賞の価値から出演ギャラまで…映画業界の大疑問日経エンタテインメント!

テレビ、映画、CM、芸能界…これっていったいどうなっているの。いつも私たちを楽しませてくれるエンタテインメント業界には疑問がいっぱい。そこで日経エンタテインメント!編集部が関係者に直接取材したり、データを集めたりして、独自に調べました。知り合いに話したくなるような情報が盛りだくさん。今回は「映画編」です。

メディア向けの映画紹介コメントや執筆だけでなく、イベントや会見の司会を担当。日々、スターと同じ舞台に立つ「映画パーソナリティー」の伊藤さとりさん。この肩書を思いつき、映画業界に入って20年というベテランに「年に何人のスターに会うの?」「字幕を読むコツは?」「ヒヤヒヤした会見は?」といった疑問を聞いた。

 伊藤さんの回答は【Q1】~【Q8】まで。【Q9】~【Q16】は編集部のリサーチによるもの)

伊藤さとり。映画業界20年のベテラン「映画パーソナリティー」。「映画司会者」の先駆者として活躍中。テレビ番組での映画紹介、執筆業のほか、全国のTSUTAYAの店内放送「WAVE-C3『CINEMA MAG』」では自ら原稿を書き、DJを務める。心理学を学んだ経験を生かし、映画に絡めた心理テストも作成。俳優や監督との対談番組Gyao!X YouTube動画番組『伊藤さとりと映画な仲間たち』を配信中
【Q1】「映画パーソナリティー」ってどんな仕事?
『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』で2015年1月に来日したジョニー・デップと、司会の伊藤氏。目立たないように常に黒いワンピースを着るという。事前の記者会見を彼がドタキャンし、このプレミアにも遅刻。司会の伊藤氏はメディアへの説明に追われた

一言でいうと「映画を紹介する人」です。「淀川長治さんのように映画をテレビで紹介したい」と思い、20年前、横浜のケーブル局に飛び込みでプレゼン。「他の情報番組のリポーターとの掛け持ち」という条件で、自分の映画番組を持てることに…。

それ以来、MC(番組の司会・進行)を務める映画番組では台本も書き、執筆業、テレビへのコメント出演、そして、会見の司会と、映画に関して「伝える」ことなら何でもやります。若い人に「私もなりたい」とよく言われますが、そのためには「コメントを引き出す技術」が必要です。

ハリウッドスターは話し上手な人も多いですが、日本の俳優さんはシャイな人が多くて、会見で口が重くなってしまいがち。でも宣伝スタッフには「ここをPRしてほしい」という期待がある。そこに合うコメントと役者の魅力を引き出すのが私の役目です。また、テレビ向けには動きのある画作り、新聞にはスチル写真用のポーズ、専門誌には内容に深く触れた質問と、各メディアの特徴に合わせて仕切る技術も必須です。

最近は映画パーソナリティーという肩書も浸透し、若い人も出てきていますが、それでもメジャー映画の会見の司会をこなせる人材は、広い業界でも5人程度。“狭き門”といわれています。

【Q2】洋画の字幕を読めるようになるコツは?

「洋画は字幕が嫌い」という声を特に若い人から聞きます。長い文章を目で追うのは疲れますよね。でも実際は、字幕は1秒に4文字、場面上に最大1行14文字×2行と、短文に制限されてます。文字も、実際のせりふを分かりやすい言葉に省略してます。だから情報量は、吹き替えで聴く言葉よりも少ないんです。

吹き替え版もいいですが、字幕だと、耳から外国語を聴くトレーニングにもなります。ただ、法廷ものやSFものなど、専門用語が多いと理解が難しいですよね。ラブコメから始めてみるのはいかがですか。私もそうやって慣れていくうちに、今では字幕を斜め読みしても、十分に内容が理解できるようになりました。

あと、前方の席だと、首を動かして字幕を読まなければならないので、読みづらいですし、首が疲れます。首を正面に向けたまま、字幕が視界に入る位置に座ることをオススメします。

【Q3】映画館にデートで行くと仲良くなれるって本当?
『きみに読む物語』。出演:ライアン・ゴズリング、レイチェル・マクアダムス(ブルーレイ発売中・ハピネット)

映画館は、上映中は薄暗く、閉鎖された空間で感動を共有できます。このような特別な環境なので、カップルで行くと2人の距離が近づくんだと思います。特にオススメは、最近、シネコンに増えているカップルシートです。料金は少しは高いですが、2人だけの空間に浸りやすくデザインされています。

心理学的に、利き手側のほうが、利き手ゆえに油断が出てガードがゆるくなるとされているので、相手の利き手側の横に座りましょう。ポップコーンを一緒に食べて手が触れ合うドキドキを。

見る作品は、『きみに読む物語』や『タイタニック』のような“逆境のラブストーリー”がお薦めです。緊張感を共に味わうと恋愛感情が芽生えるという、いわゆる「つり橋効果」ですね。

【Q4】映画を見ると、人生の役に立つの?

