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琳派は「回る」? しりあがり寿×日比野克彦ひもとく美

2015/5/16

 大和絵に新たな境地を切り開いた日本美術の流派「琳派」。今年はその発祥からちょうど400年を迎える。そこで、創始者の一人、本阿弥光悦と400歳違いという漫画家のしりあがり寿氏とアーティストの日比野克彦氏に、琳派を切り口にそれぞれの創作や日本特有の美学を語ってもらった。(司会は編集者の小崎哲哉氏。以下、敬称略)
日経新聞東京本社の会議室で墨絵を制作するしりあがり寿氏
しりあがり寿「崩と回」展(日経新聞東京本社SPACE NIO) 幅13メートルもの巨大墨絵を崩して展示

小崎 本阿弥光悦が1558年に生まれ100年後の1658年、琳派という名の基になった尾形光琳が誕生した。さらに300年後の1958年、お二人が生まれました。どちらがどちらかはわかりませんが、生まれ変わりに違いないだろう、と。やや強引ではありますが(笑)。

しりあがり 400年前がどうだったかわからないですが、日比野君は多摩美術大学の同級生。だから、ここで隣に座るのって緊張しますね。

日比野 しりあがりの本名が望月で、出席番号が割と近くて同じ授業も受けたね。当時、漫画研究会で望月が最初に描いた漫画が、もの悲しいけど何度読んでもゲラゲラ笑えたのを覚えてるな。

■「風神雷神図」をダジャレに

小崎 しりあがりさんはアートフェア東京(3月20~22日、東京国際フォーラム)とSPACE NIO(3月23日~4月24日、日経新聞東京本社)の2会場で、琳派をテーマにした新作に取り組まれました。

しりあがり寿「崩と回」展 つぼを描いた絵画がモーターで回転する

しりあがり 「琳派」といっても僕は「リンパマッサージ」ぐらいしか知らなくて(笑)、どうしようかなと。SPACE NIOの展示では俵屋宗達の「風神雷神図」を引用し、思い切った対称性を生かそうと思いました。大きな墨絵を崩した作品と、モーターで回る絵画を対置する。「崩と回」というタイトルで、要はダジャレですね。

 墨絵は日経の会議室の壁に紙を貼って描きました。崩す前提で手のおもむくままに描き、最終的にくしゃくしゃにして展示します。

小崎 対になるのは回転する絵画。現代アートの父といわれるマルセル・デュシャンも回る作品を作ったので、あえていえばその正統な系譜につながる。回転には楽しさを感じる一方、崩す行為にはネガティブな印象があります。ご自身の漫画作品にも共通して、光と闇の両方の要素が含まれているんでしょうか。

日比野克彦「π=CRTdrawing LANDSEA」(2011年) 東京・三宅島で海へ向かってドローイングする日比野氏

しりあがり 実は両方ともあまりポジティブじゃないですね。回すのも、行く場所がなくていつまでもそこにとどまっている、というイメージがありますから。

小崎 日比野さんは琳派のように豪華絢爛(けんらん)な「六本木アートナイト2015」(4月25~26日)のアーティスティックディレクターを務めます。日比野さんが近年制作した映像作品を見てみましょうか。

日比野 これは東京都三宅島の遠浅の海岸で撮った、陸から海へ100mの絵を描いていく作品。陸上では思うままに描けるけど、水中ではまずウエットスーツを着てタンクを背負わないといけない。特に陸上でも水中でもない際(きわ)は、生物が生きるには大変だと実感しましたね。

日比野克彦「π=CRTdrawing LANDSEA」(2011年)

小崎 なぜ、やってみようと思ったんですか。

■2つの世界を絵でつなぐ

日比野 以前から海中で絵を描くことはやっていました。漁師が海で魚をつかまえるように、僕も何か獲物を捕ってきたいと思ったのが始まりです。この時は2011年6月ですから、(東日本大震災の)津波の問題も意識して、陸と海とを絵でつなげてみようと。陸上の理屈が通用しない環境をあえて選び、そこで何が出てくるか、ということにも興味があったんです。

小崎 偶然か必然か、お二人の作品は共通点がありますね。「陸と海」「崩と回」といった対比があり、どこか震災を思い起こさせもする。しりあがりさんもやはり影響はありますか。

しりあがり 何かが崩れていく感覚は潜在意識にあるかもしれません。最近、世間でも「劣化」という言葉をよく聞きます。本来は自然の重みで崩れていくものを、僕の墨絵は意図的に崩しますが。

小崎 なるほど。話を戻して、お二人の創作と琳派との関係についてお聞きしますが、琳派というものをどうとらえていますか。

しりあがり 強いて言うと、琳派には「面白いことしたれー!」「どやー!」という関西の町民パワーを感じます。そういう感覚を打ち出そうと、僕は漫画原稿に金箔を貼った作品をアートフェア東京で展示しました。

日比野 僕が最初に琳派に出会ったのは美術の教科書で、確か、尾形光琳の「燕子花(かきつばた)図屏風」が表紙でした。光琳の作品はいわゆる絵画というよりデザインのようで、かっこよかった。しりあがりも僕もデザイン科出身ですが、その背景にはこういうビジュアルを生み出したい、という思いがあった気がしますね。

■「燕子花図」はかゆい?

