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睡眠

寝てはいけない時間に眠る人々、その傾向と対策

2015/6/2

ナショナルジオグラフィック日本版

 前回、眠ろうとしてもなかなか眠りにくい「睡眠禁止ゾーン」についてご紹介した。体内時計の指令で夕方過ぎに覚醒力が高まり、日中にたまった眠気を一時的に打ち消してくれることで生まれるゴールデンタイム。普段0時頃に寝つく人であれば20時~22時頃、まさにアフターファイブをエンジョイしている時間帯である。ところが、せっかくのゴールデンタイムに寝床に潜り込んだ結果、質の悪い眠りに陥って損をしている人々がいる。今回は代表的な3つのタイプをご紹介しよう。

 まず1番手はおなじみの不眠症の人である。夕食が終わる頃にはまぶたが重い、テレビを見ても集中できない、だるくて横になりたいなど早寝の理由はさまざまである。「睡眠禁止ゾーン」ど真ん中の20時過ぎに、睡眠薬を服用して就床してしまう人も少なくない。

 「睡眠禁止ゾーン」で就床するのは実に効率が悪い寝方である。寝つきに時間がかかり、睡眠薬も効きにくい。たとえ入眠できても睡眠の持続性が悪いので短時間で目が覚める。それも道理で、この時間帯ではまだ脳温も高く交感神経優位であるため、質の良い睡眠がとれるコンディションが仕上がっていないのである。まぶたが重い、横になりたいのは疲労感のためであり、自然な眠気とは異なるのだ。

 実際、臨床研究からも早寝は不眠に対して効果がない、むしろ不眠を悪化させることが明らかになっている。睡眠薬を服用しても「ボーっとした感じ」はあっても眠りに入れない、3、4時間ほどもして薬の作用が薄れてきた頃になってようやく眠りに落ちるなどの訴えをよく聞くが、何のことはない「睡眠禁止ゾーン」のために睡眠薬の効果が打ち消され、生理的な睡眠のプレッシャーが高まる0時過ぎに眠りに入っただけなのだ。

 仮に21時頃に寝ついたとしても、早ければ1時間、長くても数時間ほどで目を覚ましてしまう。その後は朝までの長い夜をウツラウツラして過ごすことになる。この毎晩経験する「辛い時間」こそが不眠恐怖、寝室恐怖を呼んで慢性不眠症に陥る最大の原因である。そのため、最新の不眠治療法である認知行動療法では「睡眠禁止ゾーン」辺りで早寝をするのを禁じ、むしろ生理的な眠気が十分高まる時刻まで就床を我慢する遅寝を勧めている。

普段0時頃に寝つく人(「睡眠禁止ゾーン」が20時~22時)を想定して書いてある。本格的な睡眠に入ることのできる時刻は体内時計で決められている。就床(消灯)時刻を早めても入眠困難や中途覚醒が増えるばかりで効率が良くない眠りになる。逆に、夜型では「睡眠禁止ゾーン」が後方にシフトするため深夜1時でも覚醒度が高くなる

■入院患者は損な寝方をしている

 損な寝方をしている2番手は入院患者さんである。多くの病院では否も応もなく21時に消灯されてしまう。特に若い世代だとそのような早い時間に眠れるわけがない。その上、起床時刻である朝6時までの9時間が実に長い。中高年ともなると1晩の実質的な(脳波上の)睡眠は6~7時間程度なので、ヘタをすると夜中に3時間近くも目を覚ましていることになる。自宅と違ってリビングで一服つけたり、読書をしたりすることもできないので苦しさは倍増である。

 実際、入院中に不眠が悪化して睡眠薬の服用を始めてしまう患者さんはとても多い。ということで、入院患者さんは損な寝方をさせられている被害者と呼ぶ方が正しい。

 少し高級な個人病院などでは個室が多く、消灯時刻もかなり融通がきくようだが、大学病院や公的病院などでは、消灯時間の変更は労務管理にも関わるためなかなか難しい。知り合いの医学部教授は私の講演を聴いた後に病院の消灯時刻を1時間遅くしてはどうかと病棟師長に交渉したものの、10分ほどお小言をいただいて早々に退散したと教えてくれた。患者さんのためにもう少し柔軟な発想を持ってもいいのにね。

