ライフコラム

法廷ものがたり

「国内留学」ステイ先に日本人 契約違反に問えるか

2015/5/27

裁判記録をとじた厚いファイルを開き、埋もれた事案に目を向けてみれば、当事者たちの人生や複雑な現代社会の断片が浮かび上がってくる。裁判担当記者の心のアンテナに触れた無名の物語を伝える。

気軽に英語漬けの生活を体験――。「国内留学」をうたう業者を通し、小学生の息子を日本在住の外国人家庭にホームステイさせたところ、ステイ先にはなぜか日本人の10代の少女が滞在していた。息子によると、少女は日本語で話しかけてきたという。「話が違う」。両親は法廷で業者の契約違反を主張した。

「日本国内のネイティブと生活して1日英語漬け。ステイ先で日本語は一切厳禁です」

小学校に入ったばかりの息子を持つ夫婦が、インターネット上の広告に目を留めた。2歳から2年間インターナショナルスクールに通わせるなど、息子には自分たちが話せない英語に幼いうちから慣れさせたいと考えていた。国内のホームステイなら海外に比べて手続きは簡単だし、何より安心だ。

■米国人家庭に1泊2日、料金は3万円

夫婦はさっそく企画会社に連絡。「同じくらいの年齢の子供がいる家」との要望に合う米国人の家庭が見つかった。夏休み中に1泊2日のホームステイが決まり、料金約3万円を企画会社に支払った。

心待ちにしていたホームステイ初日。ステイ先の近くの駅でホストマザーと待ち合わせ、息子を預けた。特にトラブルの連絡もなく一夜が明けた。ところが2日目に遊びに行った公園で、夫婦の息子は遊具から落ちて左腕を骨折する大けがをしてしまった。

両親が「息子の行動を注意して見させる義務を怠った」として企画会社に治療費約6万円を請求したところ、「お気の毒だが、責任はない」と支払いを拒否された。納得できずに事故当時の詳しい状況などを問いただすとともに、もう1点、事故とは別に気になったことを尋ねた。「ホームステイ先に日本人女性がいたと聞いているが、会社はそれを容認していたのか」

会社側は初耳だった。ホームステイで同時に複数の日本人を受け入れることは契約に反する。急いでホストマザーに事実を確認すると、「たまたま知人の日本人が遊びに来ていた。ホームステイとして受け入れたのではない」という。

夫婦の息子を預かったとき、ホストマザーの夫は海外出張中だった。自分の幼い2人の子供の面倒を見てもらうため、もともと知り合いだった16歳の日本人の少女を呼んでいた。少女はホストマザーの家に泊まり、ホームステイ中の予定にも同行していた。

夫婦は息子を原告として企画会社を相手に訴訟を起こし、「別の日本人を滞在させたことは企画会社の契約違反」と主張。「日本人がいるとわかっていれば契約するはずがなかった。ステイ先に日本人がいて何が国内留学か」と非難した。

初日の昼食のために入ったレストランで、夫婦の息子が英語が分からなくて注文できずにいたところ、少女から日本語でメニューを聞いてもらっていた。その後で立ち寄ったゲームセンターでも「楽しい?」「すごいじゃん」と日本語で話しかけられていた。

企画会社側は「国内でのステイなので、日本人の友人がいることや滞在中の訪問は想定できたはず」と反論。法廷で証言した社長は「日本人がいたのはあまり良くないこと」と認めながらも、「ホームステイは妨害されていない」との立場を崩さなかった。

■「日本人がいても、目的はホームステイ」、裁判所が結論

裁判所は判決で、会社側の反論を認めた。「日本人女性はホームステイ目的で滞在していたのではなく、息子に常に日本語で話し続けていたわけでもない」と指摘。「日本人がいたからといってホームステイの目的が失われたとはいえず、契約違反には当たらない」と結論付けた。

息子のけがについても「会社はステイ先の選定に問題がないかの注意義務は負うが、ステイ中の個々の活動についての安全配慮義務は負わない」と判断し、損害賠償請求を退けた。控訴はなく、判決は一審で確定した。

法廷に提出された証拠によると、夫婦の息子が遊具から落下した直後、ホストマザーはしばらく何が起きたのか理解することができなかった。痛みを訴える日本語が分からなかったからだ。慌てたホストマザーは一緒に公園に来ていた日本人少女を呼び、通訳を頼んだ。ホストマザーは「すぐに事実を確認して対応できたのは彼女のおかげ」と話していたという。

(社会部 山田薫)

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