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世界的冒険家のディーン・ポッター氏が墜落死

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ナショナルジオグラフィック日本版

2003年、ベースジャンプ歴わずか1年足らずだったディーン・ポッターは、メキシコ市近郊にある深さ約400メートルの竪穴洞窟ゴロンドリナス(Cave of Swallows)の崖っぷちに立っていた。その穴へ向かって身を投じ、183メートルを自由落下した後、パラシュートを開こうとした。ところが、前日の夜に降った雨のせいで装具がぬれてしまい、パラシュートが開いた時にひもがねじれ、傘の部分はポッターの頭上で潰れてしまった。

しかし運良く、着地したジャンパーたちが帰りに登る時に使用する太さ10ミリのロープがすぐそばに垂れ下がっていた。

洞窟の底までわずか61メートルという空中で、ポッターはとっさにロープをつかみ、全身の力を込めてしがみついた。

ポッターのパートナーであり、ベースジャンプの指導をしていたジミー・パウチャートは、その少し前にジャンプを終え、洞窟の底から全てを目撃していた。「絶対に離すなよ!」と、ポッターに向かって叫んだ。

「絶対に離すな!」

文字通り、死のグリップだけに頼ってポッターは落下速度を落とし、地面へたたきつけられるという事態を免れた。ポッターの頭からパラシュートを取り除けたパウチャートは無事な姿を確認すると、思わずおでこにキスをした。

ポッターのこのような数々のエピソードから、フリーソロ(ロープなしのロッククライミング)やハイライニング(地上数百メートルの高さにロープを張り、時には命綱なしで行う綱渡り)、ウイングスーツベースジャンプ、それにヨセミテの巨大な岩壁を登るスピードクライミングといった死と隣り合わせの行為の限界を押し広げて見事生還するとしたら、彼の右に出るものはいないだろうと、世界のクライマーたちが信じている。身長196センチ、体重82キロ、堂々とした風貌のポッターは、同世代の中では最も影響力のあるクライマーであり、ジャンパーの1人として広く認識されていた。

その彼の最大の恐怖であった死への落下が、ヨセミテ国立公園で現実のものとなった。ベースジャンプ中の事故によって死亡したのだ。43歳だった。

ヨセミテ公園で何が起きたのか

2015年5月16日午後7時30分過ぎ、ディーン・ポッターとグラハム・ハント(29歳)は、ヨセミテ国立公園内にある高さ約900メートルの崖タフト・ポイントから「ウイングスーツベース(ウイングスーツを着用したベースジャンプ)」を行い、岩に衝突して死亡した。

ウイングスーツベースの歴史はまだ10年余りと浅く、地上で最も危険なスポーツと言われている。例えば、2008年のある統計によると、建物、アンテナ、橋、崖などの固定物からパラシュートを着けて飛び降りる普通のベースジャンプだけでも、60人に1人が命を落としている。

ウイングスーツベースはそれよりもはるかに危険とされている。ウイングスーツとは、腕と足の間に帆布を張ったムササビのような全身スーツのことで、これを着用して行うベースジャンプは高度な飛行操作能力が要求される。時には、建造物や岩肌のすぐそばを時速160キロ以上の猛スピードで下降する。

米国の国立公園では、安全上の理由からいかなるタイプのベースジャンプも禁止されているが、実際のところ、意欲満々のジャンパーたちを取り締まることはほとんどできていないのが現状だ。

人々の安全を守るはずの連邦法が、正反対の効果をもたらしているという指摘もある。米国の高い崖のほとんどは国立公園内にあり、ベースジャンパーたちは姿を見られないように視界の悪い夜や夕暮れ時にジャンプしがちだ。

確証はないものの、視界の悪さがポッターとハントの事故につながったのではないかとも考えられている。タフト・ポイントでは、以前にもウイングスーツでジャンプした人はいたが、ポッターとハントの取った滑空ルートは新しく、あまり知られていなかった。ポッターが今回、ペットの犬ウィスパーを連れて行かなかったのもこのためだ(ポッターはしばしば、背中にウィスパーをくくりつけてジャンプすることでも批判を受けていた)。

ヨセミテ公園捜索救助隊(YOSAR)の初期報告によれば、2人は滑空中に岩と岩の間を通過しようとして失敗し、激突してしまったのではないかという。

2人が予定の時刻を過ぎても戻らなかったため、友人らはヨセミテ国立公園長でポッターの友人でもあるマイク・ガウシアー氏に連絡を取った。

ガウシアー氏はYOSARの出動を要請したが、土曜日夜に急きょ行われた徒歩での捜索では何も成果が得られなかった。

日曜日の朝、カリフォルニア州のヘリコプターが出動すると、すぐにポッターとハントの遺体らしき姿を発見、昼までに2人のレンジャーが現場へ下ろされ、2人の死亡を確認して遺体を回収した。