 さて、3番手は夜型の人である。これまで「睡眠禁止ゾーン」は20時~22時頃と書いてきたが、冒頭でも書いたように「普段0時頃に寝つく人」の場合である。実は個人差がかなり大きい。以前私たちが行った測定では、わずか100人程度の体内時計時刻ですら7時間もの開きがみられた。そのため「睡眠禁止ゾーン」も強い朝型の人では18時~20時辺り、強い夜型の人では深夜1時~3時辺りと大きな開きが生じる。一般的には眠気が強まる深夜でも夜型の人は目がパッチリし、むしろ仕事や勉強の能率が上がってしまう理由もお分かりいただけると思う。

 夜型の人の中には、20代から寝つきが悪く不眠症と誤診されて睡眠薬を服用している人がいる。このタイプの入眠困難には睡眠薬が効きにくいことは先に説明した通りである。夜型による不眠の見分け方は比較的簡単。寝つきは悪くてもいったん寝つくと爆睡する。週末に夜更かしして昼頃まで寝坊しているのは、ほぼ夜型。早寝ができるようになるには「睡眠禁止ゾーン」を前倒しにしなくてはならない。

無理に入ると損しますよっ!(イラスト:三島由美子)

■損をしないように早寝をするには

 ではどうするか。近道は週末の寝坊を止めることである。平日に早起きをして通勤や通学時に朝日を浴びていると徐々に体内時計=「睡眠禁止ゾーン」が早まり寝つきが良くなるのだが、週末に寝坊をすると一気に逆戻りしてしまう。少なくとも3週間は寝坊をせずに過ごせば体内時計は平日の起床時刻に合わせて安定化してくる。そして寝つける時刻も標準的な時間帯に近づいてくる。

 週末の寝だめをしないと当初は寝不足感が強いが、それは昼寝で補うようにしてほしい。休日もいったん目を覚まして起床からの6時間(体内時計を朝方にシフトする時間帯)は自然光を積極的に浴びる。そして必要ならばその後に20~30分程度の短い昼寝をするのがベストなやり方である。

 最後に、同じ夜型でも少し変わったケースを紹介しよう。子供の夜型である。注意欠陥多動性障害ADHDの子供さんの中には就床抵抗が強い(寝床に入るのを嫌がる)タイプがいる。従来は睡眠障害で一くくりにされていたが、夜型が原因の一つであることが分かってきた。同じADHD児でも寝つきのよい児童に比べて寝つきの悪い児童では体内時計の時刻が遅れていたのだ。結果的に、母親は「睡眠禁止ゾーン」で必死に寝かしつけようとし、子供は必死に抵抗するというバトルを繰り返していた。

 寝つきの悪い子供の母親に限って早寝をさせることに躍起になってしまうことがある。夜の親子げんかは子供の興奮を高めるばかりだし、睡眠薬も無効である。このようなケースでは光やメラトニンを使って体内時計を調整してやる方が効果的なのだが、残念なことに親も医療者も睡眠リズムの問題として認識していないことが多い。

 ほかにも、やたらと早寝を強いられて夜間徘徊(はいかい)が悪化している認知症の高齢者や、不眠や眠気に悩む早出・遅出・深夜勤務者など、「睡眠禁止ゾーン」と生活スケジュールのミスマッチのために眠りに苦労している人々は少なくない。私たちは個人の「睡眠禁止ゾーン」を簡単に調べる方法の開発に取り組んでいるが、その成果は別の機会にご紹介したい。

    三島和夫氏
三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。これまで睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2015年4月16日付の記事を基に再構成]

8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識

著者:川端 裕人, 三島 和夫
出版:日経BP社
価格:1,512円(税込み)

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