はい、役立ちます。私が人に話を聞く仕事をする上で大切だと思っていることは、私がいなくても、相手がどんどん自分の気持ちを話してくれること。そのためには、相手の心理を理解して、話したくなるような質問をすることです。

私は心理学の学校に通い、人の気持ちを理解する勉強をしましたが、映画からもたくさん人の心理を学びました。例えば、『きみに読む物語』は、階級差などの逆境に打ち勝とうとする男女の心理が分かりますし、『男と女の不都合な真実』は、恋する男女の本音を知る上でとても参考になります。恋愛以外にも犯罪心理や、冒険者の心理など、映画は人間の心理の宝庫。日々の生活で人付き合いに行き詰まったら、映画館に行ってみませんか。

【Q5】プロは年に何本映画を見る?

私の場合、映画の試写会にほぼ毎日行き、DVDで見る分も加えると、年間500本は見ます。でも、それでも足りないです。私は週に5、6回、少なくても週に3回、映画関連イベントの司会をしています。年に約200の新作映画の会見に出ている計算になります。私の担当だけでもそれだけあるのですから、年に500本見たとしても、それはごく一部のメジャーの話題作を見ているにすぎません。日本では年間1000本以上の映画が公開されているので、プロとしては、もっと見たいですね。

【Q6】スターってどこがすごいの?

セルフプロデュースの力ですね。自分に何が求められているかが分かっていて、トム・クルーズ、ウィル・スミス、日本では渡辺謙さん、女優はキャサリン・ゼタ=ジョーンズ、メリル・ストリープ、このクラスは、私がリードしなくても、メディアもファンも喜ぶコメントが次々出てきます(伊藤さんは、会見後にキャサリン・ゼタ=ジョーンズにキスされ、香水と絶大なオーラに魅了されたという…)。

【Q7】わがままなスターはいる?

わがままではないですが、シルベスター・スタローンがレッドカーペットでファンと触れ合って疲れてしまい、会見前に、「もういいだろ」と…。でも、通訳の方と相談して、私が会場のファンに「会いたかったですよね!」と語りかけ、歓声を聞いたら機嫌が直りました。

【Q8】最もヒヤヒヤした出来事は?

会見でたくさんの出演陣に順番にコメントをもらっていて、見えづらい場所にいた大御所の方を飛ばしてしまいました。共演者の方が教えてくれてコメントはもらえましたが、舞台裏で丁重におわび。ご本人は「気にすることないよ」と優しい方で、思わず涙がポロリ。

【Q9】たくさんある映画賞、それぞれの違いは?
(イラスト:松嶌篤志)

日本の映画賞で最も歴史が古く権威があるのが「キネマ旬報ベストテン」だ。映画雑誌『キネマ旬報』が主催する映画賞で、映画評論家や日本映画記者クラブ員など約130人が選出する。1926年から続き、アカデミー賞や世界3大映画祭(ベネチア、カンヌ、ベルリン)より古い。映画通好みの渋めの作品が選ばれやすく、2015年は『そこのみにて光り輝く』が1位だった。続いて歴史が古いのが「毎日映画コンクール」で1946年から開始。以降、50年に東京のスポーツ7紙の映画担当記者が選出する「ブルーリボン賞」が始まり、スポーツ紙ごとに「報知映画賞」が1976年、「日刊スポーツ映画大賞」が1988年、「東京スポーツ映画大賞」が1992年に始まった。

米国のアカデミー賞を見習い、映画関係者で構成されるアカデミー会員約4000人が選出するのが「日本アカデミー賞」だ。やや歴史が浅く、1978年から開始。大手映画会社が製作した話題作が選ばれやすく、2015年は『永遠の0』が最優秀作品賞を受賞した。

海外の映画賞で最も歴史が古く権威があるのが「アカデミー賞」だ。1929年から始まったアメリカで開催される映画賞で、映画関係者で構成されるアカデミー会員約6000人が選出する。アメリカで公開される作品が対象だが、アメリカ映画以外が作品賞を受賞することもある(最近では2012年に作品賞に輝いた『アーティスト』がフランス映画)。近年では独立系映画会社の渋めの作品が選ばれることが多く、今年は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』が作品賞を受賞した。

伝統があり権威も高く、「世界3大映画祭」といわれるのがベネチア国際映画祭(1932年開始)、カンヌ国際映画祭(1946年開始)、ベルリン国際映画祭(1951年開始)だ。アカデミー賞と異なり世界中の映画を対象にし、審査員数名が各賞を選ぶ。特にカンヌ映画祭は世界中からスターや映画関係者が集まり、世界で最も華やかな映画祭だ。

【Q10】ツイッターで人気のハリウッド俳優は?

