除や押し入れの整理なども含め、家中をみるみるうちにきれいにしてくれた。利用料は交通費含めて約7000円だ。

 Rさんは日本語も日常会話は問題なく話せるが「日本には長く住んでいるけれど、細かい文法とかはわからない。なかなか働く場所はなく、タスカジができるまでは純粋な専業主婦だった」という。

 記事を書く上で、大手の家事代行サービスも利用してみた。まず営業担当の男性と家事を担当する女性が訪問し、トライアル。開始前のサービス説明は丁寧で安心感はあるが、定期的に利用する場合は再度営業担当者と手続きを交わす必要があり、始めるまでのハードルが高いと感じた。

 業者でネックなのは、担当者が選べない点。希望があれば変えることはできるとはいうが、定期利用ではスケジュールの柔軟な変更も難しく、逐一本社を通さないといけない。最近までこの会社のサービスを使っていたという自営業の女性(36)は「先方側の事情で休まれてしまうことも多く、代わりで派遣される人は質がかなりバラバラで引き継ぎもされていない」と不満を漏らす。

 この女性は、タスカジは利用していないが、知り合いの家庭で家事を担っていたフィリピン人女性に来てもらうことにしたという。「家事能力が高くて大満足。でも知り合いの紹介がなかったら心理的障壁が高かったと思う」と話す。

■いい人を見つけるまで10人面接

 タスカジはどのように考案されたのだろうか。サービスを立ち上げた和田さん自身が、子育てをしながらフルタイムで仕事に復帰をし、家事時間のねん出に苦労をした経験を持つ。和田さんによると、家事代行業者の相場は1時間3500円程度で、「自分のような庶民には頻繁には使えないし、料理も頼むとなるとオプション料金がかかって、とても払えないと思った」。

 和田さんは当時知り合いに、「日本にいる外国人なら時給1500円程度が相場」「子どもの教育にもいいのでは」と聞き、インターネットの掲示板で働き手を探す方法を教えてもらったという。しかし、採用するまでのプロセスもわからず、ビザの問題などについての知識もないと不当に雇ってしまうのではないかという懸念もある。

 結局、「この人に長期的にお願いできそうだ」という人に巡り合えるまで10人面接し、3か月で5人雇った。「面接しても、家事能力はやってみてもらわないとわからないことも多い。こちらがいい人を見つけたと思っても、家族の事情で働けなくなったと言われたりして、1人に頼り切らなくてもいいようなデータベースが必要だと思った」(和田さん)。

 富士通時代、6年間システムエンジニアとしてユーザーのニーズを吸い上げて機能に落とし込むようなシステムの開発企画を手がけてきた。その後、国内MBA留学を経てマーケティングの観点を生かして新規事業の立ち上げにかかわった。

 「ITがわかっていて、困っている当事者のニーズもわかるのは私だけかもしれない。自分が立ち上げないと、きっと誰も作ってくれない」。そう考えて2013年に富士通を退社、タスカジ運営会社のブランニュウスタイル(東京都港区)を起業した。

■家事労働者が月20万円稼げるモデル

 タスカジが外国人を中心とする家事労働者の雇用で業界に転換を迫りそうなのは、その価格設定だ。支払う側は1時間あたり1500~2600円。1回あたり最低3時間を使う必要があるが、スポット利用でも月2~4回の定期利用でも選べる。

 利用料の20%をプラットフォーム利用料として運営会社が受け取る。結果的にタスカジさんの時給は1200~2100円で、一般的な家事代行業者の時給(1000~1500円程度)より高い。稼いでいる人で月収は20万円になるという。

 サービスの安さの秘訣は、ITだ。通常、家事代行業者では働き手を教育し、質を保証。クレーム対応や担当者の変更は本社スタッフの作業になる。一方、タスカジは、基本的にはレビューを参考に誰に頼むかを選ぶのは利用者側。レビューの点数や経験によって価格帯が異なり、多少レビューが低くても安い人に頼むというのも、高めに支払って質のいいサービスを受けたいというのも利用者の自由だ。

 「外国人だから安いと思われるのですが、そうではないのです。むしろ外国人は家事に対するプロ意識もあり、安い時給ではやらない」と和田さんは強調する。似たような家事代行プラットフォームは出てきているが、主に外国人の家事労働者が登録しているのはタスカジだけだという。

 和田さん自身が外国人にこだわるつもりはなく、日本人の働き手も増やしたいというが、「外国人はハウスキーピングを仕事にすることに慣れていて、訓練しなくても家事スキルが高い人が日本人より多い」(和田さん)というのも事実。

 あえて英語の流ちょうなフィリピン人に頼んで英会話の機会にしようと考える利用者もいる。月に2回タスカジを利用しているという行政書士の白石華都さん(37)さんは「これまで使ってきた掃除サービスよりも圧倒的に効用が高いし、日本人同士より変な気兼ねがない気がする」と話す。

 保護者同伴のもとであれば同じ値段でチャイルドケアを頼むこともでき、白石さんは1回3時間のうち30分は英語で3歳の子どもの相手をお願いしているという。「女性は一粒で二度おいしいみたいなのも好きだし、家事代行を頼むことへの罪悪感を、英語も学べるというメリットでうまくずらしているのでは」と和田さん。

■労働の搾取にしない

 もちろん、課題もある。身分証明書をスマートフォンのカメラで撮影し、送るのには心理的抵抗を感じる利用者もいる。一般論として家事労働者は派遣される先が家庭内という閉じた空間であるため、危険な目に遭う可能性を完全に排除することは難しい。家事代行業者ではなくプラットフォームであるがゆえに、トラブルが発生したときにもお互い自己責任ということになってしまう。

「タスカジ」運営会社のブランニュウスタイル代表、和田幸子さん

 今のところトラブルは発生していないものの、タスカジさんが利用者の自宅にあるものを壊してしまった際などには損害保険が適用される。また、盗難・紛失などを防ぐため貴重品は鍵のかかるところに保管するなどの呼びかけをして対応している。

 一般的に海外で広まっているような経済格差を利用した家事労働は、一対一の関係で、雇用主の立場が圧倒的に強い。住み込みを前提に移民してきている場合がほとんどで、ときに労働者が様々な要求をのまざるを得ない状況におかれる。家事を担う女性が自国に自分の幼い子供を置いて、何年も会えない状態で雇い主の子供の世話をするというゆがんだ構造を生んでいる面もある。

 移民の議論でこのような構造を持ち込むよりは、身近な人材に活躍してもらうマッチングのプラットフォームは様々な可能性を秘める。法務省によると、日本にいる外国人は、日本人の配偶者で14万人。働く時間は限られるものの、留学生で21万人。ほかにも就労可能な外国人は多く、潜在的な能力を引き出すアイデアに期待が集まる。

(ライター 中野円佳)

くらし&ハウス

ALL CHANNEL