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相撲・下町… 外国人観光客に学ぶ、通な日本の歩き方

2015/5/1

年々増え続ける外国人観光客。京都の寺院、銀座や秋葉原のショッピングなど、定番の「観光地」には多くの旅行者が押し寄せる。しかしメジャーなスポットだけではなく、自分なりの旅を楽しむ人もいる。彼らに話を聞いてみると、意外な発見に気づかされる。
窓ガラス越しに朝稽古の様子を見学する外国人観光客(東京都中央区)

■The only one

東京・日本橋浜町。大通りから少し入った所に早朝から外国人が集まる場所がある。彼らの視線の先では、力士たちが朝稽古の真っ最中だ。体が激しくぶつかり合う音が通りまで響く。13年前、この地に部屋を構えた「荒汐部屋」。近所の人に気軽にのぞいてもらえるようにと、親方(元小結大豊)の発案で大きめの窓を設置した。いつしか外国人観光客が訪れるようになり、多い日は40人近くになることも。写真や動画を撮影する人もいるが、稽古の緊張感に包まれたかのように窓に張り付いている。

「空手や柔道は欧州でも見られるが、相撲は日本でしか生で見られない」。食い入るように1時間ほど見学したスペイン人のエスターさんは、相撲は日本の文化を象徴しているという。イギリス人のケイティーさんは、「個人競技なのに大勢で一緒に練習をしている。そこが他のスポーツと違う」と新鮮に映るらしい。「規律を重んじ互いを尊重し合うところが印象的」とも。この日、海外からの来客を案内するため、下見に訪れたという外資系企業の会社員の姿もあった。

丁寧に土俵の砂を集め円すいの山をつくり、御幣を立て塩を盛る

外国人観光客の多くは宿泊先のホテルや友人からの口コミで訪れる。またネット検索で荒汐部屋の英語のウェブサイトにたどり着き事前に情報を入手してくる人も。丁寧な英語で見学時のルールなどが詳細に説明してある。大半が欧州からで、全力でぶつかり合い、時に一瞬で勝負がつく取組に興味津々のようだ。

「力士が観光客と触れあうのはとても良いこと」。部屋のおかみさんは、「力士たちは海外の人にも関心を持ってもらえる立場にいるという事を認識し、誇りを持てるようになる」と歓迎する。もちろん稽古中は脇目を振らないが、終われば一緒に記念撮影に応じるなど、コミュニケーションをとるのも慣れてきた様子だ。

稽古が終わり土俵に残った若手力士が丁寧にほうきで掃く姿があった。砂を徐々に中央にまとめ円すいの山を作る。大きな体をすくめて表面を滑らかにすると、周りを五角形に飾った。そこに御幣(ごへい)を立て、塩を盛り三方にまく。土俵を清め守る伝統が引き継がれている。テレビの大相撲中継では見られない光景だ。単なるスポーツではなく、日本独自の文化や風習を垣間見ることができる点が外国人にとっては魅力なようだ。

国技館へ足を運ぶのもいいが、少し早起きして相撲部屋の朝稽古で背筋を伸ばしてみるのも悪くない。

コロッケを片手に食べ歩きをするスペイン人夫婦(東京都台東区)

■Yanaka lifestyle

商店街を歩くと総菜の香ばしい香りや威勢の良い八百屋の掛け声が響く。日本人なら誰もが懐かしく感じる光景だ。しかし最近はこういった下町情緒を楽しむのは日本人だけではないようだ。

東京のJR日暮里駅から歩いて5分ほどにある「谷中銀座商店街」。そば屋、カフェ、精肉店、雑貨店など様々な業種約70店舗が全長170メートルほどの通りに軒を連ねる。野良猫がたくさんいることで有名だ。しかし歩いていると猫よりも目立つのは外国人観光客の多さだ。フランス、スペイン、スイス、米国、タイ、中国など国籍は様々。本来は庶民の暮らしを支える商店街だが、国際色豊かな観光スポットに変わりつつある街、谷中の魅力を聞いてみた。

コロッケを片手に食べ歩きをするのはハネムーンでスペインから来たアイナ・アーボイさん(29)とジョセフ・カプデイラさん(35)。京都、金沢、白川郷などを観光し、最終日に谷中銀座商店街を訪れた。ハネムーンで普通の商店街?と疑問を投げかけると、「日本人の日常のライフスタイルを見てみたかったの」。路地裏に干されている布団や洗濯物など、生活感あふれる光景が彼らには新鮮らしい。2人並んで記念写真を撮ると「人の多い渋谷や秋葉原は一度行けばいい。ここは静かで心地良い。コロッケもおいしいしね」と口をそろえる。