日比野克彦「PRESENT AIRPLANE」(1982年)

しりあがり この絵には「決まった!」っていう瞬間を感じる。1本足したり、色が違ったりするときっと決まらないでしょう。

日比野 右端にちょっとある「かゆい」部分は一回消していると思うけど、決まりすぎて残したんだと思う。すべて安全という無菌状態にならないよう、あえてむずがゆい所を残す美学を感じるね。

小崎 日本特有の美学を考えると、完品(かんぴん)ではない、傷の美学というものがある。例えば、金継ぎは海外では見ないけど、日本ではわざと茶わんを割って継ぐことがあります。

小崎哲哉氏(東京国際フォーラム、東京・有楽町)

日比野 壊れる、崩れる、というその一歩手前。「もののあわれ」とかいろんな言い方が日本にはある。

しりあがり 1や2じゃなくて1.8ぐらいがほしい、というモヤモヤっとした感覚ですね。

小崎 日比野さんは初期に段ボールを使った作品を発表された。その素材も、もののあわれという感覚が強いですね。

日比野 絵画史を振り返ると、フレスコ画も油絵も、何年も輝きを保つために生み出された。だから、段ボール作品の発表当時は「(作品が長く)持たないよね」とよく言われました。実際、10年ぶりに開けると、色あせたり角が丸くなったりしているけど、自分では「お、いい感じになったな」と思うんです。完成時にはない味わいや面白さがある。時間を止めるだけが表現じゃなく、時間に反応するのもありだなと思うんです。

しりあがり寿氏(東京国際フォーラム、東京・有楽町)

小崎 しりあがりさんの「崩れる作品」の美学にも通じますね。一方で、琳派の特徴に「私淑」がある。つまり、光悦や宗達の百年後、彼らと直接つながりのない光琳が琳派を復活させたという背景があります。そういった存在はいますか。

■繰り返さざるを得ない美術史

しりあがり 面識もなく、教わってもいないけど、影響を受けたというのは、僕はやっぱり赤塚不二夫さんですね。

日比野克彦氏(東京国際フォーラム、東京・有楽町)

日比野 つながりが直接なくても続くのは、意図的に技法を受け継ぐのと違って、動物的な本能に近いものですね。DNA内にあるスイッチが入って、やらざるを得ないというような。琳派の前後にはおそらく、その表現が生まれる理由があったのだろうし、今の僕たちも同じ。どれだけ科学や技術が進歩しても、その仕組みは変わらないものだから。

しりあがり 何世代かを経て、また同じ表現を繰り返すということは、人間の表現はそんなに幅広くないのかもしれない。スカートの丈が足より長くならないのと同じように、人間の進化が変わらない限りは、ある範囲で繰り返さざるを得ないような気がします。足がすごい長くなったら、また違うアートが出てくるかもしれないですけどね。

 

登壇者プロフィル
しりあがり寿(しりあがり・ことぶき)
1958年静岡市生まれ。アーティスト、漫画家。81年、多摩美術大学グラフィックデザイン専攻卒業後、キリンビール株式会社に入社。85年、単行本「エレキな春」で漫画家としてデビュー。近年は映像、アートなどにも創作の幅を広げる。主な展覧会として広島市現代美術館「オヤジの世界」(2007年)など。14年、紫綬褒章受章
 
日比野克彦(ひびの・かつひこ)
1958年岐阜生まれ。アーティスト。東京芸術大学大学院修了。2003年「明後日新聞社文化事業部」、07年「種は船造船プロジェクト」、10年「海底探査船美術館プロジェクト」など様々なアートプロジェクトを運営。東京芸術大学先端芸術表現科教授。日本サッカー協会理事。六本木アートナイト2015アーティスティックディレクター
 
小崎哲哉(おざき・てつや)
東京生まれ。ウェブマガジン「REALTOKYO」「REALKYOTO」発行人兼編集長。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。あいちトリエンナーレ2013のパフォーミングアーツ統括プロデューサーを担当。編著書に「続・百年の愚行」ほか

 

[3月22日のNIKKEIアート・プロジェクトセミナー2015・春第1回「琳派はまわる!―時空を超えるアートの力」の内容を再構成]

(構成 生活情報部 柳下朋子)

◎NIKKEI アートプロジェクト
日経電子版では、現代アートの楽しみ方を提案するとともに、同時代のアーティストを側面支援する「NIKKEIアートプロジェクト」を毎年実施しています。2015年春は「アートはまわる!」をテーマに展覧会と関連セミナーを開きました。詳しくは、http://pr.nikkei.com/ART/

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