育児と両立してMBAを取得する女性が増加中
ワーママたちが今、どんな目的で、どのように学んでいるのか、MBAコースを設けている大学院に聞きました。取材に協力してくれた大学院は、青山学院大学大学院、グロービス経営大学院、一橋大学大学院、法政大学大学院、明治大学大学院の5校です(五十音順)。
MBAコースで学ぶ受講生の3~4人に1人が女性になった
全受講生に占める女性の数の変遷を尋ねたところ、ほぼすべての大学院から「増えている」との回答が寄せられました。
「3年前は26%だったが、現在は34%を占める」(青山学院大学大学院、以下:青山学院)
「2009~2013年は10%台で推移したが、2014年は21.1%に上昇」(一橋大学大学院、以下:一橋)
「単科生制度(※入学前に基本科目を1科目から先行受講できる制度)利用者も含めた女性数は、ここ2年間で1.3倍に増えている。女性比率は、2012年は21%、2014年は23%。特に東京校では伸びが大きく、27%に達した」(グロービス経営大学院、以下:グロービス)
「2010年・12%、2013年・28%、2014年・23%」(法政大学大学院、以下:法政)
このように、大学院やコースによって差はあるものの、MBAコースで学ぶ受講生の3~4人に1人が女性という状況になっています。
その背景には政府主導による女性活躍推進の動きがあります。昨今、女性にとって企業内で昇進するチャンスが広がってきたのです。育児サポートなど、働く女性を助けるインフラ整備も進められています。こうした環境の中、女性のキャリアアップ志向が高まり、MBA取得によってチャンスをつかもうという女性が増えているといいます。
大学院側も女性向けの入学案内セミナーを開催したり、女性在校生やOGによる進学相談の場を設けたりするなど、女性を呼び込むプロモーションを強化しています。
目的は「仕事の質の向上」「キャリアの選択肢の拡大」
MBAコースで学んでいる女性とはどのような目的を持った、どんな人たちなのでしょうか。
「カリキュラムの領域が広いため、受講生の業種や職種は様々。年齢層も学部新卒者から50代まで幅広いです。企業に勤務する人が中心ですが、管理職クラスはあまり見られません。中には起業した人もいます」(明治大学大学院、以下:明治)
「企業に勤務している方からは、『今の仕事の質を上げたい』『キャリアの選択肢を増やしたい』という声が多く聞かれます。希少なケースとしては『一般職から総合職に転換したい』という方もいます」(グロービス)
「外資系企業就業者が多い印象があります」(青山学院)
一方、特定領域の専門コースを設ける大学院では、そのコースに関連する業界で働く人が多いようです。
「金融戦略の専門職学位課程のMBAであるため、金融関連企業の方が最も多いです。次いで多いのが、社団法人や監査法人勤務。運用やリサーチ、アナリスト職の方々です。キャリアでいうと、30歳前後で役職一歩手前の方が中心。一通りの業務をこなせるようになったところで自分の知識の不足や偏りに気づき、体系的に学ぶことでステップアップを図りたいという気持ちから学び始めるケースが多いようです。中には『ここで学ぶことを転職に生かしたい』という方もいらっしゃいます。その他、マスコミ業界の方もいますし、最近ではIT(情報技術)業界の方も増えてきました」(一橋)
なお、「医師、看護師、キャビンアテンダント、薬剤師、官公庁、心理カウンセラー、起業した方、起業準備中の方などもいらっしゃいます」(グロービス)と、幅広い領域でMBAの知識が活用されているようです。
「育児中だからといって、必要な勉強は諦めない」
MBAを受講する女性の中には、育児と仕事を両立している人、育児休暇中に通学する人もいます。
「妊娠中や育児中にMBAを取得した方や、育児休暇後のキャリアを考えて入学した方もいます」(明治)
「育児と仕事を両立しながら、あるいは育児休暇中に通学している方は、在学中の方だけで20人ほどいらっしゃいます」(グロービス)
「入学した年に2人目の子を出産された方、2人目妊娠中に書き上げた修士論文が高い評価を得て、優秀論文発表会では臨月でプレゼンされた方、在学中に1人目を出産し、卒業時には2人目の臨月を迎えていた方などが挙げられます」(一橋)
ただでさえ大変な育児期間中。仕事を続けながらさらに、2年ほどの期間を要するMBA取得を目指すというのは、明確な目的と強い意志があってこそだと言えるでしょう。
「子どもを産んだことでキャリアを諦めるのではなく、家庭でも仕事(キャリア)でも自分の望む姿を実現したい、という方が多いですね。また、育児中は仕事にかけられる時間が限られるため、『短い時間でも質の高い仕事ができるように』という声もあります。『後輩女性のロールモデルに自らがなる』と決意して入学した方もいらっしゃいます」(グロービス)
「『勉強したいタイミングと出産がたまたま重なっただけ。パートナーはその状況を理解してくれているし、どちらか1つを選ばなければならないわけではない』という考え方が見受けられます。純粋に『学ぶこと』に向き合っているから、周りの人々もその熱意に素直に共感し、支えるのではないでしょうか」(一橋)
実際にMBAコースで学んでいる女性にも話を聞いてみました。
現在、グロービスに通学している吉井晶子さん(2014年4月入学)は、大手飲料メーカーの企画部に勤務。初めての育児休暇から復帰して1年後、娘が2歳のときに入学を決意しました。
「復帰直後にとても多忙な職務を担当することになり、時間の制約というものをシビアに感じたんです。この制約が、これからも続いていくことは目に見えている。ならばそれまでの自分の仕事のやり方を、根本的に変える必要があると痛感しました。限られた時間で最大限の成果を上げ、組織の中でバリューを生み出していくためには何を身に付けるべきだろう、と。これまで複数の部門、職務を経験したので専門性は薄い。であれば『ジェネラリスト』の道を徹底的に極めようと思い、経営全般を学べるMBAを目指すことを決意しました」(吉井さん)
さらなる進化に期待、学ぶワーママのサポートシステム
国内大学院のMBAコースでは、企業に勤務しながらの通学をサポートする制度が設けられています。
学校によって違いはありますが、授業を欠席した場合に他の日に受講できる「振替受講制度」、通学を一時中断できる「休学制度」などがあります。休学制度は最長2年間程度に設定されており、長期出張や繁忙期などにも対応できるほか、在学中に妊娠・出産などを迎えた女性にとっても安心な制度と言えます。
2006年3月に一橋大学大学院でMBAを取得した阿部美紀子さんの場合、2002年11月に入学を決めた直後に妊娠が分かりました。翌年8月に出産を控えながらも、4月に受講を開始。通常の2年間ではなく、3年間で修了する計画を立てたそうです。出産前には平日ほぼ毎日通学してなるべく多くの単位を取得、出産後はペースを落とし週2~3日通学するようにしていました。
「同級生たちとミーティングをしながら課題を進める機会もありましたが、子どもの世話や看病で外出できない場合には資料をメールで共有して、電話で参加させてもらいました。メンバーの皆さんのほうからそういったやり方を提案していただけたんです。また、2人目の出産と修了時期が重なったため、試験時期も配慮してもらいました。家族はもちろん、先生や学友たちのサポート無しには、やり遂げることはできなかったと思います」(阿部さん)
このほか、在宅で学べるオンライン受講システムを設けたり、ママ受講生のための託児サービスを検討したりする大学院もあります。ワーママが学びやすい環境はさらに進化していきそうです。
(ライター 青木典子)
[日経DUAL 2015年3月27日付の掲載記事を基に再構成]
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