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夕方遅めの時間に学習教室や習い事へ通う幼児・児童が増えている。小さいうちから勉強させたいという母親の教育熱が高い。働くママにとって習い事通いは子どもを任せ、夕食の準備に充てる「時間稼ぎ」になる。講座を開く側からは「遅い教室を開かないと存続困難」との声さえ漏れるが、専門家からは子どもの生活リズムを不安視する指摘が出ている。

東京都板橋区の公文式小豆沢教室には午後6時以降も小さい子どもたちが母親に手を引かれて通ってくる。

会社員の松永聡子さん(仮名、43)は週2回、娘(5)を保育園に迎えに行った後、国語と算数の教室へと直行する。「幼稚園と比べて文字の学習などの機会が少ない保育園に通っているので、就学準備のために教室通いは大切」と話す。通い始めて1年、絵本を一人で読め、手紙を書けるようになった。

午後7時すぎに駆け込んできたのは公務員の神田真理さん(仮名、42)と保育園児の娘(5)だ。「学習時間は遅くまで長引くけれど、本人が意欲的なので、国語と算数、今年から英語も追加した」という。

この教室では未就学児の6割以上、小学生は8割以上の母親が仕事を持っている。通常は午後7時終了だが、忙しい母親に配慮して週2日は午後8時半まで教室を開くようにした。「最近の仕事を持つお母さんたちは、子どもの教育に非常に熱心なのが目立つ」と教室指導者の橋元康子さんは話す。

19時15分 公文式の学習を終えて帰途につく5歳女児と母親(東京・板橋)

19時15分 公文式の学習を終えて帰途につく5歳女児と母親(東京・板橋)

学研エデュケーショナル(東京・品川)が幼児・児童向けに開く「学研教室」には、仕事後に子どもを連れてくる保育園ママが都市部で増えてきた。「要望があまりに多いので午後6時以降に保育園児向けのクラスを開き始めた」(山本英樹取締役)。保育園児は1時間半前後の昼寝をしてくるため「夕方でも元気に教室にやって来る」(組織開発課の太田寿子係長)。

全国で約3千5百の「ヤマハ音楽教室」を開くヤマハは今年春から、午後6時以降に開くレッスン枠を2年前の約3倍に増やした。体験レッスンをした子どもたちの中に「遅い時間の幼児教室がないと、曜日・時間が合わないといって入会しない例が多い。対応しない限り、生徒減の傾向に歯止めがかからない」(串田厚司教室普及部部長)。

通常、フルタイムで働く母親は午後5時から6時頃に仕事を終え、保育園や託児所に子どもを迎えに行ってから教室に来る。晩ご飯の買い物、準備、掃除や洗濯をこなそうとすると、この習い事に通う午後6時から8時はゴールデンタイムだ。子どもを教室に任せ、集中して家事に取り組める上、小さいうちから学習をさせたいという思いがつながり、一石二鳥だとして遅い時間の教室通いにつながっているようだ。

「土曜日はほかの習い事ですでに余裕がない。他の予定が入らない平日の夜に開いている教室があるのは助かる」と遅い時間に通わせる母親(38)の思いは強い。

夕食は習い事が終わり、帰宅してからになってしまう。それでも働くママは「子どもの学習時間中にいったん帰宅し、夕食をつくって風呂を用意してから迎えに来る。自由が利いて助かる」と口をそろえる。

ベネッセ教育総合研究所の2013年の調査によると、幼児期の母親の学習重視の傾向は4年前の調査時より強まっている。「運動・スポーツよりもっと勉強してほしい」と考える親は9.4ポイント増の23.8%に達した。

一方、保護者が子どもと一緒に取り組むことが「ほとんどない」活動は「スポーツ」が44.5%(4年前は35.6%)、「歌や楽器の演奏」が29.6%(同20.7%)、「体を使った遊び」で15.4%(同10.0%)と目立って増えている。

同研究所次世代育成研究室の持田聖子研究員は「子どもの将来を考えると、親自身が教えるより習い事の場に委ねる方が効果があると考える傾向が見られる」と指摘する。

同研究所の調査によると、子どもが登園先から帰宅後就寝するまでの間に、幼稚園児は約6時間あるのに対し、保育園児は約4時間にとどまる。また常勤の働くママの場合、平日に子どもと一緒に過ごせるのは午後5時の時点で全体の2割程度、6時で7割程度に抑えられる。

子どもの発達と生活リズムの関係に詳しい和洋女子大学の鈴木みゆき教授は幼児・低学年児童への教育を否定はしないとした上で「小学校入学前の子に日没後に教室通いさせるのはお勧めしない」と話す。

昼間からの興奮が続いているため、夕方以降は疲れた身体の休息が必要だという。園で過ごす時間が長い保育園児は特に「本来は家でゆっくりすることが大切」。

また幼児期は知識を教えこむより、親子で一緒に体験・遊ぶことが知的好奇心を高める。鈴木教授は「生活の時間を削ってまで学習をさせることで『あとのび力』が育つのか。よく考えてほしい」と助言する。

(南優子)

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