しかし東京に住んでいてもあまり訪れる機会がない谷中。有名な浅草や鎌倉ではなく、外国人旅行者はどうやってマイナーな下町の商店街を見つけてくるのだろう。「野良猫がたくさんいるってガイドブックに書いてあったの」と教えてくれたのはスイスから来た猫好きのウルスラ・エンゲルマンさん(67)とスザンヌ・マイヤーさん(66)姉妹。彼女らが見せてくれたドイツ語のガイドブックには、猫の写真付きで「谷根千エリア」(東京都台東区と文京区にまたがる谷中、根津、千駄木周辺)が紹介されていた。「スイスにはこんなに効率良く商店と住宅がコンパクトに納まっている場所はない。銀座も好きだけど谷中こそ日本の良さがにじみ出ていると思う」。軒先を彩る植木鉢の花や新緑に目を移しながら、さらに路地裏へと進んで行った。

路地裏で野良猫を探すスイス人姉妹

店先にビールケースで簡易なイスを作り、生ビールや日本酒を提供する越後屋酒店。15席ほどあるイスが全員外国人で埋まってしまうこともあるという。10年ほど前から欧米人が来るようになり、最近は中国人も増えてきた。1日50人ぐらいの外国人が来店するが「酔って大騒ぎするわけでもなく皆さん静かに飲んでいます」と歓迎する。

「ここまで国際色豊かににぎわうと思ってもみなかった」と驚くのは商店街から徒歩1分にある「アネックス勝太郎旅館」の荒川長二郎さん。今では宿泊客の9割は外国人だという。旅慣れた外国人観光客は旅行サイトの口コミなどを徹底的に調べてくる。山手線内でアクセスが良く、有名な観光地では飽きたらず谷中に足を運んで来るようだ。「我々には何でもない風景だが、日本人の飾らない素の部分が見えるところが魅力のようです」

白を基調にしたゲストハウス「Kokuu(コクウ)」でくつろぐデンマーク人の宿泊客(和歌山県高野町)

■Simple and functional

密教の聖地、高野山(和歌山県高野町)が今年開創1200年を迎えた。5月21日まで毎日法会(ほうえ)が行われ、多くの参拝者が訪れている。

山内は樹齢数百年の木々が生い茂り、厳かな雰囲気。澄んだ空気の下、大勢の僧侶が行き来し、読経が響く。歴史と伝統を誇る現代の宗教都市は、外国人も引き付ける。

2年半前、高野山らしからぬデザインの施設が登場した。外国人のバックパッカーなどから人気を集めるゲストハウス(簡易宿泊施設)「Kokuu」だ。外観はシックなグレーで、ドアを開けると白を基調に統一されている。決して広いとは言えない空間に、カプセル型の客室やシャワールームなどが効率よく配置してある。デンマークから訪れたマイケル・スタベル(44)さんは「寺院だけでなく、この宿に泊まるのも高野山での目的の一つ。自然光を取り入れたデザインが魅力」と満足そうだ。

オーナーの高井良知さん(37)は「宿泊者の8割が外国人ですが、日本人の方も気兼ねなくどうぞ」と歓迎する。料金は1泊3500円から。朝の勤行や写経などが体験できる宿坊はハードルが高いと感じる人もおり、誰でも気軽に泊まれる場所を作ろうとしたのがきっかけだ。

外国人宿泊者には近くの宿坊が実施する、奥之院(おくのいん)のナイトツアーを紹介している。灯籠の明かりの中、約1時間かけて参道を歩く。僧侶から英語で密教の教えなどを聞くことができると好評だ。「ただ観光地を見て回るだけでなく、そこで暮らす人とコミュニケーションを楽しむことが旅の一つの目的でもあるようです」(僧侶)。

萬燈会(まんどうえ)が行われる奥之院燈籠(とうろう)堂に向かう僧侶ら

「シンプルがいいね」。日本の国土は決して広くはないが、その空間をうまく利用し「様々なものがコンパクトで機能的に配置されている」と、ある外国人宿泊者は日本の旅の中で感じたという。

急ごしらえの「おもてなし」ではなく、私たちの日常の中にも、十分に魅力的で発信力のある「日本」があるようだ。渋滞や人混みを避けて、身近な日本を再発見する旅もいいかもしれない。

(写真部 澤井慎也、山本博文、井口和歌子)

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