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レンブラントもほれた 世界が憧れる和紙の強さ

2015/6/22

ユネスコ無形文化遺産に登録された日本の手漉(す)き和紙。実は巨匠レンブラントが和紙を愛用していたことも、明らかになっている。世界を魅了する和紙の、柔らかさ、耐久性と美しさの秘密とは…。

1000年の時を経ても朽ちることのない手漉き和紙。2014年、「和紙」がユネスコ無形文化遺産に登録され、話題となっている。しかし、17世紀のオランダに、既に和紙の卓越性に瞠目(どうもく)していた人物がいた。「オランダ人画家・レンブラントは、日本の和紙を版画に使っています」と、東京国立博物館の高橋裕次さんは言う。

探究心旺盛だったレンブラントは、多様な紙を銅版画に用いた。一番多く使ったのは当時ヨーロッパで一般的だった、麻の繊維が原料の“ホワイトペーパー”で、次が和紙。エッチングの銅版画約300点のうち、80点を和紙と見られる紙に刷ったと言われる。

レンブラントは、エッチングで使用した銅板にバリエーションを付けるため、針で銅板に絵を描き加えた。「この“ドライポイント”という技法では、線に沿って銅が巻き上がるため、その部分に余分のインクが残り、荒くぼやけたような線ができます。その銅版の巻き上がり部分の摩滅を防ぎ、かつインクのしみ込みの効果を生かした表現をするうえで、和紙、特に雁皮紙の柔らかさと耐久性はとても魅力的だったのでしょう」(高橋さん)。

■「無形文化遺産」登録の鍵は技術継承団体の有無

画家を魅了した和紙の強さの鍵は「原料と、原料の繊維に負担を強いない和紙特有の製法にある」と、和紙専門店・わがみ堂代表の浅野昌平さんは言う。

和紙は楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)といった樹木の表皮繊維にトロロアオイの根などから抽出したネリを混ぜ、簀桁(すけた)を揺する技法「流し漉き」で作られる。「楮などの繊維は一本一本が細くて長く、強度が高い。和紙は、原料の繊維をそのまま水に分散させ、簀桁の上で絡ませています。そのため、薄くても非常に強い、丈夫な紙が出来上がるのです」(浅野さん)。

繊維を取り出す際、表皮を剥ぐために煮るが、このとき薬品でなくアルカリ性の木灰や消石灰を使うと、繊維に負担をかけないという。現代の紙が、薬品で化学処理したパルプを使うのとは対照的だ。

植物の繊維を自然の在り方に逆らわずに加工して漉く和紙は、「命が宿った紙」だと浅野さんは言う。「触れれば穏やかなぬくもりを感じ、一枚一枚の色合いが微妙に違うことを感じるでしょう。障子紙は最初は黄色みがかった色でも、紫外線に当たると雪のような白に変わる。そうした移ろいに感じ入るのも和紙の醍醐味です」(浅野さん)。

今回、ユネスコ無形文化遺産に登録された和紙は、埼玉の「細川紙」、岐阜の「本美濃紙」。2009年に登録済みの島根の「石州(せきしゅう)半紙」と併せ、「和紙」としての登録となった。いずれも国の重要無形文化財(重文)に指定されている一級品だが、重文指定の和紙はほかにもある。福井の『越前奉書紙』、高知の『土佐典具帖紙(てんぐじょうし)』、兵庫の『名塩雁皮紙(なじおがんぴし)』だ。違いは何か?

「登録されなかった越前奉書紙などの3つは、和紙作りの技術を持つ個人が『人間国宝』として重文指定されています。対して登録がかなった3つは、保存団体が重文指定を受けているのが違う点。ユネスコ登録の最大の目的は“次世代への文化の伝承”なので、保存団体を作り、技術継承に努める和紙が選ばれたのです。手漉き和紙の技術を個人が継承していくのは、経済的にも負担がかかる。組織として継承する流れに弾みがつくことを期待しています」(浅野さん)

伝統工芸品は、日常使いされてこそ生きる。今の生活に合うものを気負わず使えば、暮らしにぬくもりを与えてくれるはずだ。

■和紙の種類と原料

【楮(こうぞ)】

楮はクワ科の落葉低木で、高知県が国内最大の栽培地。「栽培が容易で収量が多い」「繊維が太くて長く、外皮から繊維を取り出しやすい」などの長所を備えた原料として、障子紙、表具用紙、美術紙、奉書紙など、幅広い用途に使われる。ユネスコ無形文化遺産に登録された3つの和紙は、すべて楮のみで作られている。

【三椏(みつまた)】

三椏は、成木が2m余りになるジンチョウゲ科の落葉低木で、苗を植えてから3年ごとに収穫できる。繊維は細くて柔らか。表面が平滑で印刷しやすく、透かしも入れやすい紙質を買われ、明治期以降今日まで、紙幣の原料であるほか、金箔の間に挟む箔合紙(はくあいし)や美術工芸品などにも使われている。主な生産地は岡山県、高知県、徳島県、島根県など。

【雁皮(がんぴ)】

雁皮はジンチョウゲ科の落葉低木。繊維は細く光沢があり、紙質は優美で滑らか。生育が遅く栽培は難しいため、山地に生育する野生のものを切り出して使用する、貴重な素材。平安時代には「薄様(うすよう)」とよばれ、その美しさは『枕草子』にも記されている。江戸中期の百科事典といえる『和漢三才図会』では「紙王と謂(い)うべきものか」と賞賛された。

この人に聞きました

浅野昌平さん
わがみ堂代表。1931年生まれ。全国の和紙を集める「わがみ堂」(東京都文京区)を営む。手漉き和紙の見本帖製作、アート作品用の和紙や和紙の内装の企画、和紙専門誌『季刊和紙』の出版なども手がける。
高橋裕次さん
東京国立博物館 学芸 企画部博物館情報課長。文化庁勤務を経て現職。美術品と料紙との関係に詳しい。昨年、アムステルダム国立美術館で実施された、レンブラントの和紙使用に関する調査に参加。

(ライター 籏智優子、写真 今井広一)

[日経おとなのOFF 2015年4月号の記事を基に再構成]

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