法に反発した人生

アイダホ州にある世界唯一の公式ベースジャンプ・スクール『スネークリバーBASEアカデミー』のオーナーであるトム・アイエロ氏は、ベースジャンプの歴史が常に反社会的行為の繰り返しだったと語る。

「米国では、ベースジャンプが発祥からそもそも違法行為でした。私のジャンプ仲間たちも、今ではほとんど止めてしまいましたが、かつては違法な場所で日が暮れてからジャンプしていました。ビルやアンテナの上、それに国立公園へこっそり忍び込んだりしたものです」

こうした過激なスポーツを取り締まる国立公園の法律に対して、最も強い批判を行っていたのは、恐らくポッターだろう。

「基本的自由の問題なのです」。事故が起きるわずか数日前の5月12日に、筆者のインタビューに応じたポッターはそう語っていた。「環境を破壊しない範囲で自然の中を移動する行為は、取り締まられるべきではありません」。

その個人の自由を行使し、法に反発する態度が、彼の生き方を決めたのかもしれない。

ポッターがクライミングを始めたのは1988年、16歳の時だった。軍人の家庭に育った彼は何の装備も持たずに、ニューハンプシャー州ニューボストンの自宅近くにあった陸軍管轄下のジョー・イングリッシュ・ヒルに不法侵入し、高さ388メートルの山で人生初のフリーソロ(ロープも安全装備もないロッククライミング)をたった1人で、しかもはだしで成し遂げた。

その後、進学したニューハンプシャー大学を3学期で中退し、1990年代はロッククライミングをしながら各地を放浪して回った。

塩味のクラッカーをかじり、ほら穴で眠り、ヨセミテ国立公園の2週間というキャンプ滞在期限を越えてしまうと、レンジャーに放り出されないよう身を隠しながらの生活を続けた。

どこへ行くにもはだしで歩き、岩を登るときでさえそのスタイルを崩さない。しばしば謎めいた話しぶりで、自分の行うロッククライミング、ハイライニング、ウイングスーツフライングを「アート」と呼んでいた。いつも陰鬱な雰囲気をまとっていることから、「ミーン・ディーン(不機嫌ディーン)」、そしてしまいには「ダーク・ウィザード(闇の魔法使い)」と呼ばれていた。

闇のアートへの挑戦

転落死が最大の恐怖だとポッターは語っていた。しかし、その恐怖に直面することが、フリーソロクライミングの世界へ飛び込むきっかけだったという。そして、同じ思いが後にウイングスーツフライングへと彼を突き動かした。

2000年代半ばには、ポッターはプロのクライマーとしての成功を手にし、憧れのヨセミテ渓谷近郊ヨセミテ・ウェストに12ヘクタールの土地付き一軒家を購入した。このヨセミテ公園で22年間、ポッターは巨大な花こう岩として名高い岩壁を登り、限界を奥へ奥へと押し広げてきた。

過去13年間で、ポッターはクライミング、ランニング、フライングを組み合わせたハイブリッド「スポーツ」を編み出したが、中にはスポーツと呼べるのかさえ怪しいものもある。あまりに技術的で危険で難しすぎるため、他に誰ひとりとしてやろうとするものがいないのだ。

ウイングスーツベースの限界への挑戦も続けた。2009年、ウイングスーツベースジャンプの滞空時間でポッターは世界記録を樹立した。スイスアルプスの北側アイガーから飛び降りたポッターは、2分50秒飛行し、ナショナル ジオグラフィックのアドベンチャラー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。

死亡する数週間前から、ポッターは新しいパラグライダーの装具をテストしていた。ハーネスも含めてわずか1.3キロの重さは、ウェストポーチに収納できるほどのコンパクトさだ。この最新技術と自分の高度な飛行技術を、パラシュート下降が違法ではない世界の各地で試してみたい。ポッターはそう語っていた。

「クライミング、フライング、ハイライニング。自分にとってのこの3つのアートを実践できること、山や巨大な岩壁を高速で移動するという、ただそれだけのこと、その美しさを経験できること。これ以上の喜びはありません」

(文 Andrew Bishara、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2015年5月21日付]

[参考]フリークライミングや綱渡り、ベースジャンピングの第一人者ディーン・ポッター。標高2740メートルのカナダ、ビュート山頂から特製「ウイングスーツ」で大空に飛び立つ。ディーンの命がけの挑戦は成功するのか…。『DVD 鳥になりたい!ウイングスーツで大空へ』は、そのすべてを記録。迫力の映像は必見。

DVD 鳥になりたい! ウイングスーツで大空へ

編集:ナショナル ジオグラフィック
出版:日経ナショナルジオグラフィック社
価格:3,065円(税込み)

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