どん底で誓った理想の投信づくり(藤野英人)

幸い、救済してくれる会社が現れたんですが、実質的な身売りです。レオスの株式を100%手放し、経営権を失った瞬間に役員も外れました。ひふみ投信がそのまま生き残るかどうか分からなかったし、今後どうしようかと悩み苦しみました。どう生きたらいいか、ファンドマネジャーを続けていいのかと。99%やめるつもりで同僚に相談したら、「せっかくいい投資信託をつくろうと、いっていたのに……。もうしばらくやりましょうよ」と涙ながらに訴えられました。

その言葉を聞いてもう一度踏ん張ってみようと考えたんです。それから覚悟を決め、薄給だろうが何だろうが、このひふみ投信を本当にいい投資信託にしようとの思いで、再スタートしました。実は全3250株を1株1円で手放したんですが、振り込まれた3250円をATMから引き出し、いまでも自宅の額に飾ってあります。「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」というやつですよね。

当初はセミナー参加者が4人、秋風がしみる

当時のひふみ投信は69人のお客様で残高が1億5000万円の極小ファンドでした。DLJディレクトSFG証券(現楽天証券)でカスタマーサービス部長を務めた白水(美樹取締役)をスカウトして、二人三脚で直販という新たなスタイルの定着をめざしました。でも最初は厳しかった。よく覚えているのが名古屋でのセミナー。参加者が4人しかおらず、ちょうど秋だったので秋風が身にしみました。

それから7年。いま、ひふみ投信のお客様は約10万人、残高は約500億円になりました。直販向けと金融機関向けがあり、直販の販売手数料はゼロ。信託報酬もアクティブファンドとしては安く設定しています。直販の場合は5年たったら0.2%割引、10年たったら0.4%割引するという「還元セール」もしています。長期で持てば持つほど信託報酬をやすくする仕組みにしているのは日本でこのファンドだけです。

「守りながら増やす」のが運用方針です。具体的には「地味で地道な会社」に投資しています。よく例に出すのが東証2部上場の朝日印刷という会社。知名度はありませんが、毎年5~15%は利益成長しており、株価も10年で約3倍になっています。何の会社かというと医薬品の箱の印刷をしている会社なんです。シェアも非常に高い。薬事法があり、法律に従って印刷するのがめんどくさいので、大手印刷会社はやらないからです。すごい会社ですが、日本にはこういう会社がたくさんあります。

投資の世界、「安心」=「安全」ではない

多くの人はソニーとか三菱重工業とか、日立とかそういう会社に投資すると「安心・安全」だと思っていますよね。でも「安心」=「安全」ではありません。大手はライバルも多く、景気の影響を強く受ける。そうではなくライバルが少なくて景気の影響を強く受けない会社に投資するのが僕らの投資スタイルです。

それがリターンが長期で安定している大きな理由です。3年間の運用成績を評価する「R&Iファンド大賞」では4年連続で大賞(投資信託の国内株式部門)をとりました。およそ500本中3番以内が大賞なんですが、12年の時は1番、13年は2番、14年は1番、今年は2番。成績はこの7年間ですこぶるよく、かつて「カリスマ」と呼ばれた頃より運用成績はいいです(笑)。

有望会社発掘に自ら年100社訪問

有望会社を見つけるため、僕自身で年間100社は回っています。これまで面会した経営者は6000人ぐらいでしょうか。そんなことを繰り返していると、投資先を選別する「法則」みたいなものが浮かんできます。社内でスリッパに履き替える企業への投資は失敗する、超美人の受付嬢がいる会社は問題がある、といった具合です。危険な会社の見分け方などを67の法則にまとめた「スリッパの法則」(PHP研究所刊)という本も書きました。

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ビジネスパーソンの住まいと暮らし
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