ママの仕事、独身に負担かけない 公平な職場作りへ
「働く母親の仕事意識を変えることから始めたい」。LIXILグループの住宅メーカー、LIXIL住宅研究所(東京・江東)人事総務部課長補佐の小森彩子さん(43)はこう話す。
同社は女性の社会進出を支える法令に対応し、出産後も安心して働ける職場環境を築いてきた。しかし、「子どもの発熱といった休みはやむをえないが、週末にできる予防接種を平日に予約して休むママが現れるようになった。職場によって独身の女性、男性社員とママとの間に、目に見えない溝ができ始めた」と小森さん。
小森さん自身、小学校3年生の娘を持つ。子が3歳まで時短勤務だったが、制度に甘えず周りに迷惑をかけない働き方をしてきたつもりだという。社内には育児休業中を含めて8人の若いママ社員がいる。今後、8人を定期的に集め、不要不急の休みを控え、仕事の速度を上げるといった善後策を提案する計画だ。
グループ中核企業のLIXILのダイバーシティ推進室長、成田雅与さんは「ママ社員のパフォーマンスを上げるのは、道半ば」と話す。4月中旬にはグループ7社の社員50人が集まり、皆にとってよりよい働き方は何か話し合った。ママ社員の意識啓発には、いっそう取り組む考えだ。
就業時間に制約があるママと、フルタイムで働くその他の社員との関係に悩む企業は多い。
病時のベビーシッター派遣など、働くママを支援するマザーネット(大阪市)社長の上田理恵子さん(53)は大手企業からこんな相談を受ける。「独身の女性社員から『私にも私生活があります。今日は残業できません』と言われて、管理職がママの仕事を肩代わりする。打開策はないものか」
上田さんは「仕事に対する責任をママ社員が再確認するのはもちろんのこと。さらに管理職は職場全体に不公平感が生まれないよう指示・調整してほしい」と指摘する。
クックジャパンは上司と部下が3カ月に1回の面談を通じ、多様な人材が働きやすい職場をつくる(東京・中野)
不公平感が生まれない職場を目指すには――。米医療機器メーカー、クックメディカルの日本法人クックジャパン(東京・中野)は職場の対話を密にすることで士気を保つ。3カ月に1回、管理職と部下が、各人の生活も話題にした面談をする。ママ社員の仕事と家庭の両立を励まし、時短勤務で責任ある仕事を任せられるか判断する。
経理部の管理職、ファイナンスマネージャーの小川珠実さんは3月、2歳の子を持つ部下の亀井明子さん(37)と面談した。小川さんが「1日7時間の時短勤務でもリーダー業務をこなしているわね」と水を向けると、亀井さんは「チームに貢献できるよう仕事の速度を上げたい」と応じたという。
亀井さんが子どもの急な用事で早退し、独身の部下が仕事の穴埋めをした場合、小川さんはその日のうちに部下に伝える。「あなたの働きを見た。人事考課に反映します」
人手不足で一人の退職が死活問題となる中小企業はどうだろう。宝飾品の製造販売、ベーネユナイテッド(甲府市)の東京支社(東京・中央)で働くママの本橋たかねさん(44)と渡辺紀子さん(38)は独身の女性社員2人への配慮を忘れない。「いつもフォローしてくれてありがとう。あなたたちが結婚・出産となったら、今度は私たちの出番ね」と声をかける。
会社の規模や仕事の内容により、よりよい働き方は異なるだろう。ただ、多様な人材が働きやすい職場をつくるカギとなるのはチーム全員がコミュニケーションを取り、同僚の仕事を肩代わりしたらその働きがすぐ評価される。この点にあるのかもしれない。
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日本能率協会(東京・港)の昨年6月のビジネスパーソン1000人調査によると、子育て・介護などで就業時間の制限を受ける人と一緒に働いたことがある386人のうち、困ったことがあったと答えた人は51%にのぼった。
理由は「突発的な休みが多い」「フォローのために自分の仕事量が増える」などだ。いずれも組織・チームが育児や介護を個人の問題として片付けていると考えられる。同協会の経営・人材センターエキスパート、中島克紀さんは「終わりの見えにくい介護と異なり、育児にかかわる組織の困りごとは働く母親のコミュニケーション能力で少しでも解決できる」と話す。
中島さんが第一に挙げるのは、ママ社員は男性や独身の女性とは出産という出来事を共有できない、理解しあえないという前提で対話すること。子育てと仕事の両立に悩み、イライラして強い口調で話すと逆効果になる。穏やかでゆっくりと抑揚を付けて語りかける「山なりの声」が有効だという。
子どもが熱を出すといった緊急事態があるからこそ、普段は同僚の仕事に目配りしたい。忙しそうだったら手伝う。その積み重ねが緊急時に生きる。職場全体をよく観察してほしい。
(保田井建)