ツイッターで人気のハリウッド俳優は、男優の1位がアシュトン・カッチャー、2位ジム・キャリー、3位レオナルド・ディカプリオ。女優は1位がジェニファー・ロペス、2位セレーナ・ゴメス、3位デミ・ロヴァート。上位陣の共通点は、日々のツイートの回数が多く、本人ならではの情報を連発することだ。

その特徴が最も顕著なのが、男女各1位、アシュトンと“ジェイロー”の愛称で親しまれているジェニファー・ロペス。アシュトンは、ファンから「ツイッター中毒」と呼ばれるほどツイート好き。仲間にいたずらを仕掛けたり、時に、自殺志願者の女性を説得して救ったり。不特定多数が読むのも構わず私的な連絡に使うことも。

一方のジェイローは、新作の舞台裏を見せたり、自身が展開する衣類&香水ブランドの新作アイテムを紹介したりと、スターのカリスマ感満載のネタでファンを魅了する。

そのほか、絵本作家という意外な一面を持つジム・キャリーは、イラストを掲載。自然保護活動に熱心なディカプリオは動物たちの現状を訴えるツールとして活用している。また、若い女性に圧倒的な支持を得ている女優のセレーナとデミは、女の子らしい日常の一コマがかわいい。

※順位は2015年3月18日現在のSNS(交流サイト)のフォロワー数を基準とした(以下同)。

【Q11】インスタグラムで人気のハリウッド俳優は?

写真や動画を載せて楽しむインスタグラムで、最もフォロー数が多いハリウッド俳優は、男優はケビン・ハート、女優はアリアナ・グランデ。2人のページが人気の理由は、毎日、おすましした写真をアップするだけでなく、移動中の車内や歩きながらなど、空いた時間にも動画や写真を撮影してアップし、ファンとの距離が近いこと。また、女優のほうが着飾った写真を多くアップするため、フォロワー数が多い。

【Q12】フェイスブックで人気の海外俳優は?

「いいね!」の数が多いハリウッド俳優は、1位ヴィン・ディーゼル、2位ウィル・スミス、3位アダム・サンドラー。女優は1位ミーガン・フォックス、2位エマ・ワトソン、3位アシュレイ・ティスデイル。共通点はファンとも気さくにやり取りすること。特に、「いいね!」が9000万以上のヴィンは、コメントも何万件と桁外れで、ファンの反応を読むだけでも楽しい。

【Q13】映画の興行ランキングの数字はどう集計する?

興行通信社が、全国の映画館(一部除く)から毎日送られてくる日計の興行成績(動員と興収)を独自集計するシステムを構築。興行成績ランキングは、新作が公開される土日2日間の成績を集計したもので、日本は動員数の多い順。海外では、動員と興収の数字とともに発表されているが、日本では配給会社から個別発表される数字を除き、作品名のみで数字は一般に公表されていない。

【Q14】レーティングって何?

レーティングは未成年者が映画を見る指標として、業界団体「映画倫理委員会」(映倫)が設定。G(誰でも鑑賞可)、PG12(12歳未満には助言・指導が必要)、R15+(15歳以上が鑑賞可)、R18+(18歳以上が鑑賞可)の4つがある。この名称になったのは2009年だが、G以外の3つが設定されたのは1998年からだ。

『寄生獣』のように人間が殺される描写があるとPG12に指定されやすい。ただし、血しぶきが出るなどの描写がないため、PG12となる。一方、『アメリカン・スナイパー』のように人間が大勢死んだり、血しぶきが出たりするとR15+に指定されやすい。R18+は刺激の強い性愛描写があると指定されやすいが、「成人映画」扱いになるため、一般公開作では少ない。

【Q15】映画のPR活動は出演ギャラとは別?

まず洋画では、主演俳優の来日に伴って開かれるジャパン・プレミアや舞台挨拶、テレビ番組への出演といったPR活動に追加ギャラは発生しない。何千万ドルという出演料に告知活動のギャラも含まれている。最近、ギャラが高いと批判されるハリウッドスター。契約の段階で、ギャラの金額を低めにし、オプションで、興収に応じた歩合にする契約も増えていて、スターたちも、少しでも作品をヒットさせるために、頑張っているのだ。

一方、邦画の場合も、基本的に、舞台挨拶やインタビュー取材など、俳優が映画のヒットのために行うPR活動は作品の出演料に含まれている。ただ、各事務所の方針にもよるが、主にテレビのバラエティー番組へのゲスト出演は、別途、出演ギャラが発生することも。一方、ヘアメイクやスタイリストは、取材やイベントのつどギャラが発生するため、担当する俳優のPR稼働が増えれば増えるほど、ギャラもアップする。

【Q16】土曜公開はなぜ多い?

土曜は一般的に会社や学校が休みになることが多く、大勢の観客を見込めることから映画の公開日は土曜に設定されていることが多い。ただし、近年は金曜公開の作品が増えている。シネコンの普及により夜遅くでも映画を上映しており、金曜の会社帰りに映画を見る観客が増えているからだ。また、アメリカでは金曜公開が多く、日本のハリウッドメジャー映画会社がそれにならっている事情もある。

(ライター 相良智弘、和田隆、安保有希子、日経エンタテインメント! 白倉資大)

[日経エンタテインメント! 2015年5月号の記事を基に再構成]

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